一四四話
大会へと向けての訓練の協力が終わりネストは帰路へとつく。
訓練が終わると代表の大将であるジルが誘ってくれたことを思い出して常に浮かべるようになった笑顔が更に深くなっていた。
「あれ?お兄ちゃん?」
そしてネストは妹であるサリカと帰路の途中で遭遇する。
「ねぇ、お兄ちゃんは昨日どこで夜を過ごしたの?」
昨日、サリカと母親は父親が酔いから醒めたらネストを家の中に入れるつもりだった。
制服を汚されたのは腹が立ったから反省のつもりで外に出していた。
そして父親が酔いから醒めて家に入れようとしたらどこを探してもいなく心配してしまった。
「別に何処で過ごそうが関係ないだろう?」
何を聞いているんだと不思議そうに首を傾げられてサリカはカッとなる。
どれだけ心配させたのかも知らない癖に、そんなことを言うなんてサリカは信じられないのだ。
家の外に追い出されたのを笑っていて見ていたのを忘れている。
「あの!」
「どうしたんだい?」
そんなネストにサリカと一緒にいた友達が声を上げる。
ずっと笑顔で話しているネストがサリカの何を心配しているのか分かっていないと教えようとする。
「サリカはお兄さんが昨日の夜、ずっと外で過ごしていて風邪をひいていないか心配しているんだと思います!」
「…………。サリカは酔った父親に殴られて外に出されるのを笑っているのにかい?ほとんど、いつも通りになのに今更だと思うんだけど」
サリカは友達の言葉が当たっていると頷くがネストは微妙な表情を浮かべてしまう。
だって昨日のはいつものことでもあるのだ。
殴られ追い出されているのを見て笑っていたのも本当。
心配何て今更だ。
その言葉が信じられないとネストの言葉が本当かとサリカに顔を向けるが顔を背けられてしまう。
そのせいで真実だと理解してしまいサリカへと信じられない者を見る目を向けてしまう。
その視線にサリカはやっぱり自分達はおかしいのかもしれないと考えてしまう。
前に笑い話として友達に話したら今と同じような視線で見られていたことをサリカは思い出す。
おかしいと感じるようになっても昔からこうだったせいで変えるのは難しいのだろう。
「まぁ、昔からそうだったからサリカには疑問にも思わなかったのかもしれないけどね。子は親の背中を育って過ごすというし。僕をないがしろにして当然だという環境で育ったしね」
むしろ何で僕をないがしろにして当然の環境なのに心配するのが不思議だとネストは口にする。
その手はサリカの頭に上に乗せており頭を撫でている。
友達の目の前で頭を撫でられていることにサリカは顔を赤くするがネストの手を払いのけていない。
そのことに思ったよりも関係は悪くないかもとサリカの友達は安心する。
「それで昨日は本当に何処で夜を過ごしていたのよ?いつもだったら家の外にいるのに」
「教えるつもりは無いよ」
頭を撫でながら言うネストにサリカは不満な表情を浮かべる。
だがネストも何処にいたのか分からないからしょうがないのだ。
記憶は残っていても、どうやって辿り着いたのか場所もわからないし名前も名前だから教えるわけにもいかない。
「思ったよりも仲がよさそうで良かったです。復讐相談事務所ってところに関わったら、皆破滅するって聞きましたし」
サリカは復讐相談事務所という名前になにそれー、と笑う。
だがネストは一瞬だけ身体を固くする。
その名前は昨日、制服を洗ってもらい夜風をしのがせてもらった場所だからだ。
まさか、その名前を復讐とか考えたことも無さそうな少女から出てくるとは思わなった。
「復讐って……。よくそんな名前の事務所があるって知っているんだね?」
「あはは。まぁ、噂で知っているだけですし。その噂も偶々聞いたものだし。入るのも本当に心に憎悪を持っている者しか入れないらしいです。それに最近ではコンバット学校の事件に関わっているって噂も流れていますよ」
呆れたように苦笑しながら言うネストに本当に関わっていないとサリカの友人は判断する。
一瞬固まって見えたのもいきなり復讐と聞いて驚いてしまったせいだろうと考える。
仲の良い友人が家族に復讐で殺されるなんて考えたくなかった。
そしてネストは笑顔の下でそれ以上の満面の笑みを内心で浮かべていた。
関わったら皆が破滅するなんて願っても無い事だった。
家族も学校の皆も全て破滅してしまえば良いと考えてしまっている。
あの事務所は信用に値すると確信してしまっていた。
「そういえば、お兄ちゃんの学校って大会があるよね?去年は良いところまで進んだから期待されているけど何所とあたるか、もう知っているの?」
先程から復讐という怖い言葉を使っているから話を変えようと学校のことについて聞く。
友達も興味あるのか話の流れに乗っかってくれる。
「…………さっきも出ていたコンバット学校と一回戦に当たるんだ」
「「あ」」
ネストの学校と当たる相手校を聞いてサリカたちは結果を察してしまう。
相手は世界大会にも出場できる実力のある学校だ。
結果が分かり切っていて哀れに思ってしまった。
代表者たちも負けが決まっていてやる気がでないだろうなと想像していた。