二一八話
「もしもし?」
寮から離れて周りに誰もいない。
そんな時に都合よく電話が鳴る。
相手が誰なのか確認すると母親だった。
『レアー?今、大丈夫?』
「大丈夫だけど、どうしたんですか?」
母親の質問にレアーは何があったのかと聞き返す。
予想はしているが父親に既に電話がかかってくると伝えられていたことは言わない。
あまり自分の行動を想像通りにしか動いていないと思われるのは嫌だった。
『あなたの友達、幼いころクラスメイトを集団で暴力を振るっていたらしいわ。仲良くなるのは止めておきなさい』
「知っていますよ。その対象が私だと言うことも」
『え……』
予想通りの内容にレアーは苦笑する。
そんなことは初めて会った日から覚えていた。
『もしかしてお父さんから聞いたの?』
そうなら最初から言えと自分の夫を睨む母親。
気付いているか、気付いていないかどちらか分からないと言っていたが嘘じゃないかと睨む。
「ううん。初日で顔を見たことと悪夢でうなされていたので確信しました。ずっと前にお父さんが私に理不尽に暴力を振るった者は全員悪夢を見せているって聞いたことがありますし」
だから気付いていたという娘の言葉に母親は父親を見る。
『な…?』
『レアーが貴方が悪夢を見せているって教えてたって言っていたけど?』
『………?そ……え…。……かり……れ…た』
電話越しでは父親が何を言っているのか聞こえていないが何となく想像がつく。
悪夢を見せていることを忘れていたのだろう。
レアーはそのことにため息を吐く。
かなり前のことだとはいえ呪いを掛けたくせに忘れているのは、どうかと思う。
「忘れていたみたいですね……。それとお母さん、お父さんに感謝しているって言ってくれない?」
『急にどうしたの?』
忘れていたという意見に母親は同意して何で急に感謝という言葉が出てきたのか理解できずに首を傾げてしまう。
「おかげで、あの女の苦しむ顔がまじかに見える……!」
その声色に母親は夫を見る。
何となく恍惚とした表情を浮かべているのが想像できてしまう。
そして他人の苦しむ顔を見て、そんな表情を浮かべることに血のつながりは無いが夫の娘だと認識する。
なお自分の影響は受けているとは思っていない。
『そ……そう』
「うん!それに首に手を掛けたら更に苦しむのが最高ですね!」
母親は娘の言葉に相当恨んでいると理解する。
なら好機だと理解して感謝するのも納得していた。
「今度また帰らせてもらいますね!前はライクがいたから確認することが出来なかったけど、他の者たちの悪夢がどうなっているのか知りたいので!」
『そう……。楽しみにしているわね』
現在の呪いを掛けられた者たちのことについて一番詳しいのは夫だ。
母親である自分達よりも父親が理由で帰ってくるのは少し嫌だった。
自分達にも甘えて欲しいと母親は考える。
『ねぇ。その日、話が終わったら久しぶりに親子でどこか行かない?ケーキでも何でも奢って上げるわ』
「良いんですか!?ならお母さんたち二人と一緒にケーキバイキングにでも行きませんか!?」
『お母さんたち二人ってお父さんは良いの?』
「ダメでしょうか?久しぶりに女だけで出掛けようと思ったんですけど……」
『ううん!構わないわ!それじゃあお父さんを置いて買い物に行きましょう!』
娘の残念そうな声に即座に母親は否定する。
久しぶりに娘と買い物に行けることにテンションが上がってしまった。
まだ愛人である子には聞いていないが一緒に来てくれるように頼むつもりだ。
『それじゃあ勉強を頑張るのよ』
「うん!それじゃあ、また連絡をしますね!」
いつの日にするか決まっていないが自分と愛人、そして娘の約束が重なるように予定が重ならない様に今から準備しようと考えていた。
「良かったですね」
そんな妻に夫は声を掛ける。
嫉妬かと思い羨ましいだろうと自慢しようと思うが夫は優しい笑みを浮かべていた。
「何時でも大丈夫ですから楽しんでくださいね?その分の仕事は頑張りますので」
想定内だと自分を見てくる夫の瞳に何も言えなくなった。
その瞳に腹が立つ。
いつもいつも夫の掌の中にいる気分だ。
そして同時に自分が支配されているようで気分が良くなってしまう。
きっとそれは愛人である女も同じ気分かもしれない。
何をやっても想定内だということは理解されているということだろう。
そのことが矛盾した気持ちを抱かせる。
自分はこの程度だと思われていることが腹立たしくて、自分ならこう考えると理解してくれているのが嬉しい。
「そういえばレア―がらみで悪夢を掛けた相手って今はどうなっているの?」
考えていことを振り払うためでもあるが、何となくレアーを傷つけた他の子たちはどうなっているのか知りたくなった。
きっと他の者たちも同じ目に遭っているのだろうと想像する。
「レアーを虐めていたクラスメイト達は将来の夢は医者か教師になることに固定したことと死ぬまで一生悪夢を見ること。担任の教師は職場の者たちに自分のしたことを悪夢として見せる呪いを掛けましたよ。あと本人も一生悪夢を見ます」
「「……………」」
将来の夢が奪われてざまぁ、とも思うしやり過ぎなんじゃないかと少しだけ考えてしまう。
だけど将来は絶対にレアーを虐めていた者たちが働いている学校や病院に子供は連れて行きたくないと思った。




