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二話

「ふぅ」


 誰にも見つからないように隠れて少女は帰路に着く。

 身に着けているマントは黒く夜闇に紛れて見つかりにくい。

 それだけでなく魔法を使って認識されにくいお陰で警察にも怪しまれて事情聴取を受けることが無くなる。

 何よりも煩わしいナンパもされなくなる。


「今日も疲れたわね」


 部屋の中に入って少女はベッドに倒れ込む。

 殺人相談事務所では意外と掃除する物が多い。

 殺すときに使う道具も偶に購入して貸し出すこともあり、終わった後に処分のために渡しにくる依頼人もいる。

 それをまた貸し出すということもある。

 それらの道具が多いのだ。


「それにしても………」


 店員の僅かに見えた険呑な光を宿した眼を思い出して顔を赤くする。

 あの確実に自分の命が握られている感覚にゾクゾクと震えてしまうのだ。

 他にも働いている者がいるが自分だけが正体を知っているということに他の働いている者に優越感を覚えてしまう。

 ちなみに店員は一人だけで他はアルバイトという形になっており、金払いもかなり良い。

 ただし金払いの良い条件として正体がバレるようなことをすると、その日の分の給料が無くなってしまう。

 中には殺されて臓器販売された者もいるという噂だ。


「はぁ。普段からもっと関わりたいなぁ」


 それでも、と少女はあの相談所から離れる気はない。

 むしろ店員の手で自ら殺されるのならご褒美だとすら考えていた。

 殺されないように行動しているのは、ただ単にその方が店員といられるという理由だけ。

 自分だけを見てくれると言うなら殺されるのも悪くないと考えている。


「レイちゃん?帰ってきたの?」


「あっ、お母さん」


 部屋の中へと声を掛けてくる母親に少女はドアを開けて迎え入れる。

 帰ってきたのは自分だと示すためだ。

 家の中に入ったときに声を掛ければ良いと思うかもしれないが怪しい誰だか分からないマントを着けて家の中に堂々と入る方がヤバイ。

 それに認識されなくなるのはマントを着ている本人だけでドアを開けたりしたら勝手にドアが開いたと幽霊騒ぎになりかねない。


「いつものことだとはいえ、帰ってきたら教えてくれれば良いのに……」


「あはは。ごめんなさい」


「………それにしても好きな男の子が出来たなら連れてくれば良いのに」


「う……」


 レイは誰にも言ってないのに何でバレたんだと身を固くさせる。

 流石、母親というべきか隠し事が出来ないと落ち込む。


「別に好きな男の子と一緒にいたいからと遅くなっても文句は言わないから、招待してね。お父さんにも黙ってあげるから」


「まだ恋人じゃないし……」


 レイの反論に本当に好きな男の子がいるのかとニンマリと笑う。

 ナンパされているところをよく見かける可愛い我が娘が好きな相手が出来たと安心する。

 我が娘だからこそ見る目があると思っていた。


「別にいつも遅くなっているのは、あいつと一緒にいるからではないし」


「バイトが一緒なのね?」


「もう出て行ってよ!」


 レイの言葉にバイト先が娘が好きな子と一緒なのに母親は気づく。

 そしてこれ以上聞かれたくないと部屋から追い出された。





「なんでバレているのよ……」


 母親に好きな人がいることがバレていることにレイは頭を抱えてしまう。

 普段通りに生活していたのに分かった理由が謎だ。

 ベッドに倒れて見悶えてしまう。


「明日も学校でも会うのに……」


 このままでは学校でも出会ったら顔を赤くしてしまう。

 ただでさえ毎日の様に惚れた姿を思い出してしまうのだ。

 強さは美しさだという言葉を何度でも理解してしまう。


「…………顔を見ても赤くしないように落ち着かないと」


 他のアルバイトにはレイが店員の正体を知っていることは知れ渡っている。

 そして惚れていることにもだ。

 顔を隠していない店員の前で顔を赤くしたらバレてしまう。

 そこまで考えてレイは顔を青くする。


『君のせいでバレたのか。………消すか』


 ハッキリとバレた原因が自分だった場合の店員の言葉が想像できてしまっていた。

 この消すが命をなのか記憶に関してなのか、当たり前のように消せると思ってしまう。

 命を消すのなら、まだ良い。

 だが記憶を消されるとなるとレイは命を失う以上に絶望を覚えてしまう。


 店員なら誰にも気づかせずにやれる。

 あの誰にも気づかせないマントさえあれば殺すのは容易いだろう。

 今も気づいていないだけで近くにいるのかもしれない。

 そう考えただけでゾクゾクと身体を震わせてしまっていた。




「はぁ……。本当に好きな子がいることを隠すつもりなのかしら?」


 母親はレイの部屋から出た後に聞こえる音にため息を吐く。

 自分も好きな相手が出来てからは同じことをしていた。

 それまでは一切興味が無かったのに。

 スタイルは平均だが顔は良いから男の子を落とすのに、たいして苦労はしないはずだと考えている。


「どうしたんだ?」


「いいえ、何も」


 起こしてしまった夫に娘に宣言したように何でもないと誤魔化す。

 可愛がっていた娘に急に男が出来たと知ったら、どんな反応をするのか想像ができない。

 母親としては初めて娘が好きになった男の子に興味があるから家に連れてきてほしい。

 どうしようもない相手だったら夫と協力して別れさせようとは思っているが。


「………そうか。それにしても何でレイはこんなに遅いんだ。もっと早く帰れるように注意するべきか?」


 どうやら娘が帰ってきていたことを察したらしい。

 同時に娘の邪魔をしないように釘を刺す。


「別に良いじゃない。これも経験よ」


「………否定はしないけど、何かあったらでは遅いだろ」


「そのために色々と準備もしてもらっているみたいだし、今は見守りましょう」


 事件なんて、そう起きるものではないとレイの母親は油断をしていた。

 そして、それで納得した父親も同じだった。

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