一五八話
「サングラスを掛けちゃいけないなんてルールは無いね」
「そうだな。これならサングラスを掛けても大丈夫のはずだ」
そもそも試合に様々な武器を持ち込んでいるから当たり前かもしれないと考え直す。
だけどルールとして問題ないのなら奇襲の手段を念入りに考えることが出来る。
「あとはエストが来るだけだけど来るまでに、どうやって奇襲をするか作戦を立てないか?」
代表の一人の言葉に全員が頷く。
エストとも話し合う必要はあるが、先に考えても問題は無いはずだと代表者たちは思っている。
むしろ最初から大雑把な部分は考えて、後でエストと細かい部分を詰めて行こうと考えていた。
「目潰しをするのは決まっているんですよね?」
「そうだな?」
決まっていることを口に出す何を言いたいのかと首を傾げる代表者たち。
前提としての確認もあるため不快に思わずに話を聞く。
「それって光で潰すんですか?それとも砂嵐みたいなのを作って潰すんですか?」
そういえば決めていなかったと代表者たちは思う。
目を潰すことばかり考えていて、どうやって潰すのかは考えていなかった。
「そうだね。君だったら、どうやって潰す?」
良いところを指摘したとして代表者たちはクルドへと意見を求める。
考えていなかった部分を気付いたことといい、良い案を出してくれるかもと期待の視線を向けてしまう。
「相手は世界戦にも出た格上ですから、いっそのこと全部盛りにするとか?」
「全部盛り?」
全部盛りと急に口に出されて意味が分からないと代表者たちは首を傾げる。
そしてクルドへと対して視線を向けて説明を求める。
「相手の眼を潰すのに光だけとか、砂嵐を疑似的に起こすだけじゃなくて両方やった方が良いと思ったんです」
どれか片方だけでなく両方やれと言うクルドにたしかにそれは確実に相手の眼を潰すことが出来るかもしれないと思う。
本気で勝ちたいのなら、たしかに両方やるべきかもしれないと納得する。
「あとは相手に被せる砂を胡椒にしたりすれば更に効果があるかもしれませんね」
砂ではなく使うのは胡椒にした方が良いと言うクルドに流石いじめっ子だと話を聞いていた代表者たちは思う。
胡椒なんて上手く被せれば咳をして集中できなくなる。
それを思い至ったクルドに感心し、そして被害にあっていたネストにかわいそうだと同情してしまう。
「おぉ……」
期待通りに良い案を出してきたクルドに代表者たちは感心の声を上げ、クルドは少しだけ顔を赤くする。
そして続けられた言葉に顔を青くした。
「それってネストを虐めていたからこそ考えれた案なのか?」
それは嫌味ではなく純粋な疑問だった。
だけどクルドはそう思っておらず顔を青くしてしまう。
「?何を顔を青くしているんだ?俺たちがお前がネストを虐めていたのに気づいていたのは知っているだろう?」
実際、虐めていた奴じゃないかと確認もしたのに忘れたのかとため息を吐く。
クルドはそのことを忘れてしまっていており、そして知っていたのに責められなかったことに問題にする気は無いのだと理解して安堵する。
「それよりも実際はどうなんだ?ネストを虐めていたからこそ考え着いたのか?」
その質問にクルドは多分違うと首を横に振って答えた。
誰かを虐めていたからといって思いつくものではないと思っている。
それに虐めていたのは娯楽であって頭を使っていたわけでも無い。
完全に誤解だとクルドは思っている。
「そうか……。違うのか」
娯楽で虐めていたのは口に出さないで訂正すると、直ぐに虐めていたのが理由で思いついたのは違うと納得してくれた。
だけど質問してきた者以外はクルドへと冷めた目を向けてしまう。
虐められているのを知っていたのに助けなかった癖にクルドを非難するような視線を送ってしまっている。
自分は手を出していないから虐めていないのだと言いたそうだ。
見てみぬふりをするのも虐めだと聞いたことがないのかもしれない。
そしてクルドは自分に向けられた視線を察してしまう。
その冷めた目線に虐められていたのを知っていた癖に助けなかったお前らも同然だと思っている。
「皆!サングラスぐらい付けて行っても大丈夫だそうだ!」
そんな中エストが戻ってくる。
そのお陰で険悪になりかけた空気は散っていく。
今は虐めよりもコンバット学校に勝つ方が大事だ。
「そもそも故意に殺人を起こさない限り罪になることも無いからな。よくよく考えればサングラス程度で問題になるはずが無かったな」
エストの話を聞いて少しだけ引いてしまう。
殺人に関して知ってはいるが、やはり死者が出ても罪にならないのはヤバいと思う。
戦いの事故だからしょうがないし死者が出ないように配慮はしていても、やはりそれを聞いて戦えなくなる者もいる。
特に一年のネストとクルドは実際に試合の空気に触れさせないと戦えるかどうかが分からない。
そしてそれはコンバット学校のディアロも同じだ。
もしディアロが試合の空気に触れて戦えなかったら笑ってやろうと思っていた。




