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三部

「お久しぶりですね。またこうしてお会いするとは思ってませんでしたよ。」

「お前の担当弁護士が優秀だから、こうなるんだろうな。」

 山本が言うと、五條は笑いながら、

「朝倉は、しっかり者ですからね。弁護士としても優秀で、僕の利益になることは、法に反しない限り実現しようとしてくれますから。」

 拘置所の面会室の中で、五條と山本は対面していた。

今川と部屋を出た後、五條の担当弁護士の朝倉から、五條が面会を希望していて、用意ができているから、山本さえよければ面会してくれないかと言われ、そのまま拘置所に向かって、現在に至っている。

 今川は、話には聞いていたが、五條という人物を実際に目の前にしても、銀行強盗を行って、5億もの大金を盗んだ人物には到底見えなかった。

「今日は、上田さんじゃないんですね。」

 五條は、山本の後ろに直立で立っている今川を見て聞いた。

「ああ、あいつも忙しい身分になったからな。」

「そうですか。彼も僕の見た感じでは、優秀な人材の様に見えますね。

 やはり優秀な人の下には、優秀な人材が集まるものなんですね。」

 五條が山本に向かって言うと、山本は鼻で笑い、

「余興はここまでだ。で、本題は何だ?斎藤の手紙か?」

「さすがですね、その通りです。

 斎藤がどうしてあんな手紙を残して、死んだのかはわかりませんが、あの手紙に意味はないでしょうね。」

「あくまで、斎藤の関与は認めないということか?」

「当然ですよ。何もしていない人に共犯になってもらおうとは思いませんから。」

「まあ、いいだろう。で、本題は何だ?」

「手紙の話と今話していたと思いましたけど?」

 五條は首をかしげて、山本に聞き返す。

「その主張は、検察官の浅井と朝倉の間で、証拠能力はないと判断された。これ以上現場の俺が口出しすることはできない。なら、この話をお前が蒸し返す意味がない。この手紙に関して、俺に何か言いたいことがあるのかと思ってな。」

 五條はかしげた首を戻すことなく、ニコリと笑い、

「深読みすぎですよ。ただ、この手紙が意味を持たないと山本さんに言っとかないと、余計な詮索で斎藤の会社の人間が傷つくんじゃないかと心配になりましてね。」

「そうか、じゃあこの手紙の内容が全て事実だと仮定して、この『元凶』と呼ばれる人物をお前は誰だと思う?」

「難しいですね。事実でないことを事実と仮定すると、選択肢は無限にあることになりますから。」

「お前の思う人物だよ。お前を心の底から慕ってた斎藤勤という人物がこいつが一番悪いと思っていた人物くらい思い浮かばないお前じゃないだろう。」

「買い被りすぎですよ。もしかして、まだ僕の起こした事件に関して黒木さんの関与を疑ってるんですか?」

「それは関係なしに、大物=黒木と考え、さらに後ろに誰かいると俺は思ってる。」

「黒木さんが一番悪いんじゃないと思うのは、山本さんが黒木さんを友達だと思ってるからでしょう?」

 五條はかしげていた首を直しまっすぐに山本を見て言った。

「そうかもしれないな・・・・。だが、全く姿を見せずに自分は捕まらない場所で人を不幸にしてまで、自分の理想を作ろうとしている人間がいるんじゃないか、そうだとしたら、斎藤が命を懸けて俺に訴えたことは白日の下にさらさないと、斎藤の覚悟は無駄になるんじゃないか?」

「斎藤と面識もない山本さんがそこまでする意味は何ですか?」

「面識のまったくない俺に、斎藤があの手紙を残してくれたくれたことに応えたいだけだ。」

「じゃあ、山本さんは誰が、その『元凶』だと思ってるんですか?」

「黒木やお前に影響を与え、その上で絶対に捕まらない人物を考えていたが、この前、浅井・朝倉の話を聞いてて、俺には一人思いついたよ。」

「誰ですか?」

「お前のお友達の影山だよ。」

「何を馬鹿げたこと言ってるんですか?

影山はもう死んでるんですよ。吉本さんの事件の時もこれから起こるかもしれない事件も関わることすらできないじゃないですか?」

「影山が死んでいるってことは、絶対に逮捕できないということだろう。

それに、影山が残した計画に、その影響を受けた者たちが独自に肉付けして、犯罪を起こしていると考えると納得できない話じゃないだろう。」

「無理がありますよ。誰がそんなこと・・・・」

 五條は言いかけてやめた。

「そうだよな。お前は実際に影山の考えた犯罪計画を実行してるんだから、否定できるわけないんだよ。」

「だからと言って、影山が今の社会が抱える問題の解決のための計画を残していた、なんてありえませんよ。

常に変動する社会の問題なんて予想できるわけないですから。」

「お前を捕まえた時、お前は影山のことを他の人間が何十年もかけて行う議論をできる人間だと言っていた。

影山がそんなことをできると最も認めてるのは五條お前だろう。」

「それでも・・・」

「さっき、俺が黒木を一番悪い奴にしたくないのは、友達だからと言ってたな、お前もそうなんじゃないか?

影山が一番悪い奴だと思いたくないだけ。」

「それでも、影山が関与していることを立証できませんよね?」

「その通りだ。影山の関与を立証するためには、事件の真相をすべて明らかにした上で、現在の実行犯の中心人物にそれを証言させるしかない。」

「その中心人物が黒木さんだとしてもですか?」

「当たり前だ。犯罪者は取締られなければいけない。法治国家の日本で、法を逸脱した者に居場所はない。

法による裁きを受けて、その者に居場所を与えるきっかけを作ることも警察の仕事だ。」

「警察に捕まることが犯罪者にとっての社会復帰の第一歩ということですか。」

「そういうことだな。」

 山本が言うと、五條は一息ついてから、

「山本さんとお話しするのは本当に楽しいですよ。同房の方はあまり話をしてくれませんからね。」

「お前みたいに理屈っぽい奴と同房の人が不憫だよ。」

「僕と理屈で張り合う山本さんと一緒に働いている上田さんやそちらの方々も不憫ですね。」

「次を楽しみにしとけ五條。俺は俺の推理が正しいことを証明する。」

「じゃあ、僕は次までに全否定する理屈を考えときますよ。」

 話を聞いていることしかできなかった今川は、この二人実はとても仲がいいのではないかと思わざるを得なかった。


「五條という人物は、やはりまだ何かを隠しているんでしょうか?」

 拘置所から帰る途中、車の中で今川が山本に聞いた。

「さあな。あいつも神じゃないんだから全部知ってるってこともないだろう。」

「じゃあ、あの『元凶』とされてる人物の掌の上で五條もまた踊らされていただけかもしれないということですよね?」

「そんな人物が実在するならの話だがな。」

 山本があくびをしながら言い、今川は驚いて聞く。

「えっ、警部は実在すると思って五條にその話をしたんじゃないんですか?」

「実在するとは思ってるが、それが誰かまではまだわかってないんだよ。

例えば、斎藤が五條の後ろに誰かいて、そいつが一番悪い奴だと思っていた人物も実は五條がそう見せてただけで、一番の『元凶』は五條だったのかもしれない。」

「本人にその話をして、揺さぶりをかけたってことですか?」

「ああ、残念ながら五條はシロだな。自分の不利になる情報はいくらでも言うのに関与していただろう人物については口を割らずにいる点から、自分の罪を他者にかぶせようとしている、元凶とまで言われる人物とはイメージがかけ離れてる気がする。」

「意図的にそう見せるための演技ということはないですか?」

「その可能性は捨てきれないが、そうじゃない気がするんだよ。」

「何か根拠でも?」

「いや、ただの勘だ。」

「あはは、刑事の勘って奴ですね。」

 今川が笑いながら言い、山本も少し笑ってから、

「刑事の勘も捨てたもんじゃないけどな。」

 そう言って山本は窓の外を眺めていた。信号待ちで停まっている時、目の前を一台の車が通りすぎた。山本はその車を見て、

「何だ今の車?アニメか何かの絵がでかでかと入ってたぞ。」

「ああ、イタシャですね。」

「何だイタリアの車って、今あんな感じのが流行ってるのか?」

 驚いて聞く山本に対して、今川は吹き出して笑い、

「違いますよ。『見ていて痛々しい車』を略して、痛車っていうんですよ。アニメやゲームのキャラクターを車体に塗装したりして、自分がその作品のファンだってことを表現するためにやるそうです。」

「へ~、何でお前そんなに詳しいんだ?」

「僕の大学の時の友人が一時期はまってたんですよ。ああいう車作るのに。」

「塗装を自分でやってたのか?そいつは。」

「いえ、自分でやる人もいると思いますけど、塗装だけじゃなくて、ステッカーとかシールみたいなものを張るだけの人もいますからね。」

「それはどういう人がやるもんなんだ?」

「まあ、オタクの人がやり始めたらしいですけど、今ではアニメの制作会社とかゲーム会社が自社製品の宣伝のために取り入れてるのもあるらしいので、一概に痛車と呼ぶのもどうかと思いますね。」

 今川の語りを聞いて、その熱の強さから山本は、

「確認だが、やっていたのは友人だよな。」

「えっ、え~と、そうですよ・・・・。」

山本は自分の考えが正しかったことを今川の反応から悟った。


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