一〇〇話
「何を言い合いしていたんだ、お前らは?」
少しの時間を使って宥め授業が再開するが空気が悪かった。
教室の中でディアロやレイには同情、嫉妬、好意、敵意、期待と様々な感情が含まれた視線を向けられた。
放課後になって拳闘部への元へと向かう途中にディアロはレイへと何があったかと質問する。
リィスも二人の後を邪魔にならないように着いている。
「貴方と別れるように言われただけよ……」
それだけでは無いような雰囲気をレイは出している。
まるで怒っているような雰囲気だからかディアロは気になってしまう。
少なくともレイは容姿が良く誰からも好かれている。
それなのに怒らせるとは何をしたのか不思議だ。
しかも少しの間、購買に行っている間に教師が止められないぐらいに喧嘩をしていた。
「それだけか?」
「ふぅ………」
詳しく聞いてくるディアロにレイはため息を吐く。
何が興味に触れたのか理解できないが恋人だから愚痴を聞いてもらおうと考えた。
「私はモテるわ。貴方と付き合うまでに何回も告白されて断ってきた」
レイは自分がモテると言ったのに反応せずに、そのまま話を促すディアロに少しだけ不満を抱く。
できれば自分以外にも恋人がいたんじゃないかと嫉妬してほしい。
だが今は話を続ける。
「そして全員が身体に視線を向けたり好きになった理由が外見ばかり。他にも、あいつらが私と付き合ってもステータスとしてしか見ないわ。きっと恋人になったら、私と付き合っていることを自慢しまくるでしょうね」
レイの言葉にディアロは引きながら頷く。
同時にそれは女子も似たようなことしているんじゃないかと思っていた。
「だいたい別れて自分と付き合えって全員が同じことを言っているのよ!本当にこっちを心配しているなら代わりに付き合えって言わないわよ!しかも同じ女の子からも視線を感じるし……!」
男運も無ければ女にも狙われているレイにディアロは同情してしまう。
異性にモテるのはともかく同性にまでモテるのは自分だったら嫌だ。
「まぁ、いいわ。それよりも何処に向かっているの?まだ説明されていないんだけど」
愚痴るのはここまでにして何処に向かっているのかレイは疑問を持つ。
レイの疑問にディアロも説明していなかったことを思い出して答える。
「向かっているのは拳闘部。今日から一週間はそれぞれの部活に顔を出そうと思っているからな。暇なら来なくても良いよ」
ディアロの言葉にレイは怒りが湧く。
暇ならという言葉から、こちらを配慮しているのかもしれないがレイとしては一緒にいたいしディアロの格好良いところは見たい。
ディアロは一緒にいたくないのかと思ってしまう。
「ディアロは私がいるのは嫌?」
「むしろいてくれるなら嬉しいけど?」
ディアロの即答にレイは嬉しくなった。
チョロいと言われるかもしれなくても考える様子も見せずに否定してくれるのが嬉しかった。
「……………」
レイが簡単にディアロの言葉に嬉しそうにしている姿にリィスはチョロ過ぎると心配になってしまう。
今まで騙されていなかったか不安になる。
今日からでも一緒にいるべきじゃないかと考える。
「…………一応、言っておくけど初めての恋人だからこうなっているだけよ」
自分でも自覚があるのか簡単に嬉しくなっていることにレイは言い訳をする。
リィスはそれに信じられない顔を向けてしまう。
初めての恋人で浮かれているからって簡単に嬉しくなってしまうのはあり得ないと思っていた。
もしレイじゃなく自分が恋人だったら、それで騙されたりはしない。
「それよりも拳闘部にいる者たちは貴方との実力差に心が折れないと良いわね?前は結構な数が折れて退部したり休部した者が多いみたいだし」
「何を言っているんだ?今日、試合をするのは心を折られずに戦うことを決めた者たちだぞ。折れてしまっているなら、そもそも俺に試合を挑んだりしない」
ディアロの言い分にそれもそうだとリィスもレイも納得した。
今も心が折れた者たちはディアロに怯えている。
逆に言えば試合を挑んできた者たちは心が折れていない。
「貴方にとっては雑魚だと思うけど良いの?」
「既に約束していたし、それが今週になっただけだしな……」
その言葉に思い出す。
確かに先輩であろうと教室に来てまで頭を下げて頼んでいた姿を。
アレを見て心を動かされただろうに無下にするのはどうかと思ってしまう。
「それに弱いからって楽しめないわけじゃないし………」
ディアロはフォローを入れるがレイとリィスは冷や汗を流す。
二人としては良い見世物だったが普通は忌避されるようなことだ。
また何度も床に頭を叩きつけるんじゃないかと不安になる。
それをやれば今度こそ本当に嫌われる。
「言っておくけど前に見たいに何度も頭を叩きつけないでよ……」
「そうですよ。私としては最高ですけど、普通は嫌われますからね……」
何を心配しているんだとディアロは二人を冷めた目で見る。
あの時は挑発とこれ以上喧嘩を売られないためにやったことだ。
余程のことが無い限りやる気は無い。
「わかっているよ。ワザと心を折るようなことはしないって」
ディアロの言葉に二人とも疑うような目で見る。
本性を知っているからこそ信じられなかった。




