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到着、そして入学

 彼女達を乗せた輸送艦は、予定を変更してそのままスカーレット公国の王都、レマリアへと向かった。因みにこの輸送艦は本当にたまたま通りかかっただけであり、艦長はとても驚いていた。

 重い鉄の塊が、両翼下部に無数に設置されている垂直翼に装備された噴射口から火を噴いて夜空を無理やり飛んでいる。飛空挺とは、大抵そんな物だった。魔女の箒の様に魔法で飛ぶのではなく、エンジンで、科学力で飛ぶのだ。

 そんな科学力の権化が、この空には無数に空を飛んでいるのである。



「あ!! レマリアが見えたよ!」

「……いつ見ても凄い」


 エステルが窓の外を目を輝かせて指さす。顔が反射して見えづらいが、そこには確かに思わず目を見開いてしまう程の摩天楼の光が、世界一とも言われる都市の夜景が輝いていた。

 その中央にあるのがレマリア城(レマリア・シャトー)。巨大なイーストウッドの木を芯として建てられたこれまた世界最大級の美しい城だ。こんな真夜中においても周囲に負けず劣らず煌びやかだった。


 十数分後、輸送艦は機体を大きく揺らしつつ、都市手前のレマリアエアポートへと着陸した。着陸してすぐ、無数の光がこちらに近付いてくる。それは自動車だった。


「じゃあ、シン、降りようか」

「え、ええ……」

「大丈夫だって。私が上手いこと説明するから」


 胸を張ってそう言うが、今まで自分を拷問して、散々体のパーツを切り落としていた者が突然助けに来た、などどうやって説明するつもりなのか。

 そもそももし自分が親ならば、そんな相手娘が許していたとしても絶対に許さないだろう。



「エステル!!」

「あ、パパ!!」


 だが、降りる間もなく相手から私達の所へと駆け込んで来る。

 背にエステルと同じ様な純白の翼を持ち、顎髭を生やした正にハンサムという言葉が似合いそうな中年の男性だ。パパ、と呼んだという事は恐らく彼が公国の宰相なのだろう。

 そんな彼は今、宰相としての威厳も全てかなぐり捨て、駆け寄ったエステルとハグをしている。その表情は溶けてしまいそうな程緩みきっていた。


「無事で良かった……毎日手足や翼が送り付けられてきて……もしお前にもしもの事があれば私は……」

「もう、パパは心配しすぎだよ。私は大丈夫だって。なんてったって心強いから!」


 あれは果たして心が強い、で済ませられる事なのだろうか。心臓が魔合金剛石(アダマンタイト)ででも出来ているのではというレベルだ。


 と、感動の再開のプロセスを一通り終えると、ようやくこちらに気がついた。


「……彼女は?」


 当然、何者かと聞いてくる。流石に輸送艦の乗組員、という線は排したようだ。服に血は付いているし、そもそもこの服自体が知る人ぞ知る、ノースマフィアの構成員の服なのだ。

 こちらに疑惑の目を向けつつ、背後の護衛は拳銃に触れていた。


 さて、どうやって説明するのか……


「彼女はシン!! 人身売買でマフィアに買われて、それ以降雑用だったんだけど、私が拷問されてるのを見かねて助けてくれたの!! だから命の恩人なの!!」


 ……凄い。人身売買、という所で私を被害者の側に立たせている。

 実を言うと、私自身自分の出自は知らず、物心ついた時にはマフィアに居たので、もしかすれば本当に人身売買かもしれないが。

 雑用が果たしてマフィアのアジトから人質を連れて逃げられるのか、という問題点はあるが、まあそこは現場を見ていないので勝手に脳内補完してくれるだろう。


 ただし、あれは雑用などでは絶対に突破出来ないだろうという事だけは付け加えておく。私がノースマフィア最強の暗殺者だから出来た芸当だ。


「そ、そうだったのか。ありがとう、シンさん。私から礼を言わせてくれ」

「は、はい……」


 両手を握り、頭を下げられる。後ろの護衛も銃から手を離して頭を下げていた。


「本当に……娘をよく助けてくれた。感謝してもし切れない……。後日、君には感謝状と報奨金が贈られるだろう」

「あ、ありがとうございます……」


 彼は涙を流して、改めて言った。


「本当にありがとう……」



 その後、私は寝泊まりする場所がないという事でエステルの家にしばらく泊まる事になった。

 彼曰く、娘の命の恩人ならばこの程度造作もない、らしい。溺愛しているというのは噂通りのようだ。


 そして、数日後に彼直々に感謝状と報奨金二千万シェードが手渡された。その三分の二は彼のポケットマネーらしい。本当に凄い。小さな家が買える程の金額なのだ。

 こんな物貰ってもしょうがないし、今まで「金を使う」という事が、そもそも自由が少なかったので何をすればいいのか分からない。それをエステルに言うと、


「えええ!! よし分かった!! 今度買い物に行こう!! 一緒に!!!」


 と、食い気味に答えられた。正直私から言わなくても言いそうだった。



ーーー私の人生で、それは恐らく最も驚きと出会いに満ちた日々だっただろう。煌びやかなブティックや、華やかなパフェ。


 その後すぐに訪れた冬の季節、城内のイーストウッドに美しいイルミネーションが施され、舞う白い雪の中キラキラと色鮮やかに光り輝く。


 また、年明けにはタコという骨組みのあるヒラヒラの紙を糸で空に吊り、ハゴイタという板と羽根の付いた玉を使ったスポーツをする。

 タケという植物で作ったカドマツという物も立て、後なぜかオトシダマと言ってモチという食べ物をくれた。


 もう一つ、ジュケンという物をした。レマリア中央学院といって、宰相であるグリシャの紹介で、急遽受験が決まった。紹介という事で筆記試験はレベルが落とされているらしい。代わりに実技試験の配点を高くしてくれたようだ。

 エステルの教えの下、私は猛勉強した。簡単な計算しか出来ていなかった私だが、彼女の教え方はかなり良く、彼女自身もこんなに吸収してまるでスポンジみたいだと言われた。

 因みに、エステルもそこに入ると聞かされていて、私に構っていて大丈夫なのかと聞くと。


「私推薦入試で合格したから。もう決まってるの。でもシンが通らなかったら私も浪人するから安心してね」


 らしい。ロウニンというのが何か分からなかったが、やや圧力を感じたので恐らくは駄目な物なのだろう。


 そして迎えた試験当日。テスト用紙は今までの私では目を回していたであろう文字の羅列であった。

 だがエステルの訓練を受けた今、恐れるものは何も無い……


 次の日は実技試験だ。魔法、剣技、射撃など五つの項目からなる試験である。こちらは余裕だった。試験官に素晴らしいと驚かれた程だ。

 入試は勿論、合格だった。ただし筆記はギリギリだった。

 



 やがて、時が経ち春が訪れる。街路樹は桃色に染まり、道路は花びらの絨毯が出来ていた。

 鮮やかな花弁が舞う中、私はエステルと歩道を歩いていた。飛んでもよかったのだが、私自身が桜をじっくりと見たかったから徒歩を選んだ。


「ふふ、ふふふ、むふふふふ」

「……どうしたの?」


 隣では、エステルがやや気味の悪い笑みを浮かべている。


「いやあ、こうやってシンと学校に通えるなんてーって思って」

「そ、そう」

「むふふ、むふふふ」


 気持ちが悪い。あまり直視しないようにしよう。

 今日、本当は車で送ってくれるはずだったのだが、エステルが拒否したのだ。危険だとグリシャ(宰相)は嘆いていたが、彼女曰く、


「シンがいるから大丈夫!」


 らしい。その後彼から物凄い圧力を感じたのは内緒にしておこう。


「着いた!! 中央学院!!」

「三回目だね……」


 そうこうしているうちに学校へと辿り着く。多くの、同じ制服を来た少年少女達が校門へと吸い込まれていっていた。


「早く行こう!!」

「そうだね」


 私達も、それに加わったのだった。


 私の、人生初の学生生活がここに始まったのだったーーー

冬イベントはカットです

追記:誤字報告にあった誤字を直しました。ありがとうございました。

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