第十七部
「それで、警部、黒田さんとの休日はいかがでしたか?」
車で移動中、休み明けの山本に対して上田が聞いた。山本は運転中の大谷を睨み、
「大谷・・・・」
お前が話したのかと責められるような視線を受けて大谷が、
「警部、違います。これは罠です。」
「どういうことだ?」
山本は意味が分からず聞き返すと、上田がニヤニヤ笑いながら、
「大谷も今川も何も知らないの一点張りでしたが、僕と竹中さんは二人に何かあると思ったので、少しかまをかけてみました。
まさか、警部から情報を得られるとは思ってなかったんですけど。」
「そういうことか。別にやましいことは何もないからな。
ただ、休日を一緒にいただけの話だ。」
「本当ですか~?」
上田が楽しそうに追及を続ける。
「何があると思ったんだ?」
山本がイライラしながら聞くと、上田が
「そうですね、町中をデートとか、一緒にお食事に行かれたとか、その先はまだ早いですかね?」
「一緒に食事はしたが、お前の言うような感じじゃないぞ。」
「へー、じゃあどんな感じですか?イタリアンとかフレンチですか食べられたのは?」
上田の追及が続き、大谷は別に答えなければいいのにと思いながら、山本と上田の会話に入れずにいた。山本が
「部屋であの人の作った飯を一緒に食べただけだ。」
「黒田さんのお部屋に行ったんですか?」
「俺の部屋で食ったんだよ。」
「黒田さんが警部の部屋に来て作られたんですか?」
「いや、それは、あ~・・・・」
山本がどう説明すればいいかわからずに、曖昧に答える。
「もしかしてもうすでに同棲してるんですか?」
上田の勘の良さに大谷はびっくりしたが、山本は
「同棲じゃない、同居だ。」
大谷はもっとうまい誤魔化し方は絶対にあったと思いながらも口を挟まないでいた。上田が冗談のつもりで言ったことに対して、思わぬ収穫を得たのでさらに追及を続けた。
「え、同居してるんですか?いつからですか?」
「ち、違う。あの人がこっちにまだ住居が決まってないから、課長室で寝泊まりするとか言い出して、それじゃあ、仕事に集中できないだろうと思って、俺の使ってない部屋を使えばいいと言っただけだ。」
「よくあんなボロイ部屋に女性を住まわそうと思いましたね?」
上田が言う。大谷は少し驚いて、
「えっ、警部はボロアパートに黒田さんと二人で寝てらしたんですか?」
「そんなわけないだろう。大体、上田の知ってるアパートは何か月か前に引っ越してるんだよ。今はもっと広くて新しい部屋だ。」
「また土屋さんに無理言って部屋移ったんですか?」
「今回は、あれだ。向こうからいいとこあるから引っ越さないかって言って来たんだよ。」
「そう言えば、20階建てのマンション建ててるとか言ってましたよね?」
「ああ、そこだ。」
山本も自分が要らないことを言いすぎていることに気付いたのか、冷静さを取り戻しているようだった。
「1Lですか?」
「馬鹿か、3Lだ。」
「何の話ですか?」
大谷がわからずに聞くと、上田が
「部屋の広さだよ。L D Kにプラスでいくつ個室があるかによって、Lの前につく数字が変わるんだよ。警部が3って言ったから、個室が三つある部屋ってことだよ。」
「そうなんですか。僕あのLDKって何なんだろうってずっと思ってました。」
「ってことは、同居はしているけど部屋は別々ってことですね?」
「当たり前だろ。」
「それで黒田さんの手作りのご飯はどうだったんですか?」
「まともな飯を食ったのが久しぶりだったからな。まあ、うまかったんじゃないか。」
「一昨日の晩と、昨日の晩の二食ですか?」
大谷が聞くと、山本が
「お前まで聞くなよ。」
「いいじゃないですか、警部。大谷も今川も僕と竹中さんの取調べを堪えたんですから。」
「大体、どこで気づいたんだよ?」
「それは、あれです。警部が大人しく休暇を取ったあたりです。監視役の時も含めて、警部が上司から休暇を取れと言われて取ったのを始めてみたので、これは何かあると思いました。
ついでに言うと、警部の休みに合わせて黒田さんが休まれたので、これで決まりだとなりました。」
「もっと、違うことにその推理力を使えよ。」
山本があきれた感じで言うと、大谷が
「それで何食食べたんですか?」
「うるさいな。毎食だよ。自分の部屋でごろごろしてたんだが、食事の時間になると呼びに来て、朝昼晩しっかりと食べさせられたよ。」
「よかったじゃないですか。美人の手調理で、しかもおいしかったんなら文句を言う方がダメですよ。」
「何で知り合ったばかりの女に食事作ってもらって、それを向かいあって食べなきゃいけないんだよ。」
「新妻気分なんじゃないですか?」
上田が面白そうに言うと、山本が
「土屋さんのところに行った時、何か吹き込まれた感じがあったからな。十分あり得る。いや、もしかしたら武さんからも何か言われてるかもしれない。俺の勤務状況について武さんが何か文句をつけてきたことは今までなかった。」
山本が真剣に考え込むのを見て、上田と大谷は内心
『この人は黒田さんが個人的に自分に好意を寄せているとは考えないのだろうか』と思ったが、口には出さなかった。