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結局、僕は友達ができない。  作者: 悲しみのジョー
3/3

成人期

 高校を卒業した僕は、行く当てもなく、在学中から続けていたコンビニの夜勤を続けていた。

 友達にいたあるカップルは、高校を卒業後、すぐに結婚し、第一子を授かったらしい。

 また、他の友達は、ホテルの仕事が板についてきたらしく、少し離れた県に転勤だそうだ。

 そして、ナポリタン男。こいつも上京の願望があったらしく、東京に近いベッドタウンに飛び立った。

 (もう、学生じゃないんだよな……。)

 高校を卒業し、フリーターになった今、一般的な「青春」はもう終わっている。

 これからは「社会人」として、税金を国に納めていかなければいけない。

 そもそも学校は社会人を作るためにあるもので、社会人がまた学校に戻りたいなどと思いを馳せることは本末転倒なのだ。僕は覚悟を決めた。

 それからというもの、たかがコンビニ店員といわれるかもしれないが、されどコンビニ店員ということで、自分なりに堅実に働くことを日々意識していた。意識高い系である。

 しかし、僕が怠惰な高校生として働いていた頃から知っていた同僚の先輩は、僕のその姿をあまり好ましく思っていなかったと思う。

 今まで怠惰だったやつが、急にシビアなやつになったら、そりゃ戸惑うと思うし、もしかしたら変な誤解も生まれるかもしれない。

 それでも僕は、自分が正しいと思ったことに堅実に取り組んでいた。

 ある日、その同僚の先輩は辞めていった。

 ほかにも、いくらか話せる同僚はいたのだが、さまざまな理由で辞めていく。

 僕は嫌な予感がした。また、話せる人がいなくなってしまうんじゃないだろうか。仲の良い人がいなくなってしまうんじゃないだろうか。……。

 そのような不安に駆られながら、今まで張りつめていた集中の糸は緩んでいき、また僕は怠惰な自分に戻っていた。

 そして、決定的瞬間が訪れた。

 店長が変わったのである。

 この店長もずぼらなところがあり、クルーからの評価は賛否両論だった。

 しかし、僕は割と好きなほうだった。

 なぜなら、あるときに僕が友達がいない旨を話したとき、店長は僕の友達になってくれたようだったから。

 なぜそれが分かったかというと、仕事とは関係がない面白い話をしてくれるようになったからである。そのフレンドリーな姿勢が、僕の心の隙間をいくらか埋めてくれていたように思う。

 しかし、店長もお年ということで、定年生活を送りたいのだろう。店長の息子さんが跡を継ぐことになった。

 それからというもの……、僕はじわじわとくる居心地の悪さに嫌気がさしていた。

 店長が変わったことで、今までのやり方が少しずつ変わってきてしまったのである。でも、まぁ仕方がないことといってしまえばそれまでなのだが。

 また、話せる同僚もほぼ辞めてしまった。いや、一人はいたのだが、その人は夕勤だったため、ともに夜を明かすことはできない。

 いくらか楽しかったコンビニ夜勤も、こうなってしまえばただの金稼ぎにすぎない。

 僕は車の免許を取るための三十万弱が貯められたあと、そのコンビニを辞めた。

 そして三、四か月ほどで車の免許を取得した。これは、素直に嬉しかった。というよりも、何か少し満たされる感覚を覚えた。

 そして、次第にその満たされる感覚の正体が分かった。それは、知識をつけられたことによる達成感だった。

 何をもって「知識をつけられた」とするのか、それは人それぞれだろうが、僕は抽象的なものが具体的になったとき、と考えた。

 例えば、車の講習は「知識をつける」のだからまだ抽象的な段階で、この知識の集大成が「免許」という具体物になったとき、抽象的なものが具体的になったと考えられる。

 よって、その段階で一応の知識をつけられた、とすることができるように思うのである。

 多少、理屈っぽくなってしまったが、とにかく僕は知識をつけられたことによる達成感に満たされたくなったのである。

 それから、ひたすらに本を読むようになった。

 今までアホの自負があった僕は、本といえば漫画しか読まなかった。難しい活字の本は読んでいて息苦しくなってくるし、ただ辛いだけで何が面白いのかさっぱり分からなかった。

 しかし、この満たされる感覚を知ったときから、少しずつ活字の多い本を読むようになっていったのである。

 そして、あるときに気づいてしまった。

 どうせ勉強するなら、勉強した証拠が残せたほうが勉強できるんじゃないか、と。

 それは先にも説明したように、抽象的なものの具体化だった。

 そして考えた結果、割と即決で通信制大学に行くことに決めた。一度社会人になった僕は、また学生へと舞い戻ったのである。

 このときの僕の年齢が二十一歳。ストレートで卒業することができれば二十五歳。普通の人ならば二十二歳ぐらいで大学は卒業しているため、約三年の遅れということになる。

 そのため、高校のときのように遊びほうけて、留年という同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。

 この遅れの分、死に物狂いで頑張り、必ず大学を卒業するのだ。そう胸に誓った。

 また、もう一つ心躍る期待があった。

 それは、友達だ。

 大学といえば、キャンパスライフといわれるように、友達との青春のイメージがある。

 小・中・高と煮え切らない思い出ばかりの僕は、最後の賭けといわんばかりに、この大学での友達作りに静かなる炎を燃やしていた。

 勉強と友達……、両立できるだろうか。一抹の不安がよぎりながらも、僕は今か今かとその日を待ち望んでいた。

 そして、入学式。

 通信制だからか、社会人学生が多いように見受けられた。

 しかし、僕は割と平然としていた。この風景はすでに定時制という五年間で予習済みだったからだ。

 あまり年が離れすぎていると友達になりづらいかもしれないが、話相手ができるだけでも気持ちが楽になるし、また、この社会人たちのなかにも、きっと僕と同年代ぐらいの人がいるはずだ、という謎の確信もあった。

 通信制のため、スクーリングと呼ばれる期間以外は基本的に自習ということになる。

 テキストが学校から送付され、それを元に勉強し、月一であるテストを受けに行って、また一か月後に返ってくる結果通知で合格判定だったならば見事、単位認定という流れだ。それを最低でも百二十五単位分繰り返す。

 また、聞いたところによれば通信制大学の四年間での卒業率は十三%未満らしい。学校によっては五%未満という超鬼畜校もあるそうだ。あらためて険しい道のりであることを知る。

 それでもやらなければいけない。この薄暗い湿気た人生をカラッと晴らすためには。

 それから僕は死に物狂いで勉強した。単位のほかにも、漢検や英検の二級の資格、MOSのワードやエクセルの資格を取ったりもした。このときの僕の脳みそは、多分これからも一生ないだろうというほどに活性化を極めていた。

 そして無事、四年間で卒業することができた。

 いやー、よかった。この話、これでハッピーエンドでいいよね。え? 何か忘れてる?……あ。

 この大学四年間で、僕は友達という友達ができなかった。

 いや、数人ぐらいは連絡先を交換したり、なかにはたまに遊んだりする人もできたのだが。

 何かが違った。

 なんだろう、例えば、連絡先を交換してもそれっきりだったり、一年に一回連絡するかどうかの頻度だったり、単純に性格が糞過ぎて合わなかったり……。

 青春とは程遠いものだった、通信制大学は。

 それとも、僕が求めていた粘着質な青春は、大体が高校までで消滅してしまうのかもしれない。そうとも思った。

 しかしどれだけ腐っても、四年で卒業し、大卒資格を勝ち取ったことに変わりはない。

 僕はその後、派遣だが、憧れていたデスクワークである市役所で働くことになった。

 仕事は大変だったよ、覚えること多いし。

 しかし、問題はそこじゃない。いないのだ。同世代が。

 ……つまらん。僕はすぐに辞めてしまった。

 それからも、上京して都会でライターをしてみたり、地元に戻ってきて事務の仕事をしてみたり、いろいろと奔走した。

 そのなかには若い人もいたが、なぜだろう、馴染めなかった。

 ここまで僕は自身の過去を振り返ってきた。

 僕が友達を作れない理由、その経緯を説明するとか言って、ただただ回想を述べた。書き綴った。

 そして、その過程で僕は気づいた。もう、何も分からないということが。

 この殴り書きのメモも、この辺でもう終わろうと思う。え? 逃げるなって?

 ハハッ、だから


 結局、僕は友達ができない。

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