一四話
「………さて気を取り直して情報を集めるわよ」
ギャル化しているのを止めろと言うディアロの視線を無視してアクアは二年生の教室へと入っていく。
「あれ、アクア?もしかして生徒会の仕事?」
「そうよ。できれば苛めのことを聞きたいんだけど?」
苛めと聞いて二年の教室に残っていた生徒は目を鋭くさせる。
それだけで今回の事件の犯人が誰か予想できてしまったからだ。
「一応、言っておきますけど犯人は苛めの被害者だと決まったわけでは無いので。目を付けられたくなら、いつも通りにしてくださいね」
「はぁ?犯人が分かっているなら先に手を打った方が良いじゃない」
ディアロの文句を言う二年生の生徒。
近くで聞いていた他の生徒もディアロを睨んでいる。
犯人が分かっているなら、直ぐに捕まえた方が良いと思うからだ。
「少なくとも誰にも気づかれずに犯行に及んでいたんですよ?貴方たちは彼らの攻撃を防げるんですか?」
「なんだと?」
「苛めらていたから弱いと言うのは勘違いですよ?」
「へぇ」
ディアロの言い分に挑発と感じた二年生の生徒たちは立ち上がり、数人の顔を一瞬でわしづかみにされる。
一人だけではなく同時に二人の顔をつかんで持ち上げる。
あまりの速さに誰の目にも止まらなかった。
「…………誰も止めないんですか?見えなかったら勝手に行動するのやめてくださいね?」
そういってディアロは手を放す。
同時に顔を捕まれた生徒たちは崩れ落ちる。
「生徒会のメンバーは良いのかよ!?」
それでもとディアロに文句を言う生徒たち。
「生徒会のメンバーは校長とか警察から強制されているみたいなので」
ディアロの言葉に誰も何も言えなくなった。
「それでいじめていた人はどうでしたか?」
「そうね。やっぱり被害者は苛めの加害者だったわ」
あの後、聞き取り調査を行い、やはり苛めの加害者が被害にあっていた。
「いじめられていた本人は学校に来ているんですか?」
「そうね。来ているけど休んでいる者たちもいるわね」
「うわぁ……」
ディアロはそれを確認して面倒くさそうにうめき声を出す。
いじめられていた者たちが結託したとして学校の情報を得るために来て連絡を取り合っているとしたら面倒だからだ。
メンバーが学生だとしても組織として活動していたら数人の同じ学生だと、どうにもならない。
さっさとプロに任せたほうが安全だ。
そもそも情報を集めるだけでも充分な協力になっているはずだから後はプロに任せたいと思っている。
「あはは。これだけ情報を集まっているんだからダイキ君から伝えて貰って後は任せるだけで良いかもしれないし、終わるまで頑張りましょう」
アクアのフォローにディアロも頷く。
取り敢えずは出来る範囲での協力をすることに決める。
それ以上は危険だ。
特にディアロは一度、襲撃されたから危険意識を強く持っている。
「終わったら生徒会の皆と一緒にパーティを開きましょう。どう考えても、この仕事は学生がするものじゃないし」
ディアロはパーティと聞いて目を輝かせる。
パーティは美味しいものがたくさん食べられるから好きだ。
はやくパーティをしたいと事件が解決するのを望む。
(能力はあるみたいだけど普通の一年生ね)
アクアはディアロがパーティと聞いて目を輝かせたことに安心する。
自分より年上の先輩すらも鍛えることができる一年生だから、どこか人と違うところがあると思っていた。
実際に自分達が気付かなかったことに気付いた視点もあるが、それでもパーティで目を輝かせたことから共感しやすくなった。
「今日はもう終わりですよね」
「そうよ。後は生徒会室に戻るだけ」
「なら一年生は入学して、まだ一か月くらいだし必要ないと思いますからダイキに情報を報告してもらいません?」
ディアロは早くパーティを開きたい一心で学生が出来る範囲の仕事を終わらせようと提案する。
「ダメよ。一年生の分もちゃんと調べないと」
だがアクアはそれを否定する。
入学して一か月しか経っていなくても、苛めが起きないとは限らない。
もしかしたら既に苛めが起きており、復讐をしようとしているかもしれない。
同じ中学で苛めの被害者と加害者が一緒に入学する可能性もある。
そのことを説明して一年生も探ることを納得させる。
「ちっ………。そうですね、わかりました」
アクアはディアロが舌打ちをしたことに顔を引き攣らせる。
そして、さっさと終わらせたいから、そんな提案をしたことに気付く。
おそらくは入学以前からの復讐のことに関してもディアロは気づいていたことにも。
そしてパーティを開きたいから、そのことを無視したことにも。
「ディアロ君……」
アクアの非難の視線にディアロは顔を逸らす。
自分でもわかっていて無視したのは悪いと思っていた。
だが、それでも一番悪いのは苛めの加害者だと思っている。
普通は苛められても復讐を考えても、決意して実行まではいかない。
そこまで追い詰めた加害者が復讐されても愉悦にしか感じなかった。
むしろ面白そうだから協力したいとも思っていた。




