一六九話
「ここは……?」
クルドが目を覚ますと辺りには白い空間で囲まれていた。
よく見るとそれはカーテンであり、そんなものが学校にあるのは一か所しか思いつかない。
「保健室か?」
目を覚まし扉を開けると保険教師がいた。
「クルド君、起きたんだ?そろそろ訓練は終わると思うけど帰るかい?」
「そうですね。もし保健室に来たら帰ったと伝えてもらって良いですか?」
クルドの言葉に保険教師は頷く。
既に外は暗くなり始めており、訓練がもう少しで終わったと思ってもおかしくない。
「分かった。気をつけて帰るんだよー」
クルドが帰り支度をするのを見て保険教師は無事に帰るように注意して見送った。
「何でだよ……。俺の方が強いから正メンバーに選ばれていたのに。交換するようになったのも重要な部分が一部だけだとしても俺よりも優れているからじゃないのかよ……」
全体的には自分の方が優れていると自分も他の皆も認めていたのに全く相手にならかったことにクルドは絶望していた。
特にネストも全体的にはクルドの方が優れていると言っていたのに実際にはボコボコにしていた。
クルドはあの言葉は嘘だったのかと思ってしまう。
「畜生……!」
クルドは普段なら皆と一緒に帰っていたが今日はそんな気分では無かったし顔も見せたくなかった。
自分より本当は強かったネストへの嫉妬と怒りを見せたくなかった。
「何で隠していたんだよ…」
実際に戦ったネストは圧倒的に自分より強かったことを思い出してクルドは愚痴をこぼしていく。
いくら総合的にクルドの方が優れていても圧倒的に一部分が優れているのなら勝てないのだと分からせられる。
あれだけ強いのに虐めていた時にはやられっぱなしだったのが理解できなかった。
あれだけ強ければ好きなだけやり返せたはずなのに。
「くそっ……!」
思い出せば思い出すほど悔しさでクルドはどうにかなりそうだった。
やられっぱなしだったのも本当はバカにしていたんだと思ってしまう。
それらを考えて憎くなってくる。
「そういえばネストの奴は急に笑顔で抱きしめてくるようになったんだよな?」
あれから怯えもあったとはいえ虐めるのは止めるようになった。
そして、それから少しずつネストに好意を持ち親しくなった。
憎悪を隠すために自分も同じことをするべきかとクルドは考える。
だけど同じことをするのは怪しまれそうだとクルドは別の方法を考えようとする。
「いや、そもそも憎悪を隠すためにネストと同じことするのは意味が分からないな。ネストが俺たちを憎んでいるとは限らないだろうに……」
ネストの真似をすることを一度考えて、やっぱり無理だとクルドは考える。
異性に抱き着くのも恥ずかしいし嫌いな相手を抱きしめるのは想像するだけで吐き気がする。
やっぱりネストは自分達を嫌っていないか壊れているのだと想像が出来てしまった。
「壊してしまった可能性を考えると俺がネストを憎む資格は無いのかもしれないか……」
そう考えてもクルドはネストへの憎悪は全く消えない。
自分の立場を奪った敵として見てしまう。
ネストさえいなければ今も代表だったと考えてしまっていた。
「まずはネストに勝つための方法を考えないと…」
ネストの方が強いから正メンバーに返り咲くのは今年は難しいだろう。
もしかしたら来年はネストは最初から正メンバーに選ばれるかもしれない。
立場を奪う機会は無いかもしれない。
それでもボコボコにされた復讐をクルドはしたかった。
自分も多くの者たちの前でボコボコにされて嘲りの笑みを向けられたのだ。
ネストに同じだけかそれ以上の恥を晒さなければ納得がいかない。
「目標は来年の今頃にはネストに復讐を成功させることだな」
相手の方が格上だが勝つための方法は分かっている。
ネストがクルドより優れているのは突撃力。
それに必要なのはスピード。
つまりはネストの行動に反応出来るようになる必要がある。
「反応速度の訓練が必要だな」
クルドは特化した能力でも一番、厄介なのはスピードなんじゃないかと考える。
パワーに特化していても避けたら意味が無い。
頭脳に特化して罠や戦術を練っていても全て避ければ意味が無い。
実体験したのがスピードに特化したモノだけだから一番厄介だとクルドは考えていた。
「それにしても本当に何でネストは俺たちに虐められていた時にやり返さなかったんだ?」
あれだけの実力があればやり返すことも出来た。
それなのに全くやり返すことはなく、クルドたちはネストへの虐めはエスカレーションしていった。
普通は裸にして写真を撮り弱みにするなんて相手を余程、格下だと思えないと出来ない。
むしろ同じ人間だと思っていなかったのかもしれない。
クルドは我ながら何であそこまで出来たのかと疑問に思い、やり返してくればネストに対してこんな罪悪感も憎しみも複雑に抱かなかったと怒りを向けてしまう。
「絶対に復讐してやる」
ネストに自分が大勢の前で味わった屈辱を味合わせてやるとクルドは誓った。




