表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/274

一四〇話

「ネストじゃん!おはよう!」


 昨日もネストに暴行を加えていたクルドが自分より早く教室に来ていたネストを見つけると後ろから肩を組む。

 それに対してネストは笑顔を浮かべてクルドへとハグをする。


「おはよう!今日も良い天気だなぁ!」


 昨日、暴行をしたはずなのにその姿を全く見せず、その上に暴行した本人に笑顔でハグをしたことに暴行を見ていた者たちも本人も困惑する。

 普通はそんなことをされたら怯えてしまうのに笑顔で接してくるネストにおぞましさを覚えてしまう。


「あ……あぁ」


「どうしたんだ?昨日までは俺に対して普通に肩を組んでいた癖に急に離れるなんて」


 困惑しながらもクルドがネストからのハグから離れての言葉にそれはこっちの言葉だと教室にいる者たちは思う。

 少なくとも昨日まではクルドから抱き着かれていたらネストはビビっていた。

 それなのに今は平然とハグを返している。

 あまりの変わりようにもしかして壊れてしまったのかと心配してしまう。


「なぁ、俺のことをどう思っている?」


「ん?別に?」


 クルドやネストに暴行していた者たち、そして見ていただけで助けなかった者たちは全員が嘘だと思った。

 あれだけのことをされていた癖に何とも思わないなんて普通は有り得ない。

 憎み嫌われていても当然だ。


「何でそんなことを聞くんだ?」


「え………。いや……」


 心底不思議そうに尋ねてくるネストに何も答えられなくなる。

 本当に壊れてしまったんじゃないかとクルドたちは考えてしまう。


「まぁ、良いけど何かあったら話してくれよ。力になるかは分からないけど聞くだけは出来るだろうし」


 そう笑顔でネストは言うが、だからこそ恐ろしいのだ。

 本当はその笑顔の裏で何を考えているのか想像するだけで背筋が凍る。

 自分達がネストにやったことが考えると許すということが有り得ないのだ。

 それだけのことをやっているのだとは自覚している。


「おかしいでしょ!!私たちは貴方にあんなに屈辱的なことをさせて暴力も振るっているのに笑顔を向けるなんて!何を考えているの!?」


 ネストが笑顔で自分達に話しかけていることに理解が出来ずクラスの女子が絶叫する。

 怖いのだ。

 絶対に復讐をすると分かっているのに笑顔で接してくれるネストが。

 そうでなくても自分達のせいで壊れた者を見続けることになるのは辛い。


「うーん。取り敢えず裸を映した写真を消した方が良いですよ」


「は!それが目的なわけ!?」


 笑顔で接している理由がそれだと理解してクラスの女子がようやく腑に落ちたと納得の表情をするがネストは微妙な顔を向ける。

 他にも納得していた者もいるがネストのその表情に違うのかと疑問に思う。


「その写真を見られたら女は男の身体に興味がある年頃だと、男は異性愛者ではなく同性愛者だと思われるでしょうね。他にも、よく見たら無理矢理された格好だということで距離を置かれるかも?」


 ネストの考えに否定できない。

 自分達も何も知らないで見たら思春期だからと生暖かく見ていたかもしれない。

 その言葉通りに写真を消すべきかと悩んでしまう。

 正直に言えばかなりの弱みになるだろうから撮っておきたいとも考えてしまう。


「別にばら撒いて問題ないですからね?それは逆に俺にとって好都合になるかもしれないし」


 ネストからすればその写真は弱みになるのではなく逆に有利になるものでしかない。

 ハッキリ言って羞恥心さえ捨てれば、それは暴行された証拠になる。

 そして誰がその写真を持っているのかも知っている。

 ばら撒いたのが別の人物でも同じ写真を持っているのなら警察に簡単に突き出せると考えていた。


「好都合って……」


 そこまで考えていなくてもネストの自信に写真をばら撒くのはマズいとクラスのほとんどは考えてしまう。

 どうなるか想像できた者は自爆特攻だと理解する。

 同時にネストよりも自分達がダメージの大きい自爆だと考えている。


 人の裸を撮ってばら撒いたと知られてたら会社は自分達を入社させないだろう。

 そんなことをする者なんて入社させたら会社のイメージを損なわせてしまう。

 逆にネストはここまでの虐めをさせられていたということで同情を周囲から買えるかもしれない。

 きっと入社もしやすくなるだろう。


「ばら撒くかはみんなの好きなようにしたら良いよ」


 ネストは本当にどうでも良さそうだ。

 写真をばら撒かれるとなったら羞恥心が普通は湧くだろうに、そんな姿が全く見えなくなっている。

 もしかしたら今、この場で裸にしても何とも思わないのかもしれない。

 そこまで壊してしまったかのかと今更ながらに自分達の行動に後悔しそうになる。


「そういえばクルドって今度の大会のメンバーに選ばれたんだよね?」


「あ……あぁ」


 突然に大会のことを口にするネストにクルドは顔を青くして頷く。

 もしかしたら大会を棄権してくれと言われるかもしれない。

 折角、選ばれたのにそれだけは嫌だった。

 家族にも自慢をしてしまったし何でもするから許してほしいと思う。


「俺もクルドの補助に参加させてくれない?身近で大会に参加する者たちがどんな訓練をしているのか気になるし」


 クルドはもしかして後ろから刺すつもりかな、と考えるが頷いた。

 今も笑顔で話しかけているネストが刺すつもりが無くとも壊れていたとしたら何をするのか、わからなくて近くにいた方が安全だと思ったのもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ