二一四話
「娘の学校の様子とかも聞きたいですし、また来てくださいね。教えてくれれば割引もしますよ」
「お父さん!!」
結局、レアーの父親を崇拝しているらしき者は来なかったがライクは満足した。
レアーの学校生活さえ話せば割引にしてくれるから有難くまた来ようと思う。
出された料理も美味しいし他の友人も連れて来ようと考える。
「勉強、頑張りなさい。疲れたら、また来ても良いから」
レアーは疲れているのは母親が自分の写真を見せようとしたからだと睨む。
本当に恥ずかしいから止めて欲しい。
「美味しかったです!また来ます!」
ライクは正直に感想を言って喫茶店に去っていく。
そしてレアーは先に行ったライクを追って育ての親たちの前から走り去っていく。
母親はそんなレアーを微笑ましく思い、父親は将来どんな関係になるのか楽しみに思っていた。
「ねぇ?」
「………どうしました?」
メイド服のことなど色々とバレて恥ずかして顔を真っ赤にしたレアーにライクは声を掛ける。
どうしても気になったことがあった。
「医療関係の道を歩むって言ってたけど、喫茶店を継ぐ気は無いの?」
「…………正直、迷ってはいます。ただ、医療技術も学んでいた方が後々役に立つかもしれないから力を入れているだけで」
迷っているという言葉に納得する。
それに医療技術を学んでおけば役に立つかもしれないということにもだ。
それに喫茶店の経営についても最悪は両親に学べば良かった。
「ふぅん。喫茶店を継ぐとなったらメイド喫茶になるのかしら?」
「………しませんよ」
「昔はノリノリで着ていたのに?」
「止めて……」
ニヤニヤと笑ってからかうライク。
レアーは顔を赤くして隠してしまう。
「でも喫茶店を継ぐとなったら教えてよ。私も食べてみたいし」
「うん……」
ライクの言葉にレアーは顔を赤くしながらも頷いていた。
「………そういえば優しそうだったけど、どこが酷い者なの?愛人がいるって聞いたから警戒していたけど思ったほどヤバイ者じゃなかったし……。いや崇拝者がいるという意味ではヤバイけど……」
そういえばとライクの疑問にレアーは父親の酷いことを思い出して身体が震える。
顔も青褪めておりライクは本気で怯えているのだと理解する。
そして、その内容が詳しく知りたくて踏み込む。
「ねぇ、教えてもらって良い?」
「お父さんはね……。学生時代、単純な実力だけで崇拝者を生み出してしまうぐらい強かったらしいの……」
単純な実力だけで崇拝者を生み出したと聞いて真顔になるライク。
好感を抱くのは理解できるが崇拝者の域までは普通は行かない。
それだけ強いのだと何とか理解しようとする。
「私も鍛えて貰ったんだけど、お父さんが強すぎるせいでナチュラルに求められる水準が高すぎるんですよ……!!」
血反吐を吐きそうな表情でそう言うレアーにライクも納得する。
実力差があり過ぎるせいで求められる水準が高くなりすぎたりするというのは、よく聞く話だ。
「もう終わらない筋トレは嫌だ……。何度も投げ飛ばさないで………。痛い方が覚えるからって何で一々叩くの……!?」
「レアー……?」
レアーの様子にライクは心配して声を掛けてしまう。
気になって質問したが聞いたことに悪いことをした気分になっていた。
終わらない筋トレって聞くだけで辛そうだった。
「ねぇ、貴女も一緒に参加しますか?鍛えてくれって頼めば強くしてくれると思いますよ……。かなり辛いですし自身が折れたりしますけど」
「止めとくわ」
嫌な気配がしてライクは即否定する。
そもそもライクはそこまで強くなることに興味はない。
将来の夢が医術関係だから、むしろ必要なのは勉強の方だ。
「残念ですね……。私には女の子だから自衛のためにもと叩き込まれましたのに……。そのせいでお父さんには絶対に勝てないと刻み込まれてしまったけど」
うわぁ、とドン引きしてしまうライク。
母親や愛人に止められなかったのかと考え、愛人は崇拝しているから止めなかったのだろうと考え直す。
「お母さんたちも泣いていましたしねぇ。恋人だった時から訓練を課して泣いていたのに何で止めなかったんですか……?お母さんも何で結婚を決めたの?」
どうやら母親も訓練に参加して泣いていたことにライクは色々と驚く。
本当に、それなのに何で結婚したのか疑問を持つ。
「………ところで愛人さんはどんな者なの?」
この話を変えようとライクは愛人について質問する。
結局、会っていないのだから気になってしまってしょうがない。
レアーの父親に崇拝しているという情報が興味を忘れさせない。
「献身的なマゾでしょうか……」
「…………」
父親もヤバいけど、愛人もヤバかった。
マトモなのは母親だけかと思ったが受け入れている時点でマトモじゃないとライクは考え直す。
そして、そんな家族と一緒に暮らしているレアーもマトモのはずが無いんじゃないかと考える。
少しだけ一緒の寮の部屋に住んでいることに恐怖を覚えた。




