一九一話
「ぷくくっ」
アウルが教室から逃げたのを確認して教師は思わず笑ってしまう。
自分を見て子供たちも笑い、怒られないということは悪いことはしていないのだと思ってしまう。
教師はそれを察しても、むしろ好都合だと矯正するつもりはない。
「馬鹿だなぁ……。教室にはカバンとかあるから戻らなくちゃいけないのに……」
毎日、持って帰らなければいけないカバンなどを置いて行ったアウルを嘲笑う。
そのせいで逃げたとしても絶対に戻らなくてはいけないのだ。
アウルを虐めるチャンスはまだまだある。
「戻ってきたらアウルに嫌がらせをするか」
その光景を脳裏に思い浮かべて教師はアウルが速く戻ってこないかと内心ウキウキしていた。
「皆は何をする?俺は箒でまた突こうと思うんだけど」
「じゃあ私は雑巾をかける!」
「僕はまた水でもかけようかな……。それで風邪をひいたら学校も来ないだろうし……」
「天才!?」
子供たちはアウルをどうやって虐めるか楽しそうに話し合う。
先生は止めないし、むしろ参加しているから自分達がやっていることは悪いことだとは思っていない。
「ねぇ。私たちでアウルのパンツとか脱がさない?」
「あはは。ノーパンにするとかバレたらアウルのやつ、変態じゃん。もしノーパンだとバレたら襲われるんじゃない?」
「かわいそー」
どうやって惨めにしていくのか本当に愉しそうで、自分より立場の者が相手だとどこまでも歯止めがかからない。
アウルを自分達と同じ人間だとは思っていない。
「アウルも早く来ないかな?」
全員がアウルが戻ってくるまで家に帰ろうとする者はいなかった。
それだけアウルを虐めるのが楽しくてしょうがないらしい。
先生も止めるどころか協力して虐めを隠してくれる。
こんな面白いことが親にバレて叱られる可能性も低いのだ。
もっともっとアウルで遊びたいと思っていた。
「あ………」
そしてアウルが教室に意を決めた顔で入ってくる。
カバンも教室の中で持って帰らないと何時までも帰れないと覚悟したのかもしれない。
「ひっ……!」
歪んだ笑みを見せて子供たちはアウルを教室の中へと引きずり込む。
それがあまりにも恐ろしくアウルは悲鳴を上げる。
子供たちはアウルの悲鳴がまた聞くことが出来ると笑みを歪めた。
「あがっ!!」
腹を殴る。
「ごっ!?」
顔を殴る。
「ぐぶっ!?」
腹を蹴る。
「おぼっ!?」
頭を蹴る。
「おぼぼっ!!?」
意識を失っても水を掛けられて目覚めさせらる。
「やめっ……!?」
そして箒で突かれたり、雑巾で雑巾で拭かれたりする。
殴るけるなどの暴行でできた痣が水に沁みて痛い。
子供たちはアウルの悲鳴を聞こえても笑みを絶やさずに繰り返し暴行する。
悲鳴そのものが面白く、どこをどう攻撃すればどんな悲鳴が上がるのかと玩具としてしかアウルを見ていない。
先生も止めるつもりは無く死ぬ直前には止めようとしか考えていなかった。
「う……あ……」
何度も何度も暴力を振るわれアウルは悲鳴を上げる気力もついには無くなる。
どんなに殴ったり蹴ったりしても悲鳴を上げないアウルに飽きたのかつまらない顔をする子供たち。
それぞれが帰る準備を始める。
「何の反応もしないと詰まんないな」
「明日になれば、また面白い悲鳴を聞こえるんじゃない?」
「ばっか。一日で回復するわけないじゃん。ゲームじゃないんだぞ」
子供たちは笑って帰ろうとする。
一番最初に帰る準備を終わった子供が教室を出ようとして―。
「こらー!!」
校長の怒声が教室に響き渡る。
「何時までたっても校長室に来ないと思ったら何をやっているんだ!?」
校長に見られていたことに顔を青褪める子供たち。
そして同じく教室にずっといた先生も顔を青褪める。
「君もだ!教師の癖に何で止めない!」
そう言ってアウルを抱きかかえる校長。
「以前の時と同じように動画に撮っていたからな……。逃げられると思うなよ……!」
怒りの声を上げる校長。
「君はクビだ。二度と教師になれると思うなよ……」
僅かに意識が残っていた校長の声をアウルは聞く。
そして聞こえてきた動画を撮っていたという言葉。
ずっと助けずに自分が虐められている撮っていたと聞いて信じられなくなる。
本当はもっと早く助けてくれたのに、そうしてくれなかったことで、この学校では自分の味方がいないのだと理解できてしまった。
「う………」
「アウルさん!?」
心配そうに声を掛けてくる校長の声を嫌悪を抱きながら自分の腕を無理矢理にでも動かす。
目的は自分のサングラスを外すことだ。
「何を!?」
「あぐっ!」
アウルがしようとしていることを察して校長は手を放して地面に落としてしまう。
そのお陰で反動で腕を動かさなくてもサングラスを外すことが出来た。
そしてアウルは首を力を込めて動かす。
それだけで魔眼の力で目に映った全ての者の生命活動を弱らせる。
もっと殺意もしくは力を込めたら殺すことが出来た。
だがアウルは無意識にでも殺人犯になるという恐怖で誰も殺すことはなかった。




