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初めての部活動 前編

受験つらみ

 授業を終えた私とエステルは、入学から二度目となる旅行同好会の部室へと足を運んでいた。私にとっては初めての部活動であった為に、少しの不安と高揚感を胸に抱きながら、そのやや汚れた扉を開けたのである。

 そこには、既に私達2人とローシャーを除いた全ての部員が集まっており、そのローシャーも私達の直後に部室へと入って来た。


 そうして始まった人生初の部活の内容は、これまた人生初となる旅行の行先を決める事であった。どうやら今週末に日帰りで何処か旅行へ行くのだという。

 未だに部員が増えた事に頭が追いつかず、震えながら黒板の隅に『部活旅行行先候補』と部長が書く。すると、


「フォーチュナ!!」


 直後、これまで静寂を保っていたセリカが勢いよく挙手し、そう叫ぶ。その単語が地名であるという事に部長が気付くには、数十秒の時間が必要であった。

 だがしかし、そんな事は想定内だったのか、彼女の隣に座っていたシャーフルが言う。


「セリカ、日帰りって言ってただろ。フォーチュナは無理だ」

「そんな!!?」


 部長が理解するよりも早く、彼が彼女の提案を理論的に否定する。否定された彼女は唖然とし、いかにも想定外だと言わんばかりの表情を浮かべる。


 フォーチュナは、ヒューロニア大陸の西部にある巨大な森だ。高さ50メルトをゆうに超える大木によって構成されており、そこにある建物は殆どがそれらの木々をそのまま利用した物で、その幻想的な光景も相まって世界各地から観光客が押し寄せている。

 更に、世界三大神の1柱、植物を司る老神カリーナの住まう土地でもあり、彼女の信徒達もその姿を1目見ようと足を運んでいるらしい。


 まあ、そんな訳で旅行には最適な場所ではあるのだが……如何せん、場所が場所だ。遠すぎる。

 鉄道で向かおうとすれば寝台列車に乗らなくてはならないし、よしんば交通費度外視で飛空艇で向かったとしても、観光時間は1分に満たないだろう。



 さて、セリカの件が一段落した所で議論が再開される。候補は意外にも沢山上がってきた。

 公国の東に位置する島国、ジェニール神国や聖戦の時代に造られた長大な壁、"公国の壁(レマリア・ミュール)"などなどだ。


 そんな中、ふいにエステルが言った。


「シンは何処か無いの?」

「あ、そうですよ! シンさんさっきから何も言ってないじゃないですか!」

「ぐぬぅ」


 その言葉に、リーグからの厳しい追求が飛ぶ。折角空気に徹していたのに、エステルめ、余計な事を……。私は心の中で毒づいた。


「わ、私は何処でもいいk」

「何処?」


 圧。


「……え、えっとー……」


 何処か、何処か無いのか。丁度いい場所は。①レマリアに近く(日帰りで行けて)、②鉄道やバスで行けて(交通費が安くて)、③旅行先として相応しい(テキトーではない)場所はーーー


 私は頭をフル回転させた。それはもう、レレーライール共和国の大統領を暗殺する時よりも。

 アクアス、いや遠過ぎる。ミルニッツ湖、これも遠い。月の塔(リュンヌ・ラトゥール)、これも……うう、良い場所が無い。これも全てレマリアの立地が悪いのだ。世界一の都市だ何だと言っているが、その周辺は田畑か小高い丘位しか無いーーーどんな街も大体はそうであるーーーのだ。所詮は田舎である。


 と、王都に八つ当たりしていた時、私に天啓が舞い降りた。



レマリア城(レマリア・シャトー)とか……」



 そう、街の外が虚無ならば街の中で何か探せばいいのだ。盲点であった。灯台デモクラシーである。え、違う? うるさい。そんな事は今はどうでもいいのだ。


 ふと、顔を上げてエステル達の方を見る。彼女達はぽかんとこちらを見ていた。

 うっ、まさか街の中では"旅行"にはならないのか。


「……やっぱり忘れt」

「良い!! 良いよシン!!」

「ひうっ!?」


 突然私の手を握り、顔を近付けてそう叫ぶ。それに私は部長みたいな声を上げてしまう。


「レマリア城ですか……盲点でした。流石シンさんです!!」

「にゃはは、確かにそれなら日帰りで行けるっすね」

「凄い!!」

「街の中っていうアイデアが凄い、だな。俺も思うぞ」

「い、良いとお、思います」


 全員が一斉に肯定してくる。怖いくらいである。皆もっと自分のアイデアに自信を持って欲しい。


 と、その時。ガチャ、と部室の扉が開かれる。



「……あれ、先生?」


 私は、その扉を開けた"彼"を見てそう呟いた。

 実を言うと、こちらに向かって来る気配は察知していた。そして、その気配が何処かで知っているような気がしていた。


「オリヴィア、一体何の騒ぎ……え?」

「あ、ベル先生」


 入ってきた彼ーーー地理の教師、ベル・ヴィーロン先生に、気付いた部長が声をかける。

 彼は私達を見るやいなや目を丸くし、硬直した。


「ベル先生、こんにちは」

「あ、ああ、リーヴィハット……何故ここに?」

「何故って、部員だからですよ?」

「は?……え? シン、お前もか?」

「え、は、はい」

「リーグ、セリカにシャーフル……それにローシャー……」


 名前を呼んだそれぞれに指をさしていき、また硬直する。……この反応、何処かで似たような物を見た気がする。


 彼が我を取り戻したのは、それから1分ほど経ってからであった。

 部長によると、彼はこの部の顧問らしい。

 そしてやはり、彼も突然部員が増えて驚いていたらしい。入部届けを見ていなかったのか、と一瞬思ったが、よく考えてみれば入部したのが昨日で、すぐに部長が気絶してしまったが為に書いた入部届けを部室に置きっぱなしにしていたのを忘れていた。

 入部届けはまだ引き出しに入っているのだ。


「で、今何をしてるんだ?」

「週末の日帰り旅行の行先決めですよ。良い案も出ました!!」


 エステルが元気よく答える。


 その後、その"良い案"というのがレマリア城(レマリア・シャトー)である事を告げると、「それは旅行なのか?」と苦笑いをしたりもしたが、結局は、


「そ、それでは、新年度第一回目の部活旅行は、リュートス(シンドバッド)さんの提案した、レマリア城(レマリア・シャトー)で、よ、よろしいですか?」

「「「はーい!!」」」


 部長のぎこちない言葉に、エステルやリーグが快活な返事をする。私が取り敢えずで提案したその旅行先に、反対する者は誰も居なかった。


 かくして、私の初めての部活旅行は、歩いて10分程で辿り着く城に決まったのだった。

入部する時は世界を見てまわりたいとか言ってたのに、いざその時になるとコミュ障ムーブかましてしまうシンドバッドさんェ……

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