(たのしいまものずかん)02
※多分ここのコンテンツが一番えげつない
(見下ろす者)
見てるよ。ずっと見てるよ。
きみは朝起きたら、まず目覚まし時計を止める。それからカーテンを開けて、顔を洗いに行く。
何で知っているかって? ずっと見ているからさ。
お風呂に入るときは、いつも左肩から洗う。次に右肩。
そんなに強く洗ったら、きみの繊細な肌に傷がつくよ?
シャワーだけじゃ駄目。ちゃんと湯船につからなきゃ。
「私一人暮らしなのに、タオルが二枚出ているの」
またお弁当を買ってきたのかい? 駄目だよ、たまには自炊しなきゃ。
そうだ、今度作ってあげよう!
きみのことずっと見てるから、好みだって完璧に把握しているよ。だってずっと見ているから。
ほら、今もきみを見ているよ。ああ、こっち見たね。今目が合ったよ。
「視線を感じるの。私しか部屋にいないのに」
(誘拐犯)
ぶちりともいだ肉を、魔女が放った。
足許で手を伸ばす不死者が、我先にとそれを引き千切る。
鳩へパン屑をやる気軽さで、魔女が肉をもいだ。そこにあった悲鳴は、今はもうない。
放物線を描いた赤い肉が、べしょりと地面に叩きつけられた。屍肉が集う。
最後に残った左足を脛からへし折り、魔女が投げ捨てた。
黒のローブは絞れるほどに滴り、無感動な目が眼下を見下ろす。ぼきぼき、骨の砕かれる軽快な音が響く。
立ち上がった魔女が、崖下へ向けて指を鳴らした。立ち昇った火柱が不死者を包む。
何もなくなった地面を見下ろす魔女の顔は、ぞっとするほど美しかった。