クラブや部活に研究会、あと同好会
遅くなって申し訳ございませんでした
「魔法遊戯倶楽部! 魔法遊戯倶楽部をよろしくお願いします!」
「天文学研究会はいかがですか〜」
「そこの君! 我が自動人形開発部に入るのだ!!」
その日の授業が終わり、外に出るとそこは多くの看板やのぼりなどを持った生徒達で賑わっていた。ネクタイの色からするとどうやら上級生らしいが……
「……何これ」
困惑する。生徒達の様子を見ていると何かに勧誘しているように見えるが……
「クラブの勧誘だよ。学院の規則では全生徒が何かしらのクラブに入る事が決められてるから、シンも入らないとダメだよ」
「ふうん……」
少し面倒臭いなあ、と思っていると、
「そこの君達!! 魚人空手に興味はないかね!?」
道着を着た半魚人の少年が意気揚々と話しかけてくる。空手には興味は無いので丁重にお断りすると不満気に帰っていった。その後すぐに別の生徒に話しかけていたが。
「何に入ろうかな」
「はいこれ」
「……多いね」
「そりゃあ天下のレマリア中央学院だし」
渡されたのはクラブ一覧。先程勧誘された魚人空手部や野球部などの運動部から、魔法遊戯倶楽部や天文学研究会、歴史探求部などの文化部まである。
それらの中に射撃部もあった。リーグなどはここに入るのだろう。だが、私は入らない。もう銃はたくさんだ。
「……ん?」
ふと、気になるクラブがあった。隅の方に書いてあるのでよく見なければ気付かなかったであろうその名前は『旅行同好会』。
「なになに、何か気になるクラブでもあった?」
「旅行同好会……」
「旅行……良い、良いよシン!」
「ふぇ?」
「思えば遠い所まで行く機会無かったもんね! 折角時間いっぱいあったのに……」
「う、うん」
思っていた以上に食い付きが激しい。
今まで遠出しなかったのは私がレマリアで満足してしまっていたのと、あとは受験勉強で忙しかったから、という理由でなのだが……まあ行っていないのに変わりはない。
「じゃあ早速見に行こー!!」
その号令で、私達は旅行同好会の部室へと向かったのだった。
そして辿り着いた部室。そこは校舎の端の端で、人気は全くと言っていいほど無い。廊下は昼間だというのに薄暗く、細長い魔灯は点滅し、天井の隅には立派な蜘蛛の巣が張っていた。
その奥にその扉はあった。所々塗装のはげた重々しい鉄の扉。そのノブを恐る恐る握り、意を決して開ける。
「こ、こんにちはー……」
「こんにちはー!! 私達入部希望者ですっ!!!」
声を潜める私に対し、エステルは声を張り上げる。だが、それに応える者はいない。
「あれー? おかしいな、鍵はあいてるから誰かはいる筈なんだけど」
「……一応、いるみたいだよ。そこでうずくまってるけど」
「どこどこ……あ! すいません、私達入部希望者なんですけど」
部屋の隅で頭を抱えてうずくまっていた栗毛の髪に猪のような耳を生やした少女にエステルが話しかける。が、少女はこちらを向かず、震えながら言った。
「……こ、こんな所にい、一体何のよよ用ががが」
「いや、だから入部希望者」
「はは張り紙だってしてないし、か、勧誘もしてないのに来る筈ががが」
「にゅ」
「ぶ、部費なんてな、無いですから!」
「いや、そんな」
困惑するエステル。しかし、少女の言い分も分からなくはない。張り紙もしておらず、勧誘もせず、あまつさえクラブ一覧では隅の方に小さな文字で書かれ、更に来るには人気のない場所を通らなくてはならない。好き好んで来る様な者はいないのだろう。
まあ、それでも過剰に恐れすぎているとは思うが。
その内、おどおどしている少女に痺れを切らし、私が近付いて肩を掴み無理矢理こちらを向かせる。
「ひぃっ!?」
「ーーーえ」
そこにあったのは目が髪に隠れた少女の顔。猪耳に栗毛、そして少し濃いめの色の肌。目隠れ以外は典型的なハーフオークの顔。なのに、それを見た瞬間から私の中の時が止まる。
動悸が激しくなり、息は荒くなる。目の前の景色がグニャリと曲がり、いつぞやの光景が目に浮かぶ。
ーーー頭を貫かれた豚面種の男。彼の物だった机の上の、部屋とはかけ離れた質素な写真立て。赤ん坊を抱く人間の女に、寄り添う若いオークの男。
人間の女が抱く赤ん坊は、動く筈の無い写真の中で動き回り、血を流して倒れるオークをポンポンと叩き、反応しない彼を呆然と見つめる。
その内にこちらに気づき向けた顔はたった今知った物でーーー
「……ン、シン!!!」
「ーーーっ!!?」
と、名前を呼ぶエステルの声で現実に引き戻される。目の前には私に肩を掴まれ動けぬままガタガタと震える少女、そしてその前で私の頬に両手を添えるエステルの焦ったような顔があった。
彼女の頬に添えられた手には汗がびっしょりとついている。それが私の物だと気づくにはそう時間はかからなかった。
「……ごめん」
「それよりも大丈夫!? ちゃんと息出来る? 深呼吸してみて、スゥゥ、ハァァ」
「……ありがとう」
私が小さく礼を言うと、エステルは少し首を傾げた後、突然私の頬をつねる。
「いっ!?」
「一人で! 抱え! こまない!!」
「……うん」
やはり彼女には敵わない……。
その後、私達はハーフオークの少女をなんとか説得する事に成功した。彼女が部長らしく、というかなんと部員は彼女一人らしい。他の部員はつい先日軒並みやめてしまったとか。
信用されてからは早かった。とんとん拍子に手続きが進み、あっという間に私達は旅行同好会の部員となったのだった。
「よ、良かったです。ぶ、部員が来てくれなかったら、部費が減らされて、活動どころじゃなくなる所でした……」
それでも相変わらずおどおどとした喋り方をしていたが。
「わ、私はオリヴィア・グリンフィールドといいます。あなた達は……」
「私はエステル・リーヴィハット! んで、こっちがシン!」
「シンドバッド・リュートスです。よろしくお願いします」
「よっ、よろしくお願いしましゅっ!」
物凄い勢いで頭を下げる。それに伴い物凄い勢いで舌を噛み床でのたうち回る。一体何をしているんだ。
「……!」
と、その時だった。私が何者かの気配を察知したのは。数は四人だ。
「……うげぇ」
「どうしたの?」
「いや……」
その内二人の気配は私のよく知る人物の物であったので思わず顔をしかめてしまう。後の二人は知らない人物だ。
しばらくして、その四人が部室に姿を現した。
「旅行同好会の部室はここで合ってるっすよね〜。私はローシャー・リーフ・デルビート。入部希望者っすよ〜」
「ぼ、ボクはリーグ・ショート・マーガトロイドです! シンさんを追って来ました!」
そう、この二人である。ローシャーはなんとなく予想はしていたが、リーグは予想外だった。てっきり射撃部に入るものだと思っていたのだが……
「リーグ、この学校には射撃部があるのだけれど」
「射撃部なんかよりもシンさんと一緒にいた方が良いに決まってます! あなたを超える人なんている筈がないんですから!!」
射撃部なんか、とは天下のレマリア中央学院を何だと思っているのだろう。確かに私を超える者がいるとは考えにくいがそれでもさすがに持ち上げ過ぎではないだろうか。
そもそもこのクラブで銃を教える機会なんて貰える筈が無いだろう。ここは旅行同好会なのだから。
「でも」
「ボクも入部します!!」
「……」
もうこれは曲げない、そのような強い意志を感じた。
何故だろう、会った時のエステルを思い出させる。
「ま、ままマーガトロイド!?」
一方で、部長の思考はまだそこだった。
それはさておき、私は共に入ってきた残りの二人を見る。
「セリカ!!!!」
私が見たのに気付いたのか、片方の小さい緑髪の少女が仁王立ちでそれだけ叫ぶように言う。
恐らく自己紹介のつもりなのだろう。そして、それだけで良いと思っているのだろう。その何処か神々しい程に整った顔は自信に満ち溢れていた。
三秒程経って、それを見かねたのか隣に立っていた今度は背の高い茶髪の男が口を開く。
「あー……こいつはセリカ・クロスフォード。そこの二人と同じように入部希望者だ。んで俺はシャーフル・ゴルドー。セリカの護衛だな。俺も入部希望だ」
「そうよ!!!」
「うるせえ」
シャーフルの説明が終わった直後にセリカが大声で肯定する。直後の言葉から察するに、そこまで厳格な上下関係があるようでもなさそうだ。
しかしこの男……強い。見た目はどこにでもいそうな軽薄そうな男だが、その立ち居振る舞いから分かる。明らかに、実力を隠そうとしている振る舞いだ。
そしてそれは成功しており、現に私は今彼の実力を測りかねている。
戦ったら勝てるだろうか……いや、違う違う!! 私は戦いに来てるんじゃないんだ!! そんな事考える必要はない!!
「わ、わぁ……」
隣では一度に部員が増えた事によって呆然としている部長がいた。
結局、その日旅行同好会の部員は一人から七人となったのだった。それにより部長が倒れたのでその日の部活動は無しとなった。
クラブでも同好会でも部員は部員で部長は部長です