二〇九話
「着てもらうメイド服を決まったので作ってもらえますか?」
「分かりましたよ。決まったメイド服を見せてください」
とある服屋に事務員は入り開口一番にそんなことを言うが、相手も特に不快に思わずに話を進めていく。
他に客がいないのもあるお陰だろう。
「黒を基調としたメイド服か……。汚れても良いようにからか?」
「仕事着ですからね。それと同じのを何着か作ってください」
同じ服を何着も作るよりは他にも違うデザインの服を作った方が楽しい。
他のデザインもあるから、それは作っちゃダメなのか疑問だ。
「何着も作るなら他のデザインの服も作っちゃダメなのか?」
「ダメです。他のデザインのメイド服は頑張ったご褒美としてプレゼントするつもりなので」
仕事着でもオシャレを楽しみたいのなら仕事を頑張ってからだという事務員に服屋も納得する。
そもそも普通は仕事着でオシャレなんて出来ない。
ある意味、当然といえば当然だ。
それでも確認したのは着る相手が幼い女の子だからだろう。
「そうか。ところでお前のところの他の女子もメイド服を着るのか?」
「?いつも通りマントで良いでしょう?」
事務員の言葉に服屋の主人はため息を吐き、そして店の奥から出てきた奥さんも呆れたような視線を事務員に向けていた。
「マントだけじゃなくて何か仕事着としての服を送りなさいよ。服を新しく作って送るのが幼い女の子だけだなんてロリコンだと思われるわよ」
そして奥さんも事務員に苦言する。
事務員はそんなことでロリコンだと思われるかと信じられない気持ちになりながら主人にも視線を送るが頷かれてしまう。
それでようやくセイナとエマにも服を送ることを決める。
「………それじゃあ、どんな服を送れば良いですかね?流石に事務所にメイドがいるのは違和感なんですが?」
「幼い女の子にさせているんだから今更よ。メイドになりたいかはともかく可愛い服だから着たいと思う女の子は多いから渡してみなさい?」
奥さんの助言に事務員も頷く。
同じ女性だから考えていることも納得できる。
「………わかりました。それじゃあ二人の分のメイド服も頼みますね。といってもサイズは知りませんから後になりますけど」
「大丈夫よ。サイズについては私も良く知っているから」
事務員の言葉に満足したのか奥さんは笑顔を浮かべ、それだけを言って店の奥に引っ込む。
おそらくは服のデザインを考えにいったのだろう。
「あぁ~。取り敢えず一週間後にまた来てくれ。そのぐらいになったら必要な分のメイド服も出来ているだろうし」
「分かりました。それじゃあ一週間後」
「おう。それとお金の方だが今回も無料で良いからな。お金が気になるなら、うちのデザインの服を着て見せてくれれば良い」
服屋の主人の言葉に有難いが、本当にそれだけで良いのか不安になってしまう。
だけど服屋の主人たちにとっては当然のことだ。
事務員のおかげで復讐を成すことが出来た。
そして警察にもバレておらず怪しまれてもいない。
それが事務員のお陰だから出来る限り配慮する。
「ちゃんとお金を稼いでいるんですか……?」
「当然!それにこんなことをするのはお前さんだけだ!遠慮なく貰ってくれれば良い!」
復讐相談事務所に来て珍しく復讐だけを成功し反撃もあっていない相手だからこそ、ここまで好感を抱かれているのだろうなと事務員は予想する。
他の反撃された復讐者だったら好感を抱かれていないはずだ。
だが事務員としては好感を抱かれていても、その好意のせいで復讐を推奨させる行為を止めようとしているんじゃないかと不安になる。
そうならないように言えない様に様子を見ていた。
「わかりました。それじゃあ今度、とりあえずイラという名前の幼い女の子を連れてきますね。ついでにその場でメイド服を着てもらいましょう」
「それは良いな!」
その場で試しに着て貰るのなら多少のズレもチェックできるから有難かった。
新しい子がどんな子なのか気になる。
「事前に言っておきますけどイラは魔眼を持っていますからね?眼鏡やサングラスを付けていても外さないで下さいね?」
「は……?」
魔眼を持っていると聞いて何となく、その幼い女の子の境遇を想像してしまう。
その内容は悲惨なもので捨てられたのだと予想してしまった。
「そうか……。気を付ける。お前も魔眼の影響を受けたからって捨てるなよ」
「当然ですよ。それに、あの程度の魔眼では影響何て受けませんし」
「………」
事務員の言葉に相変わらず規格外だと呆れる服屋の主人。
何が出来て出来ないのか、さっぱり理解できない。
しかも今は出来ていないだけで、いつの間にか出来るようになってもおかしくないと思っている。
そして願わくば復讐を推奨する行為も幼い女の子を育てている中で考え直して欲しいと思う。
親の責任として子供に罰が下されることもあるのだから。
たしかに服屋の主人たちは事務所の力を借りて復讐をしたから止める資格は無いが、それでも事務員が復讐の協力することをいつかは止めて欲しいと祈っていた。




