新学期の殺人鬼
「おーーい!朝だぜ起きろよ!おっ起きたか!というかどこで寝てるんだよ!」
窓をどんどん叩きながら外で騒いでいる不審者らしき者の声で目が覚めた。体を起こすと、目をかきながら大きなあくびをした。ソファの上で寝て落ちしてしまったみたいだ。俺は窓にいる不審者をぼやけた視界で眺めていると、光彦がいた。どうやってベランダに乗り込んできたか知らないが、とりあえずそっとしておこう。おれは、気付かなかった振りをして、洗面所へ向かおうとした。
「おい!無視すんな!おい!」
窓の外が少し騒がしいが、気にせず朝の支度をして学校にいく準備を整えた。
さすがに少しやり過ぎたと思い、ベランダに戻り窓のフレームのタッチパネルを操作し、鍵を開けた。
「おい!せっかく起こしてやったのに、何で開けてくれないんだよ!」半泣きで、すごく怒った様子でリビングに乗り上がってきた。
「ごめん、光彦に化けた不審者かと思ったから。」と棒読みで返してみると、
「おい、本当にぶっとばすぞ。」半泣きのまま切れた様子で、玄関に向かう俺に後を追ってきた。
『管理者の退出が確認されました。室内すべてのキーを施錠します。』部屋を出ると扉の鍵が電子音とともに自動で施錠された。
「いやぁあ、すごいなぁあ!何だこの近未来感の強いシステムは!」またまた、光彦が自動的に動くものにいちいち反応する。そんな彼に、冷たく返した。
「そんなの俺たちの世界にもあった、ただのオートロックに変わりないだろ。」
「いや、この電子音とアナウンスが付いているからこそかっこいいんだよ!やっぱり、お前にはわからないかなあぁ。」
いや、わかりますよ?わかるんだけど、そんなにはしゃぐことじゃないですよね!と心のなかで叫んだ。
学校の場所は、寮を出てすぐ左を少し歩いたところにある。いつもの癖で光彦の話を完全に聞き流しながら参考書を読み歩きしてると、すぐに学校についた。
「お、おおぉ。」
学校も予想通りではあったが、豪華な作りに思わず声が出てしまった。
「うひょ~デケェなこれはあ!」
光彦は、相変わらずこの反応。
真新しく感じる外壁の綺麗さにも驚いた。築100年と書いてあったガイダンスブックを疑ってしまうほどだ。この建物の維持にどれだけのお金が使われているのか気になってしまうのは、やはり自営業をやっていたせいだろうか。
中に入ると、事務員らしき方に職員室と自分の机の場所が載っている紙を渡された。
俺の席は窓側の1番隅のところだった。たぶんFクラスだからであろう。顧客相手以外だと、あまり上手に会話ができないので、隅の席で助かった。
7時20分に職員会議が予定通り始まった。
「ええ、みなさんおはようございます。今日からまた、新しく学校の一年が始まります。皆さん、ことしも頑張っていきましょう。ええ、そして、今日から新しい講師が入りました。ええ、名前は次のとおりです...。」
副校長が挨拶と今日の朝行事の流れについての説明があり、あっという間に10分がたった。
「...ええ、以上で職員会議を終了しようと思うのですが、会議の最後に、時々問題のある生徒が挙げられる時があるので、それを頭に入れておいてください。以上で終わりにします。解散。」
職員会議が終わると一気に、職員室に人影が薄くなった。
ぼーっとしていると、光彦が声をかけてきた。
「おーい、何してんだ?もうホームルーム始まるぞ。」
「お、おう、ごめんごめん。今行く。」そう言いながら、机の上においてあったものを、全てインベントリにしまい、職員室を出た。
「とうとう始まったな、教師視点の学園生活が!」
光彦の言葉に、俺は単語帳を読みながら適当に返した。
「そうだな、学校なんてつまらない所としか思ってなかったから、教師の立場になって考えると、申し訳ないな。」
「それは、ひどいなあ。そんなこと思ってたのか!じゃあ、そういうやつが出ないように、みんなが楽しくなるようなクラスを築けよ!」
光彦は、俺の暗い言葉に相変わらず明るく返した。なぜそこまで人と会話するのに明るく接することができるのだろうか。本当に教えてほしい。
「楽しいクラスねぇ。」
俺は窓の外を向きながら、そうつぶやいた。
「まあ、生徒一人一人をしっかり見て、この学園生活をしっかり見守ってりゃ、自然と楽しいクラスになってくだろ。だから、頑張れよ!んじゃ俺はここだから、またな。」
そして、Eクラスの教室に入っていき、俺もFクラスに入っていった。
「俺らの先生外れなんだってー。」
「え、うそ!誰が言ってたの?」
「俺の父さん、王様の近くで働いてるらしいから聞いちゃったんだけど、ステータス値が初心者レベルなんだってさ。」
「え、なにそれ、私達より弱いってこと?」
「誰か力の差を見せつけて、一発かましてやれよ!」
「うわー、可愛そうだよ、それー!」
「あ、先生きたよー。めっちゃ体ちっさいしヒョロヒョロじゃん。馬鹿にしてるの?なにこれ、ふはっっ…。」
教室に入ると、教室内の生徒たちはコソコソとうわさばなしをしていた。
「今日からFクラスの担任になる高野 悠希だよろしく頼む。」
「せんせー。先生に決闘を申し込みたい人がいるんですけどお、相手してあげてくださいよー!」
俺が自己紹介を始めたときに、誰かが口を挟んできた。
「今は、俺が話しているから少し待ってくれ。あと、今から出席をとるから呼ばれたら返事してくれ。」
そして、無事出席確認も終わり、怒りマックス状態でホームルームが終わった。
ここから10分間休憩が入る。普通の日本の学校とあまり変わらないだろう。
その休憩の間に生徒全員は、アリーナに移動した。
「これより、第101回入学式および始業式を開始します。」
この学校では、始業式と入学式を同時に行うみたいだ。司会の入場という合図に合わせて、新入生はアリーナに足を踏み入れ一人ずつ着席していった。そして、よくわからない歌を歌った後に歓迎の言葉が送られ、その後にAクラスから新入生代表の言葉が読み上げられた。
「暖かな春の訪れと共に、私たちは無事に、第一魔術師強化訓練校の入学式を迎えることができました。
本日は、このような素晴らしい入学式を行っていただき、ありがとうございました。
本校での3年間の生活がこれから始まるということで、期待と不安が入り混じっていますが、先生方や先輩方にいろんなことを教えてもらいながら、毎日を悔いのないよう過ごしていきたいです。
勉学、実技、行事。
何事も一生懸命、全力で取り組んでいきたいと思っています。
*省略*
先生方、先輩方、並びに来賓の皆様。
私たちへの励ましのお言葉をありがとうございました。
これから温かくも厳しいご指導のほど、よろしくお願いいたします。
神暦152年 1月6日
新入生代表ヤン・ゲオルク・ミューエ」
大きな拍手とともに新入生代表のヤン・ゲオルク・ミューエは、堂々と胸を張りながら舞台を降り、自分の席へ戻っていった。
「続いては、新規職員の紹介です。」
アナウンスに続いて、新しく第一魔術師強化訓練校に配属された職員が続々と舞台へ上がっていき、自己紹介を一人ずつ述べていった。最後の校長先生の話では生徒たちはすでに力尽きていた。最後のとどめを刺すかのようにダラダラと長い話が始まり、アリーナは時間と睡魔との耐久レースと化していた。
長い朝行事も終わり、気持ちを切り替えて教科書に沿って昨日予習したことを思い出しながら授業を始めていった。しかし、朝行事では死んだように静かだった後ろの席の子たちは、生き返ったように盛り上がっていた。先程は、今朝のこそこそ話より少しずつうるさい程度だったが、今では自分の声が届かないくらいうるさくなっている。心を無にして、教科書どおりに淡々と話を進めていると、さっきから後ろでうるさいFクラスの中で一番の成績で入学してきたクルト・フォン・ベッカーがまた突っかかってきた。
「せんせー!聞こえないんですけどー!もっとっしっかり喋ってもらえますかー!」
この発言に俺の沸点は限界値を超えた。
すると、俺の体が急に熱くなりだし、パリンと鎖が引きちぎれるような音とともに俺の体が軽くなっていく。
その波動で窓ガラスが割れ、一瞬で静まり返った。
俺は、目を赤く光らせて低い声でこういった。
「聞こえないのは、あなたのせいではありませんか。俺が弱いことをあざ笑うのはいいが、従業中ふざけるのは大概にしろ。」
握力で教卓を歪ませながら響いた声は冷たい空気に溶け込み、クラス全員返す言葉もなかった。しかし、クルトは悔しかったらしく、怯えながらも言い返してきた。
「フン!なんだよ!そんな雰囲気だけで脅せるとでも思ってんのかよ!お前、ステータス初心者並みなんだろ!弱い分際で先生名乗ってんじゃねぇよ!もし、そっちがその気ならいいぜ!決闘だ!」
「お!そのいきだ!」
「いいぞいいぞ!もっとやれ!」
それを聞いた周りの連中もクルトの態度に安心し調子に乗り始めた。
「だめだよ!鎖が切れたような変な音がしてから先生の能力値がどんどん上がってってるんだよ!」
ペトラ・フォン・シュミットという情報透視持ちの女の子が頑張って止めようとしているが、調子に乗り始めた連中のもとには届いていない。
「いいでしょう。叩きツブシテヤリマショウ。」
そして、クラスは魔法練習場に移動した。
***三人称視点
現在高野 悠希のステータス
Your data
Name Takano Yuuki 高野 悠希 (16)
Lv.01 Exp.01/10 MP 236478/ 2367489190919991898 UNLOCK HP 2137890/2137890 UNLOCK
STR 1237890 UNLOCK ATK 1237890 UNLOCK
VIT 1237890 UNLOCK DEF 1237890 UNLOCK
INT 78902347890 UNLOCK DEX 1237890 UNLOCK
AGI 1237890 UNLOCK WIS 10 UNLOCK
スキル
【契約制限XII】UNLOCK
神への信仰心が多く欠けている人に対して施される封印のひとつ。信仰心が薄いほど制限レベルが上がる。
能力値が高いパラメータをすべて基本値に制限する。
条件を満たすと、一時的に解除できる。また、「魔力耐性 -n」も同時に解除可能。
【神制限X】UNLOCK
魔力量が多い者にかけられる制限。
魔力を基本値にし、更に1/10に制限する。
条件を満たすと、一時的に解除できる。また、「魔力耐性 -n」も同時に解除可能。
また、この制限は厳しいため、神を呼び出すことが可能。
【魔力体制 -V】UNLOCK
保有魔力量が多く危険性が高いとみなされた者にまれに与えられる。
強制的にMPを100にする。
【修・全属性】
すべての属性に関する魔法の知識を十分にあると能力値更新時に確認されたときスキルとして与えられる称号。
修・属性スキルは、属性スキルとは違いMPと関係なく魔法を発動することはできない。
また、このスキルによる無詠唱魔法の制御は精神状態に比例しない。
【情報透視】
観察力のある者に与えられるスキル。
視界に入ったすべての情報を感じとることができる。
なお、現在更に能力値上昇中。
***
魔法練習場で審判は、事務員の人に行ってもらった。他のクラスからも授業を抜け出して見に来てる人もいる。
「これで負けたら、先生をやめてもらいます!すぐに片付けてやりましょう!」
自信満々に煽りちらしてくるのにまた怒りがマシどんどん体が軽く感じていく。
「カカッテキナサイ、ドウセナクノハソッチデスカラ。」
俺が喋った途端に、ペトラが吐き出した。情報透視の副作用で、自分より上で見たことがない数値を見ると履いてしまうのだ。それを見た近くの人は青ざめた。
「こいつが吐くって、よほどつええんじゃねえか…。」
ペトラが吐いたことに気づかない奴らはのんきにクルトを応援している。
「こんなちびやっつけちまえ!」
「どちらかが戦闘不能と判断した場合勝敗が決まります。試合開始。」
試合開始直後、クルトは術式を起動した。
「神よ、我に力を与え、更に三機の術式を展開せよ。この上なく燃え盛る炎をまとい、この上なく鋭い槍となりて、我が敵を貫き、焼き払え!【Frame Lance】!」
「その魔法は、上級魔法!?それはだめだよ!いくら先生でも殺しちゃうかもしれないよ!」
「いいぞ!やったれやったれ!」
周りが上級魔法を繰り出そうとしているのみて騒がしくなり始めた。
クルトが詠唱を終えると、彼の背後から、3つの魔法陣が出現し炎をまとった3つの槍が生成され、ものすごい威力でこちらに向かってきた。
そして俺は避ける間もなく体を貫かれた。
「…えっ。…死んだ?のか?」
観覧席に居たクルトの友達でアレクと呼ばれているアレクサンダー・フォン・シュルツが驚きのあまり声を漏らした。
同時に辺りは冷たく凍りつきそうな空気に静まり返っている。皆は先生が魔法を防御態勢を取らずに直撃して死ぬとまでは思ってもなかったそうだ。
痛い、今まで感じた痛みの何倍も何十倍も痛い。熱い。動けない。これは死ぬ。
心のなかでは泣き叫んでいるが、声が出ない。俺は考える暇もなく気を失った。
***三人称視点
【WIS 0】!WARNING!SAFETY LOCK COUNTDOWN TIMER 10:00
「うわ!先生立ち上がったぞ!」
「あんなに血を流してるのに!?」
「人間じゃねえよあれ!」
悠希は
理性のない獣人と化したのだった。
「アナタノツヨサハリカイシマシタ。アナタモワタシノコウゲキウケトレマスヨネ。」
理性をなくした悠希は、クルトに照準を定め手でピストルの形を作る。
勝手に魔法陣が地面に浮き上がり、型どった人差し指の先から、更に魔法陣が出現した。
右手が、fpsゲームで悠希が接近戦で愛用していたベレッタM92に変形しトリガーが自動で動き始めた。
「何だあの魔法!見たことないぞ!」
「逃げろ!死ぬぞお前!」
「早く!降参しろ!」
誰も見た事の無い魔法を目の当たりにした観覧席で応援している人達は、必死に声をかけた。
「神よ、我に力を与えて、…」
クルトは観覧席から声も気にせず、クルトは守りの体制に入り次の攻撃の準備をしている。
耳を突き刺すような発砲音とともに光希の右手の先から、9mm×19mmのパラベラム弾がで火を吹いた銃口から右回転で飛び出した。
「…【shield】!」
銃弾はシールドを展開するよりも早くクルトのもとへ届き左足の太ももを貫いた。
「うはっ…」
左の太ももからは、出血し動くとのめり込んだ銃弾が神経を刺激する。
クルトは、すぐさま回復魔法をかけた。
「神よ、我に力を与え、我が傷を癒せ!【heel】!」
「うわあっ…。」
「…【heel】!」
「ぐはっ…。」
「なぜだ、なぜヒールで治らない!。」
魔法による攻撃には、主に貫通攻撃と普通攻撃に分かれている。貫通攻撃では、標的を貫通させる攻撃であり、通常攻撃は、熱、圧力、切込み等による攻撃のことである。つまり、先程の弾丸は貫通せずにちょうど骨の髄まででとどまり、埋め込まれた状態にある。この世界で今までなかった形式だ。治癒魔法では、外部から侵入した細菌を死滅させ、破壊された細胞をすべて元の状態まで復元することができる。しかし、この場合は体内に細菌ではない個体の不純物が混ざっているため治癒魔法では魔力が削られるだけで更に痛みが増して治らない。完全に回復させるには、上級治癒魔法でないと完全に治療することが不可能。傷口を自ら広げ不純物を取り出せば初級魔法でも回復することが可能だが、傷を広げた分だけ治癒魔法に必要な魔力は増加する。
***
***クルト視点
くっそ、痛い。治ってくれ。ヒールをしているのになんで痛みが増すんだ。
俺は、必死に詠唱を繰り返した。
「おい!何やってるんだ!早くしないと!また。」
アレクが、クルトに警告しようとした。
しかし、混乱している俺には聞こえていない。
先生は、銃口をこちらに向けてトリガーを動かし始めた。
ヒールにほぼ全ての魔力を使ってしまった俺は、シールドを展開する余裕がない。
…死にたくない…。
俺は恐怖を覚えながらも、銃口を見つめることしかできなかった。
「ぐはっ…。」
発泡と同時に、俺の腹を銃弾が貫いた。
あまりの恐怖と痛み、苦しみ、が俺を襲い直ぐに気を失ってしまった。
「く、クルト・フォン・ベッカー戦闘不能。勝者 高野 光希。」
***三人称視点
「嘘だろ、死んだのか…。おい!クルト!死んでないよな!」
アレクが叫ぶと、先生がこちらを向き銃口を向けてきた。
「おい!審判!もう試合終わってるんだから早く手当するべきだろ…っておい!アレク!しゃがめ!」
アレクの少し離れたところに居たオドラニエル・フォン・ボイが叫びそこに居た人たちは即座にしゃがんだ。多くの女子は、悲鳴を上げていた。悠希は観覧席に向かって発泡してきたのだ。悠希はすでに理性を失っているためもう歯止めが効かない。観覧席にいる者は全員死を悟った。
***
***アレク視点
理性を失ってる為か、全員を敵視し始めたか。このままでは俺たち全員殺されてしまうのではないか。はっきりいってあの先生はもう人間じゃない。獣だ。俺が死んだとしても、クラス全員が死ぬのはまずい。俺がなんとかしなくては、オドラには悪いが、俺と一緒に囮になってもらおう。そして、俺はオドラに目を向けた。オドラも、俺の考えを察してくれたようでうなずいてきた。
***
***三人称視点
「おい!オドラ!少しでも多く皆を逃がすぞ!」
アレクはそう言い、オドラとアレク二人が囮になるから今すぐ教室に戻るように皆に伝えた。
二人を残すのに反対するものも居たが、なんとか説得させることができた。
オドラも立ち上がり、アレクのところに駆け寄った。
「二人だけで足止めできるかわからないけど、少しでも皆が助かればそれでいい。やるぞ!」
「おう!…そういや、あいつは恐らくさっきの魔法しか使わないだろう。色々変形してくるかもしれないが、シールドを準備して、とにかく動き回るぞ。」
「シールドは間に合わないんじゃ…。」
「あれは間に合う、音がする前に引き金みたいのを引いていただろ。あれが動いた瞬間に、展開しろ。それなら間に合う。あと、あれにやられたら、もう動けないと思え。」
「よし!わかった。」
彼らは相談のもと作戦を立てて、先程から無作為に発砲していた悠希に【Fire Lance】を一発二人で合わせて放った。
それに気づいた悠希は、振り返り二人にめがけて銃口を向けてきた。
「よし!今だ!みんな!逃げろ!」
彼らは、初級魔法を連射してヘイトを集めながら、皆に被弾しないように悠希を誘導した。
3分程彼らは、全力で走り、囮になり続けた。ふたりとも息が上がっているが、悠希の魔力は尽きる様子がまったくない。
二人はもうそろそろ負けると覚悟を決めていた。
「もうみんなは、安全なところへ避難できたかな。」
アレクがそう呟いたとき、訓練場の入り口から多くの人達が駆けつけてきた。
「俺たちも手伝うぞ!だから、まだ死ぬなよ!」
「私達も加勢します!」
「俺たちも負けてられないからな!」
「おい、人数が増えたところで無理に決まってるだろ!早く逃げろ!」
オドラが全力で加勢してきたクラスメイトに叫んだ。しかし、その声は届かなかった。
「神よ、我に力を与え、燃え上がる炎を解き放て!【Fire Ball】!」
一斉に火炎魔法を放ち、悠希の体は炎に包まれたが彼は動きを止めずにクラスメイト達の方に地面を蹴り進み一瞬で間合いを詰めた。そして、一秒足らずで彼らは殴り殺された。なんとか避けきったエックハルト・フォン・ブラウミュラーは剣を構え後ろから襲いかかったが、それも気づかれた挙げ句に素手で剣をふんだくられ、その剣は彼の血で染まった。
そして、加勢してきたクラスメイト達は、あっけなく皆殺しにされたのである。
悲しみ、憎しみ、怒りがオドラとアレクを取り巻き、二人は立ち上がった。もう一度最後の魔力を振り絞り、上級魔法【Frame Lance】を繰り出そうと二人は手をつなぎ悠希を見た。
【WIS 0】!WARNING!SAFETY LOCK COUNTDOWN TIMER 00:00
【WIS 0】!WARNING!SAFETY LOCK!SAFETY LOCK!SAFETY LOCK!
二人が魔力を統合しようとしたとき、悠希の足元に巨大で薄気味悪い赤色の魔法陣が出現し、大きな音と光とともに稲妻が悠希の体を襲い悠希は気絶した。
さらに、その巨大の魔法陣から赤い瞳と白髪に制服姿で謎の男が現れた。
「はあ、あらあら。結構やってくれましたねえ。私の信者をこんな無様な姿にしてくれるとは。」
生き残っていた2人は悠希が気絶したことに安心して静かに地面に倒れた。
「君たちはよく頑張った。静かに眠りなさい。」
謎の男の優しい言葉に2人は気を失った。