十話
「なぁ」
暴力団の男に事務員は振り返る。
不思議そうな顔をしているが何か聞きたそうだ。
「どうしました?」
「そのアルバイト、殺されるか捕まりそうになっていたって、どういうことだ?」
「あぁ。こいつ情報を探るのが好きで売り払ったりとしていましたからね。結構、恨まれているんですよ」
情報を探られて売られていると聞いて暴力団の男は冷たい目を向ける。
自分達の組織もその被害にあったのかもしれないと思うと殺したくなる。
「警察に暴力団の情報を売ったり、逆に暴力団に警察の情報を売ったりとやりたい放題やっていたからなぁ」
「殺して良いか?」
思った以上に危険なことを説明させて殺そうと行動に移す暴力団。
事務員は腕をつかんで止める。
「情報屋だと考えれば良いじゃん」
「だからこそだ」
だからこそ殺そうとしているのだと暴力団は伝える。
情報屋というのは知らぬ間に自分達の気づいてない弱みさえも握っているから危険だ。
少なくとも情報屋だと気づいたら殺した方良いと考えるくらいには。
そのことを知っているからこそ、ほとんどの情報屋は護衛を雇っている。
「………こいつはお前のか?」
「いいや。でも、それなりに有用だからな。お前らの相談に乗るときは、こいつの情報も使っているし」
「………あの一件か?」
「そう。まだ未成年だから将来的に有能な情報屋になれば良いと思っているよ」
「……………」
事務員の言葉に悩む暴力団の男。
以前に相談して解決してもらったことがあるが、それが目の前にいるアルバイトの力もあるなら見逃すのもやぶさかではない。
「今のうちに恩でも着せれば?出来るかぎり有利に情報をくれるだろうし」
「ふぅ。そうだな。………今は恩を着せるだけにするか」
情報屋は危険だが、同時にかなりの有用だと認めているから頷く。
だが正確な行動は暴力団の頭に相談してからだ。
それから、どうするかは決める。
同時に何もしないのかもしれないと想像していた。
理由は目の前の事務員の男がかばったからだ。
この男を敵に回すのだけは共通して止めたいと誰もが思っている。
敵対するよりは見逃すほうが安全だろう。
「お前は腹を突き破ったり、助けたりとめちゃくちゃだな……」
「そりゃ痛い目に合わないと覚えないだろ?何度も同じことをしたくないし。俺の事務所という組織に所属している以上は従え」
暴力団の男は納得した。
「それで何の用だ」
暴力団の男は戻って頭へと相談をする。
事務員への相談があると言ったらすぐに頭は顔を見せてくる。
それだけ注目されているのが事務員だった。
「実は復讐相談所のところに見習いの情報屋がいるらしくて。しかも暴力団の情報を警察にも売っていたらしいです」
「知っている」
「は?」
「知っている。前に事務員から話が来たからな。こちらの情報を売ったり探らないように注意はしているらしいが、無視したら殺しも文句は言わないそうだ」
「そうですか」
安心したように笑う男。
暴力団の一員として殺すことに抵抗は無くなっているが、それでも未成年らしき子供殺すのは抵抗が残っている。
事務員の前では実は結構な無理をしていた。
「一応言っておくが、未成年でも堅気とは言えなくなっているからな。数は少ないとはいえ、いないとは限らないんだ。子供を殺す覚悟もしておけ」
子供を殺す覚悟をしろと言われて男は身体を震えさせる。
できれば、そんな目にあいたくないと考えながら頷いた。
「そういえば最近、表の学校が騒がしいのは知っているか?」
「えぇ?なんか精神崩壊させられたとか色々と騒がしいですよね。俺は復讐相談のところが関わっていると思いますけど」
「だろうな……。まぁ、知り合いがいるのなら学校に通わせるのはやめておけ。何時、被害にあうのか分からない」
男は頭の言葉に頷く。
そこで一つの疑問がわく。
「………そのことを理由で復讐相談のところを責めないんですか?」
「あぁ。関係はあるかもしれないが、あくまでも相談を受けているだけだからな。これで責めても相手にしないだろ。復讐の相談をして相手のこととか詳しく聞いてないし。相談者も話さないこともあるみたいだしな」
どうも頭と復讐相談事務所の事務員は親しいように聞こえてくくる。
正体を知っているのだろうか?
「仲が良いんですね。もしかして正体も知っていたり?」
「………いや、知らない。何度も言うが喧嘩を売るなよ。あれは恐ろしいからな。人を殺しても何とも思わない異常者だ」
その言葉にアルバイトの腹を突き破っていた時の瞳を思い出す。
たしかに殺そうとしていたのを止めていたが、同時に死んでもどうでも良いという瞳をしていた。
最初っからそうなのか、それとも殺し慣れてそうなったのか。
どちらにしても相当にヤバイ精神をしている。
「わ……わかりました」
声に震えが混じっているが頭はそれを理解して言っているのだと頷く。
「それで良い。決して敵対しなければ強力な味方にもなってくれるからな」
頭もそうだが、どれだけ事務員が恐ろしく思っているのか察してしまう。
おそらくだが頭のいる暴力団は決して復讐相談事務所には手を出さないように暗黙の了解があるのだろう。
もしかしたら他の復讐相談事務所の事務員を知っている組織のほとんどはそうかもしれない。