一六八話
「がんばれ~」
「代表に代わって選ばれたんだから勝てよ~」
「ネストが選ばれたのは特化型で求める能力があったからだ!クルドなら勝てる!」
昼休みクルドのネストの二人は大将であるエストを見つけて試合の許可をもらった。
そして放課後にいざ戦おうとすると周囲に一緒に選ばれた代表たちやサポートとしてくれる者たちが観戦しに来た上に野次や応援を飛ばす。
「………あの、訓練は?」
ネストの疑問にクルドも頷く。
自分達の試合より訓練をしていた方が遥かにマシなのに見に来たことが疑問だ。
「二人が気になって集中できないから見に来たの~。それに私はネスト君がいないと競い合う相手がいなくてつまらないもの~」
ルーの答えの前半の部分に二人は納得する。
学校の正メンバーを奪われた者と奪った者の試合。
やり過ぎないか心配になってしまったのだろう。
だが、ネストもクルドもやり過ぎるつもりは無かった。
「………取り敢えず、始めるか」
これ以上、観戦しに来た者たちと話をしてやる気が失われる前にクルドの試合を始めようと言葉に頷いてネストは構えた。
ネストの持っている武器は突撃槍。
その姿を見た瞬間、クルドや観戦しに来たほとんどの者が背筋を凍らせる。
平然としているのはルーだけだ。
「それじゃあ私が開始の合図をして良い~」
ルーの言葉に二人は頷く。
片方は冷や汗を流し、片方は今にも攻撃しそうな雰囲気を出している。
「それじゃあ始め~!」
「ぐぶっ!!?」
試合が始めると同時にネストはクルドにランスを突き刺す。
殺さないように刃先を丸めているために死ぬことは無い。
だが強い力で突き出されたためにクルドはすごい勢いで吹き飛び壁にぶつかる。
「俺の勝ち」
一瞬で終わったことに観戦していた者たちは何でネストではなくクルドの方が強いと選ばれたのかと疑問に思ってしまう。
こんな結果で終わってしまうなら、もともとクルドよりネストの方が強いんじゃないかと思ってしまう。
いくらルーと競い合うように鍛えていたとはいえ、圧倒的な差が付くほどに強くなるとは思えない。
スペックだけを見て決めた弊害で本当の実力で分っていないせいで引き起された事故だろう。
「待ってくれ……」
一撃で壁に叩きつけられたがクルドは意識が残っている。
その姿に頑丈だと代表者たちは更に評価を上げる。
立場を交換することになったが一年で選ばれたことに代表者たちはクルドに対する評価は高い。
二年より優れているらしいし来年では、ほぼ確実に選ばれるはずだ。
今年は参加できなくても、まだ二年は残っているから今は能力を上げれば良いと思っていた。
「もう一度、頼む……」
「え?」
クルドの頼みにネストは困惑する。
一度だけで良いと言っていたし、今ので実力差は分かったはずだ。
どれだけ総合的に能力が優れていても反応できなければ意味が無い。
「もう一度戦ってあげれば~」
困惑しているネストにルーも頼みを聞き入れてあげろと声を掛ける。
自分も同じことを経験していたから分かる。
まさか圧倒的な実力者があることを認められなくて何度も挑まれた経験がルーにもあった。
それと同じだからルーはネストに戦って上げろと提案する。
どうせ納得するまで何度も戦いを挑むのだ。
諦めるまで実力差を分からせる必要があった。
「それじゃあ行くぞ」
そう言ってクルドは剣を構える。
ルーも試合を開始するための準備をしており、それらを見たネストは逃げられないのだと理解して槍を構える。
「始め~」
「おごぉ!!」
そして一回目と同じように壁に叩きつけられる。
全く反応できなかったことが悔しいのか、また立ち上がって勝負を挑もうとしていた。
そしてルーも変わらずに試合の開始の準備をしている。
そして。
「がっ!!」
「ぶぶぅ!?」
「ばはっ!?」
「ぼほっ!?」
何度も何度もネストに挑んでは反応すらできずにクルドは壁に叩きつけられる。
その姿に呆れる者もいれば感動して見ている者もいる。
「まだ……まだぁ!!」
その姿にネストはイライラしていた。
少しで反応していれば不快に思わなかった。
だけどクルドは全く反応できないのに何度も挑んでくる。
それがたまらなく不快だった。
どこからかヒビが入った音がする。
「…………」
だからネストはこれ以上は相手をしないために更に一撃を集中して研ぎ澄ます。
ルーもクルドが起き上がるたびに試合の準備をするのなら、クルドの意識がなくなれば試合の準備をしないはずだとネストは考える。
「………舐めるなよ」
クルドもネストの雰囲気に今までの一撃とは違うと察する。
今度こそ反応してみせると剣を構えなおす。
「始め~!」
その言葉と同時にネストの突撃槍が襲ってくる。
今までとは違い、ゆっくり動いて見える。
これなら避けれると動こうとするが体が動かない。
そして突撃槍がゆっくりと近づいてき、触れたと思った瞬間に激しい衝撃に襲われてクルドの意識は暗闇の中に落ちていった。
「これなら、もう挑んでこないだろ」
ネストは会心の手ごたえがあったことに、これで意識を失ったはずだと確信する。
まだ帰るには時間があるだろうし、保健室に運んでから訓練をしようと思っていた。




