第 二十五部
「例えば、今川が言ったように、犯行現場に行けたとして、私が実際に犯行を行ったとは言えませんよね?」
今川、竹中の二人は遠野に会って、今までに調べたことについて話していた。遠野が聞いたところで竹中が
「そうやで。俺らはただ犯行ができたから、さらに言い訳がないかを聞きに来たんや。他にアリバイは?」
「色々とやっていたことはありますが、アリバイを証明してくれるような人はいないと思いますよ。」
「そうですか?例えば大きな道を歩いているだけでも防犯カメラに映ってればアリバイの証明はできますよ?」
「どうでしょうね?最近のは本物のような偽物をおいてる店もありますから。」
「お店にはいれば、その店員が覚えてるかもしれませんよ?」
「久しぶりに帰ったので、どこに行くってことなく歩き回っていたので。どこに行ったのかも覚えてないくらいですよ。」
「なんでや?用事があるから帰ったんやろ、二次会?」
「嘘ですよ。他人の幸せ自慢に付き合ってられなくなったんですよ。なんだか自分だけが置いていかれたような、そんな孤独感みたいなものに我慢できなくなりました。それだけですよ。」
「家には帰らなかったんですか?」
「帰れるわけないだろ、もしかしたら帰らないかもって豪語して、家を出たんだからな。あまり早く帰ると逆に親に心配かけるかなと思って、適当に時間を潰してたんだよ。」
「それで?何時に帰ったんや?」
「日が変わる前くらいです。
かなり盛り上がったとだけ伝えときましたよ、親には。」
「五時間も歩き回ってて、何してたか覚えてない、どこの店にも入ってない、何てことが認められるか?」
竹中が言ったところで、遠野がコーヒーを飲んでから
「そう言われても、無心で歩いてましたからね。
コンビニによったとか、ああ、そう言えば23時過ぎに京都駅から、タクシーに乗りましたよ。でも、これは、アリバイにはなりませんよね?
犯行が終わった後の時間なんですから。」
「ほな、被害にあった暴走族あるいはその構成員と面識があるようなことはなかったんか?」
「別に隠す訳じゃないですけど、知りたいなら自分で調べてください。警察なんですから。」
「わかりました、調べます。他に言っておきたいことはありますか?」
「なんだよ、今川。何かあるって言うのか?」
「はい、大阪方面に向かって走る車に遠野さんが乗っているのを、遠野さんの友人が目撃してました。
ただ、どこに向かったのかはわからなかったそうですが。」
「それじゃあ、俺のアリバイを崩したことにはならないだろ?」
「そうやな、この情報だけやと無理やけど、遠野さん自身が歩いてたって言ってるし、車の運転手がアリバイの証人なはずなのに、話さへんってことは、何か話せん理由があるってことちゃうんか?」
「その目撃情報が間違っているという可能性を疑わないんですか?」
「そら、疑ってますし、裏もとって確認中です。でも、あなたの証言と違うかどうか確認してからでも、遅ないかなと思いまして。」
竹中が真顔で言い、今川は口調はいつも通りなのに、威圧されているかのような、凄みを竹中に感じた。
遠野もそれを感じたのか、少し物怖じするような感じで後退りしたが
「披露会でお酒も多少飲んでましたし、記憶が曖昧だっただけですよ。それにその目撃した友人が間違えただけで、私は車に等乗ってませんでしたよ。」
「まあ、確認すればいいだけやからな。疑うのが仕事やからな俺らも。気分悪うさしてすまんな。」
竹中は手を振って部屋を出た。
「すみません、仕事上、関連していそうな人物を疑う必要があるので。それではまた。」
今川が竹中を追いかけて部屋を出ていく。一人残った遠野は、
「先輩に対して失礼しますくらい言うのが常識だろ、今川。」
そう言った遠野の口元には笑みが浮かんでいた。




