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黒幕ー山本警部の事件簿③ー 『鬼引き』  作者: TAKEMITI


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第二十六部

「まったく、警察というのは頼んでることは全然してくれないのに、頼んでもないことはするんですね。

 それで、どのようなご用件ですか?」

 藤田敏郎は不機嫌そうに言う。山本と上田は、交通事故被害者の会の会員で、今回の事件の被害者である山中修と関係のある藤田を訪ねていた。

「すみませんね、俺らも色々忙しいので、国民一人一人の要望に答えきれないのも事実ですから、弁明の使用もありません。」

 山本が下手に出て答えている。上田が

「本日は、奥さんが巻き込まれた事故の原因になった山中が、この間車に轢かれて重傷を負う事件がありまして、その捜査で来ました。」

「私がやったと言いたいんですか?」

藤田が嫌悪感丸出しで聞く。山本が

「いえ、犯人の特定がなかなか進まないので、山中の過去に原因があるのではないかと思って、捜査をしているだけで藤田さんを疑っているわけではないんです。」

「事前に調べさせてもらった情報では、山中が事故に遭った日、藤田さんはお仕事を休まれてますよね?」

 上田の問いに、藤田は

「勝手に人の情報を調べるなんて、常識がないんじゃないですか?

あのクズがいつ事故に遭ったかは知りませんが、たまたま私の休みと重なっただけでしょう。」

 山本は藤田の言った『常識』という言葉が気になった。上田が

「すみません、関係者の中で事故の日にお仕事などを休まれているのは藤田さんだけでしたので、一応3週間前の土曜日に何をされていたか教えて頂けますか?」

「妻が死んでから一人者なのでね、一人でツーリングしてましたよ。」

「どこか立ち寄られた場所で、藤田さんが来られたことを証明できる場所はありますか?」

「ないですよ。基本的にバイクで走って、日帰りで帰って来ましたからどこによるとかでもなく、ただバイクに乗っていただけですからね。」

「そうですか、ありがとうございます。」

 上田がそう言って引き下がったところで、山本が

「遠野さんという方をご存知ですか?」

藤田の表情は一瞬こわばったが、すぐに元の不機嫌そうな顔になり、「知らんよ、そんな男。」

「そうですか・・・・」

「何だ、何か言いたそうだな?」

 藤田が聞くので、山本が、

「何で男だと思ったんですか?『遠野さん』と言っただけでは男性か女性かわからないですよね?」

「な、そんなこと私が知るわけないでしょう。ただ常識的に考えて、私に聞かれたのなら男性かなと思って答えただけですよ。」

「その『常識的に』という言葉がお好きみたいですが、何か本を読んだり、そのような言葉を使う人と親しかったりするんですか?」

「別に大人なら誰でも使うでしょう。なぜそう思われるんですか?」

「私が言った遠野さんという方もその言葉がお好きだったのでお知り合いかなと思いまして。業種も車会社の整備士をされてますから、同じ業界の人なら知り合いかなと思ってしまったので。」

「知りませんよ。私は忙しいので、もう帰ってください。」

「じゃあ、最後に一つだけいいですか?」

 山本が引き留めて聞く。

「何ですか?」

「山中が事故に遭ったと聞いて、どのように思いましたか?」

「そうですね、ざまあみろって感じですか。あんなクズ野郎はずっと刑務所で大人しくさせとけばいいんですよ。」

「そうですか?刑務所で暮らしていたら償いも何もできずに、ただダラダラ過ごすだけになるかもしれませんよ?」

「昔、ドラマで腐ったミカンの話をしているものがありましたが、腐ったミカンが他のみかんも腐らせるというものでした。

 私はね、それを聞いて、収穫する前から選りすぐるべきだと思うんですよ。箱詰めする前に余分なものを入れなければ、腐らないのではないかとね。」

「それと山中の話とどう関係があるんですか?」

 山本が聞くと、藤田は

「例えば、ホウレンソウとか大根は、密集して植えてから、育ちのいいものを残して、それ以外を摘み取ってします間引きという農法がされます。それと同じように社会に必要な人間とそうじゃない人間をわけ、社会に害をなす山中のような人間は摘み取ってしまうべきだということですよ。」

「殺してしまえばいいということですか?」

 山本の問いに、藤田は笑いながら答えた。

「そうしてしまえればいいんですけどね。」

「私が言えたことではないのですが、人の善悪を決めるのは難しいんですよ。犯罪を犯したから必ずしも悪い奴だったかというと、そうでもなかったり、まっとうに生きてるように見えても悪い奴がいたり、人の本性なんて、人には判断できないモノですから、あなたの考えに賛同することはできないですね。」

「別に私は社会に生きるすべての人に共感して欲しいとは思ってません。それに、これは私がただ思っていることです。思うだけなら憲法に保障された思想の自由でしょう。」

「そうですね。思うだけなら・・・・・・」

「私はこれで失礼しますよ。先ほども言ったが忙しいのでね。」

 藤田はそのまま出て行ってしまった。

「思想の自由は、何を考えていてもいい。でも、それを実際に行動に移せば罪に問われることもある・・・・・」

 山本がボソッとつぶやいた言葉を上田は横で聞いていた。


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