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初めての部活動 中編

ーーーレマリア城(レマリア・シャトー)。イーストウッドの巨木を中心にして赤茶色の煉瓦で造られた無数の塔と居館からなる城を囲む様に建てた、そんな物である。

 城のみで152メルト、イーストウッドまで含めれば200メルトを超える程の高さを誇り、周囲を高層ビルに囲まれた今でもその威厳は衰えず、未だに最大高度建築物の座を譲っていない。

 また、イーストウッドの樹冠はその城を護る様にその頭上に広がっており、その様相は正に"公国の守護樹"と呼ぶに相応しい物となっている。


 さて、かつての聖戦時代には神軍の5人の勇敢で、そして愚かである戦士達、通称"勇者パーティ"と、魔族の王、即ち"魔王"たるキャサリン・グロリア・スカーレットが激しい戦いを繰り広げたこの城ではあるが、現在ではその門は開かれており、一般人でも内部を見学する事が出来る。

 聖戦当時、そして現在でも世界最大級の建築物であるこれは良い観光資源となっており、年間実に1500万人以上が訪れるという。



「ひろーい!!!」

「凄い……」


 そして今、私達は特別チケットーーーエステルが父親(宰相)にねだって用意させた。普通にチケットを買うと1時間程並ぶ事になるのだーーー城の中に入っていた。


「私、中に入ったのは初めてだよ。……こんなに広いんだね」

「巨人族やドラゴンも入れる様にしてるからね!」


 その城は、正に"魔族の為の城"であった。

 魔族は種族差が大きい。小人族や妖精族であれば体長が数十ランチ(センチ)というのも珍しくなく、逆に巨人族やドラゴンであれば体長が数十メルトというのが普通である。

 最も、ドラゴン族の中にはその体を数メルトにまで縮められる種もあると聞く。スカーレット公国軍四天王の一角、月竜(リュンヌドラゴン)のリリノア・ドラグーンなどはその典型例だ。

 だがそういった種族は極一部であり、普通は体格を大きく変える事などは出来ないものであり、その点この城は極めて魔族向きの城であろう。


 今、私達が歩いている廊下、そしてくぐって来た門などは高さが30メルトもある。これは巨人族やドラゴンの平均身長から見ても十分な高さである。

 また、深めの水路が2つ設置されており、人魚族(マーメイド)や水潭族ーーー頭、耳、手足等にヒレが付いている人型の水棲種族ーーー等が自由に移動出来るようになっている。



「……そういえば、城って何があるの?」

「え、知らないんですか?」

「うん……適当に言ったから」


 私が呟くと、リーグは驚いて何処か自慢げにつらつらと説明していく。


「城の1階は博物館になっていて、聖戦時代の色んな物が展示されてるんですよ! 実際に使われた武器や防具、大砲なんかまでがその歴史や経緯と一緒に飾られているんです! 男のロマンですよ!」


 鼻を鳴らして言う。男のロマンと言うが、貴女は女ではないか。私は心の中で呟いた。


「それと、聖戦やそれ以前の詳しい資料なんかも見れるそうです。本来相容れない存在の神と魔族との間に芽生えた禁断の恋の話とか……ふふふ」

「リーグ、そういうのが好きなんだ」

「だって良いじゃないですか! 最初は敵同士で、何度も何度も戦っていく内に何か憎しみや敵対心とは違う感情が芽生えていって」

「なるほど、よく分かった」


 このままでは立ち上り続ける煙の如く延々と喋り続けそうだったので、途中で無理やり話を切る。


「禁断の恋……」

「?」


 その話を聞いていたエステルが、ちらり、とこちらに視線を送る。


「私達は別に禁断じゃないもんね!」

「え、う、うん」


 何を言い出すのだろうと思えば、そんな事だった。大方私と彼女の関係の事を言っているのだろうが、片や元とは言え暗殺者、片や大国の宰相の娘、限りなく禁断の関係に近いだろう。

 ただ、そんな事を今言ってしまえば私が彼女の傍に居てはいけない立場の者だと自白してしまう様な物ーーー約1名には殆どバレている様な物だがーーーなので言わないが。


 そんな事がありながら、私達は展示室へと向かったのだった。



「これが……最初の銃……」

「変な形だね」


 ここは展示室。聖戦時代の様々な物が展示されている中、私の興味を引いたのは聖戦以前に人間の錬金術師(アルケミスト)のシュタートによって考案されたという最初の火砲『石火矢』であった。

 その見た目は現在のそれとは全く異なり、木の棒に、中心と後部が膨らんだ青銅製の筒を取り付けている。


「それはですね、その筒の中に火薬と弾を込めて、後ろに空けられた穴に火を入れて火薬を爆発させて撃つんです。元々は人間に稀に現れる無魔力者(スクイブ)の為にと考えられたそうですが、結構重いですし弓を使った方が速いという事で流行る事はなかったそうです」

「へえ、よく知ってるね」


 私は感心した。するとリーグがその自慢げな顔を更にドヤらせ、話を続ける。


「ですが、シュタートは諦めず、友人のエルフにその設計図と実物を託したそうです。そのエルフはそれを大切に保管していました。そして聖戦中期の事です」


 ()()は『石火矢』が展示されている横にあるガラスケースの前へと移動する。

 その仲には、現在のライフル銃の様な形をした長い銃が飾られていた。


「当時まだ幼かったキャサリン現王妃が旅をしていて、とある老いたエルフの家を訪ねました。彼女はそこで飾られている石火矢を見て興味を示したそうです。それを聞いた彼女(エルフ)は設計図と共にそれがどういった武器なのかを説明しました。

 その説明を聞いたキャサリン様は感心し、「これは使える」と思ったそうです」

「王妃様が関わってたんだ」

「そうなんです! で、その石火矢を元にキャサリン様が作り上げたのが、この『火縄銃』です!

 当時はその石火矢が作られた頃とは鉄の加工技術も比べ物にならない程に向上していましたから作る事の出来た物で、棒状ではなく握りやすい湾曲した様な形にしました。また、火縄を使い、それを引き金と連動させる事で撃ちやすくもなったんです!」

「へえ」

「これはとても画期的な物でしたが、魔族はその殆どが魔法を使いこなせるのであまり浸透はしませんでした……ですが、実はキャサリン様の目的は銃ではなかったのです」

「?」


 そう言うと、また隣に移る。


「キャサリン様の目的は当たっても人間1人しか仕留められない小火器などではなく、当たれば船や城壁ですらも破壊が可能な、大砲だったのです!」


 そこには、巨大な鉄の筒が置いてあった。


「火縄銃を作った後に開発されたこの大砲は『キャマリア砲』と呼ばれてーーー」


 その後も、彼女は喋り続けた。余程銃のことが好きなのか、一般人では絶対に知らないであろう細かい事などまで。

 私にとっても、つい最近まで銃を使っていたので興味深い話であった。なので、聞き入ってしまったのだ。


「ーーーそれでですね、ソルド王国のロジックス・エンフィールド氏がこの中折れ式を考案して、なので中折れ式銃の事をエンフィールド・リボルバーと呼ぶのです」

「へぇ、そんな由来だったんだ」


 だから、時間は進む物であるという事を忘れるのも仕方の無い事なのだ。



「ねえ、シン」


 くい、とエステルに裾を引っ張られる。


「ん、何?」

「もう12時半だよ」

「そうなん……え」


 サーっ、と血の気が引いていく。私が慌てて懐中電灯を取り出して見ると、時計の針はきっちり12時30分を指していた。ここに来たのが9時25分であったから、3時05分も話し込んでいた事になる。


「え、もうこんな時間なんですか!?」

「も、もう昼食の時間……」

「うん」


 そう相槌を打つ彼女は、少しムスッとしている様だった。


「すっかり2人の世界に入っちゃってたよ」

「ご、ごめん……」

「ふふっ、でもシンが楽しそうだったからなによりだよ。ミリオタの素質あるんじゃない?」

「みり……?」

「えーっ! シンさんそうなんですか!? 今度一緒に軍艦とか見に行きましょう! そうしましょう!!」


 そのみりおた、という言葉を聞いた瞬間にリーグが目を輝かせ、耳をぴょこぴょことさせて言ってくる。

 みりおた、というのが何なのかは分からないが、軍艦か……この様子なら確かに好きになれるかもしれない。


「飛空艇とかも良いかもしれないね」

「フルクロー級騎空重輸送艦のゴチャゴチャ感やハルバード級騎空小型高速艇のスマートな形、最高ですよね!! あ、でもディナ・ヴィロリア級も」

「はいはい、そこまでそこまで。ほら、皆もうレストランに行っちゃったんだからさっさと行こう?」

「え、もう皆さん行ってるんですか!?」

「そうだよー」


 どうやら私達は置いていかれたらしい……いや、自業自得か。


「そうだね。早く行こうか」

「うん!」

「はい!」


 そうして、私達は城のレストランへと向かったのだった。

※この作品はフィクションかつ異世界です。現実とは何の関係もありません。


分からない単語やら何やらが結構出てきたと思いますが、それはこちらでも把握してるので後々に説明が来ます。なので今は分からなくても問題ありません

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