一二二話
『ところで嫌がらせを受けて、どう思いましたか?』
普通は聞くようなことじゃないことを質問するシェート。
聞こえていた者たちは何を質問しているんだ、と信じられない顔を向ける。
『別に何とも。正面から否定してこないのは情けないとは思うけど……』
ディアロも気にせずにシェートの疑問に答えているが、内容は手厳しい。
同時に確かにとも思ってしまう。
直接、口に出して否定すれば良いのにそれを聞こえないところでやり、正体がバレないように嫌がらせをするのは情けないと考えてしまう。
『そうなんだ。排斥派の者たちはやっぱり嫌いだよね』
『そうですね。結局、直接俺に来ることは無かったですし』
『なるほど』
「言われているわね」
「だから何だよ?」
司会者たちの会話を聞いて崇拝派の女は排斥派の男を煽り、排斥派の男は青筋を浮かべている。
排斥派からすればディアロの言葉は完全に挑発だった。
普通に正面から挑んでも勝てないと分かっているのに正面から挑む馬鹿はいない。
排斥派も全員がそれを理解している。
だから嫌がらせをするのだ。
「勝てないと分かっているのに挑む馬鹿がいるかよ。嫌がらせは少しでもディアロにダメージを与えるためだ。それで少しでも心にダメージを入れば勝てる隙が出てくるし、そうでなくても退学になれば万々歳だ」
実際には気にしていなかったがな、と吐き捨てられて崇拝派の女はざまぁとも流石とも思う。
イジメが苦で自殺したり学校を辞めたりする話はよく聞くからディアロは全く堪えていなかったらしい。
ディアロにとっては本当に軽い嫌がらせにしか感じなかったから当たり前だと思っているかもしれないが。
これがもしディアロが弱かったら、もっと暴力的なイジメもされていて結果は違ったかもしれない。
現に暴力的なイジメは全く無いし、ディアロに怯えているせいでバレないように慎重に慎重を重ねていたせいで本当に軽かった。
何ならクラスメイト達にも嫌がらせで汚れた机を洗ってもらっていたから心にダメージを受けたとしても直ぐに回復していた。
「ふぅん。あくまでも計算づくだったんだ?」
その点には苛立ちを覚えながらも感心する。
ディアロが対象にされたことに怒りが湧きあがりながらも勝つためにはと行動したことは称賛をしたくなる。
対象がディアロでは無かったら本気で称賛していたかもしれない。
普通は勝てない相手にどうしても勝ちたいのなら盤外戦術は正しい。
認められない者も多いし、それがディアロ相手にやっていることで崇拝派の女は腹立たしく思っているが。
「当り前だ。何の策も無しにディアロに勝てるか。こちらからも質問させてもらうが何でお前はディアロを崇拝しているんだ?相手は倒した相手に何度も追撃をする男だぞ」
その言葉に思い出すのは何度も地面に頭を叩きつけたり倒れた不良を何度も蹴る姿。
「それが良いんじゃない!!」
「え」
「最初に喧嘩を売ったのは相手よ!だからと言ってない何をしても良いわけでは無いけど、あそこで何もしなかったら何をしても文句を言わないんだと調子に乗られたに決まっている!喧嘩を売ってきた相手に上下関係を刻むのは悪くないわよ!私だって体に覚えさせられたい!」
崇拝派の女の言い分に観客たちも含めて多くが引き、ところどころにいる者たちは納得する。
ハッキリ言ってリィスが羨ましい。
あんなにディアロの近くにいて暴力を振るってもらえるように頼んでいるのだ。
自分達が同じようにするには羞恥心が邪魔をしてしまう。
「意味が分からねぇ……」
理解が出来ないと排斥派の男は呟く。
確かにディアロは基本的に喧嘩を売られてから攻撃をしている。
それでも心を折ったり何度も倒れた相手を追撃するのはやり過ぎだ。
そもそも暴力で自分が誰かの下だと心から理解させられるのは不良と変わらない。
「そう?痛みは相手に立場を分からせるために必要だと思うわよ。優しくしたらつけあがるし、貴方達もディアロが誰に対しても何も反撃しなかったら調子に乗っていて色々やっていたんじゃない?」
そこじゃないと多くの者たちは思う。
あくまでも意味が分からないのは身体に自分達が下だと理解させてほしいと言った崇拝派の女の言葉だ。
特に上昇志向のある者が崇拝派の女の言葉を理解できないでいた。
「そうじゃない。何でお前はディアロの下につこうとする?」
「強いからじゃない?きっと他の者たちも皆そう。皆がマゾなのかと疑っているかもしれないけど、そんなのは後付けよ。ただただ強いからどこまでディアロ様がいけるか興味があるのが一番。そして完全屈服している証拠を見せれば近くにいても文句を言われないでしょう?」
「それは……」
正直に言えばたしかにディアロが何処まで強くなるのか興味がある。
だからといってマゾになってまで近くで見たいという気持ちまでにはならない。
普通なら行動するとしても協力するぐらいのはずだ。
「さて、そろそろ決着を付けましょうか?このお互いを盛大にぶつけて小競り合いを減らして自分達の仕事を減らす企みから出来た試合を」
「え?」
崇拝者の女の言葉に排斥派の男は知らなかったのか疑問の声を上げる。
大声で職員室で教師たちを巻き込むように話してはいたが開いた理由までは口にしていない。
そして理由を聞いていた各部の部長や生徒会のメンバーたちは崇拝者の女が気付いていたことに驚いていた。




