一〇四話
「ふふっ」
話を聞いた後、ディアロが帰り翌日。
レイは朝から機嫌がよかった。
「どうしたの、レイ?何か良い事でもあるの?」
「えぇ。今日からディアロと一緒に学校に行けるし、家まで迎えに来てくれるみたい」
「あらあら!」
娘の言葉にディアロへと好感度が上がる母親。
思っていたよりも娘のことが好きらしい。
「へぇ……」
逆に父親は鋭い目になる。
昨日は返り討ちにあったことを忘れていない。
次はあんな無様を晒さないと敵意を強くする。
「お父さん。昨日はどう考えてもお父さんが悪いからね?襲わなければ逆襲にあうことも無かったのに」
「まぁ、そうね。昨日の件でディアロ君の方が圧倒的に強いんだし大人しくしておきなさい」
「ぐっ………!!」
大人として子供に負けていることが悔しく感じる。
勝てなくても一撃は入れたいと考える。
「そろそろかな?」
「レイ?」
娘の言葉にどういうことかと質問しようと思ったら玄関の鐘が鳴る。
もしかして、もう来たのかと驚く。
レイが時間を見たことと驚いていないことに、もしかしなくても時間の約束もしていたのかもしれない。
こんな早くに家にまで来てくれた事に娘との約束とはいえ悪い気がしてきた。
「お疲れ様。まだまだ学校に行くまで時間があるし家の中で待ってて」
「わかった。まだ学校に行かなくて良いのか?」
「大丈夫。まだまだ学校に着くまでに余裕があるし」
「そうなんだ」
どうやら、早いとは思ってはいるが文句は無いみたいだ。
それでも娘の約束のために来てくれたことに父親は好意を持ち家の中に入って朝食を一緒に食べることを誘う。
「ディアロ君、ご飯は食べてきたかい?そうでないなら一緒に食べないか?」
この年ごろなら、もし食べてきたとしてもまだまだ足りないはずだと考えて誘ったが正解だったらしい。
ついでに朝早く来たことについて聞こうと思っていた。
「有難く頂きます」
ディアロは父親の予想通り朝食を食べてきたが足りずに厚意に甘える。
椅子に座って朝食をよそってもらって礼を言う。
「それで何で、こんな早くから家に来たんだ?」
「レイが最近、視線を感じるみたいですからね。一緒に来てくれって頼まれました」
「そうか。それに関しては礼を言う。君は大丈夫なのか?」
娘を守ってくれるのは有難いがディアロ自身は大丈夫なのかと父親は心配するが、娘と本人に否定される。
「これでも学校の生徒のほとんどを相手に完勝したので大丈夫です」
「本当に凄かったわよ。今では何人か鍛えてもらうと頼み込んでくる者もいるし」
それは凄いと両親は思うが誇張もあるのだろうと考えていた。
娘と同い年だし学校で一番強いというのも、何人も相手にして完勝というのは信じられなかった。
昨日も言っていたが、やっぱり有り得ないと思ってしまう。
「それは凄いわね。それと貴方はまだ仕事に行かなくて良いのかしら?」
「うん?あぁ、確かに。それじゃあ行ってくるよ」
「えぇ。行ってらっしゃい」
話していると父親が仕事に向かう時間になる。
そして家を出る前にディアロの肩を掴む。
「娘を守るために迎えに来てくれたんなら頼むよ」
「ええ」
自分の威圧をものとせず、当然だというディアロの態度に気を良くして今度こそ父親は仕事へと向かった。
そして残ったのは母親とレイ、そしてレイの恋人のディアロだけだ。
「それにしても良い食いっぷりね。娘の料理もそうやって食べているのかしら?」
「そうだと思いますけど……。レイはどう思う?」
「私の料理の方がディアロの食いつきが良いわよ」
「あら?そうなの?」
楽しそうに母親はレイの言葉を受け取る。
娘が母親の自分にまで嫉妬しているのが面白く思っていた。
初めての娘の恋人でようやくからかえることに嬉しくなる。
「君は娘と私の料理はどっちが好きかしら?」
「レイのですね」
「あら?」
自分の料理の方が美味しいと思っていたが娘の恋人の即答にそうでもないのかと考える。
今度、娘と自分の料理を比べてみようと考えていた。
当然、夫も巻き込むつもりだ。
「ふふふっ」
レイはディアロが即答してくれたことに嬉しく思っている。
レイ自身はまだまだ母親の方が上手いと理解していたから、ディアロが自分の料理が好きだと言ってくれたことが嬉しかった。
「ディアロ、そろそろ私の部屋に行くわよ」
ディアロがある程度食べ終わってキリが良いところでレイはディアロの手を引いて自分の部屋に連れて行こうとする。
娘が恋人を自分の部屋に連れ込む姿に母親は楽しそうに笑って見ていた。
「もうあの子もそういう年頃かぁ」
娘が恋人を部屋に連れ込むのを見て母親は感慨深くなる。
脳裏に思い出すのは娘の幼い姿。
大きくなった、と時間の流れを実感する。
「恋愛にも積極的みたいだし、もしかしたら孫も早く見れるかもしれないわね」
男を自分の部屋に連れ込んでいるのだ。
そういう期待もしてしまう。
娘を本当に任せるに足る男だと確認出来たら学生で子供を授かるのも協力しようとも思っていた。
「彼のことをよく知るためにも、これからも家に連れてくるように頼まないとね」
まずは娘の恋人が信頼に足るか詳しく知る必要がある。
今の時点だと娘に骨抜きにされていて、娘の我が儘にも付き合ってくれることしかわからない。
「娘を任せれる男でありますように……」
娘の初めての恋人なのだ。
強引に別れさせたくはない。
例え過干渉だと嫌われても娘の為なら何でもやる気だった。




