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第十六部

「交通事故被害者の会に、今回の事件に関連する人物が一人いました。」

 上田が報告している。上田達は引き続き、交通事故被害者の会の人間と今回の事件の関連を捜査していたが、その中で分かったことを全員を集めて報告しているのだった。山本が

「それで、どんな人物だった?」

 加藤が全員分の資料を配り、上田が

「資料を見てください。まず名前ですが、藤田敏郎。

47歳の会社員で、バイクの小売店に勤めています。

 今回の事件との関連は、4年前、山中修という人物が起こした飲酒運転により、奥さんが事故に巻き込まれて亡くなっています。

山中は例の中型車に轢かれて全治5か月の複雑骨折をして、現在入院中ですが、あごの骨が完全に砕けているため、会話をすることすら困難な状況だということです。」

「待ってください。そんな事故ありましたか?」

 被害者の交通違反関係を調べていた三浦が聞く。上田が

「実際は、山中の飲酒運転が原因で運転操作を誤った車がたまたま通りかかった藤田の奥さんをはねたようだ。山中もその後、全く関係ないところで物損事故を起こしてるけど、藤田の奥さんに関することはあくまで、運転操作を誤った車の運転手の責任になってるから、山中を調べてても、この事件は出てこないと思うよ。」

 三浦が納得したように頷くと、藤堂が

「でも、それだと関連するとまでは言いきれないんじゃないですか?」

 この問いに答えたのは、竹中だった。

「それがそうとも言えんくてな。藤田は事故後、飲酒運転をしていた人間さえいなければ、妻は死ななかったと警察にかけあったそうや。

 でも、警察としては山中がどの程度、その運転手の操作を誤らせるほど影響を与えたかが立証できひんから、轢いた運転手の全責任ってことで処理したみたいで、藤田はそれが気に入らんかったみたいやな。」

「どうでもいいですけど、竹中さんには大谷と片づけをお願いしたはずですよね?」

 山本が睨みつけながら言うと、竹中は

「まあ、そんな硬いこと言うなや。正直な大谷ができすぎて俺は邪魔やってん。隅で座ってて下さいって言われて暇してたからな。」

「そこまでは言ってないじゃないですか。」

 大谷が反論する。そんなことを気にもせずに、山本が

「それで、藤田が山中について知っていたという可能性はあったのか?」

 上田が、

「この交通事故被害者の会、かなり情報収集に長けている人材がいるようで、何月何日に交通違反をしたのが誰かまでつきとめられるようで、藤田も奥さんが亡くなった原因になった飲酒運転をしていたのが山中だと知って、一度、山中に暴行を加えようとしたとして、警察沙汰になってます。山中が事を荒立てたくなかったようで、その場を収めたので、逮捕されることはなかったようですが、記録としては残ってました。」

「その藤田の事件当日のアリバイは?」

「会社は有給をとって、休んでいました。山中以外の被害者の犯行日にも示し合わせたかのようにすべての日が休みでした。」

「完全にクロやな。決まりちゃうか?」

 竹中が言うと、今川が

「警部と僕も事件にかかわっていそうな人物を見つけました。」

「ホンマか?」

 竹中が驚いて言うと山本が

「いいのか今川?」

「はい、名前は遠野康彦。自動車メーカーの整備士をしています。

僕の大学の先輩で、自動車開発をしていた部署から整備士に転向した人物で、車に関してはかなりの知識があり、改造を行うことも容易であると思います。」

 三浦が、

「その人が怪しいと思った理由は?」

「はっきりとは答えられないのですが、最もわかりやすい言葉で言うなら刑事の勘です。」

「ええな、それ。」

 竹中が冷やかすかのように言うと、三浦が

「そんなことで、疑ってるのかよ?ダメだろ、ねぇ、警部?」

「俺が直接話した感想は、まず事件について聞いた時、不自然な反応をした。次に、車の改造について聞いた時、整備士であっても事件に使用した車を即時に改造し直すことが容易でないことをわざわざ伝えてきた。何より、今回の事件が終わった後に導入されるであろう最新型の信号機の話を詳しくしていた。そんな話は一般企業はおろか国交省の人間もまだ知らない情報だった。」

「その情報がただのデマである可能性はないんですか?」

 加藤が聞き、藤堂が

「そうですよ。直轄する国交省の人間が知らないなら、実在しない話なんじゃないですか?」

「総監に聞いたところによると、極秘にそのような信号機が作られていて、導入もほぼ確定しているということらしいです。」

 今まで黙っていた黒田が言うと、その場にいた全員が黒田を見る。

「どうかされましたか?」

 全員が思ったのは『この人いたのか』ということだった。確か上田が話し始めた時はいなかったなと山本が思っていたが

「いえ、総監は誰からその話を?」

「さあ、誰でしょうね。国会で審議されて認可されたことをすべて把握している人物じゃないですか?」

「そうですか。」

「話を戻しますけど、僕は遠野さんが犯人でなければいいと思って捜査をしていこうと思ってます。」

「どういうことやねん。今川が犯人や言うたのに犯人やと思ってないって矛盾してるやろ?」

「遠野さんがシロだということを証明するために僕は遠野さんを調べるということです。」

「だからそれが・・・・」

 三浦が言いかけたところで上田が

「山本警部が、その遠野さんをクロだと思ってるってことですよね?」

「そういうことだ、三浦。俺が疑ってるから今川は無実を証明しようとしている。でも、自分でも遠野が怪しいと思うから自分の手で無実を証明したいってことだよ。」

「そういうことですか・・・・、まあ、警部の勘は当たりますからね。頑張れよ今川。警部の勘は手強いぞ。」

「はい。」

 今川が強く言い、山本が

「じゃあ、今後の動きに関してだが、竹中さんは今川と一緒に遠野のことを調べてください。関西の方の出身で、例の暴走族の事件の日も友人の結婚披露会に参加するために京都にいたと言ってました。関西に顔の利く竹中さんと一緒の方が今川の捜査が楽になると思うのでお願いします。」

「まあ、そういうことならええで。俺が面倒見たるは。」

「よろしくお願いします。」

 今川が頭を下げる。山本は続いて

「三浦と藤堂は、車の修理工場をあったって、特別な改造を頼んだ人物がいないか、特殊な部品を買いたいと言ってきた人物がいないかを調べてくれ。」

「特殊な部品ってどんなですか?」

 三浦が聞き、山本が

「強度を上げる追加パーツや、見た目は変わらないのに素材の違いで強度を上げることができるらしいから、そういう部品になるな。」

「かなり特殊な部品ってことですね。了解しました。」

「上田と加藤は俺について・・・・」

「警部は休みを取ってください。勤務状況の改善は私の仕事です。」

 黒田が凛としていうと、その場の雰囲気が凍り付いたが、

「わかりました。じゃあ、今日はこのまま休みにします。

明日から俺と一緒に・・・・」

「明日も休んでください。許可できるのは明後日からです。」

「わかりました。明後日から俺と一緒に回ってくれ。この後は、大阪と九州の事件について、資料を見て解決につながる何かがないかを調べてくれ。」

「わ、わかりました。」

 上田が言う。上田は今まで見て来た山本の印象では、休みを取れと言われても絶対に休まなかった山本を休ませることができる黒田は凄いと思ったし、何か裏があると思ったのであとで今川あたりにかまをかけようと思った。

「皆さんも、休暇はしっかりと取ってください。刑事も体が資本ですから、体調管理のためには非番だけでなく、有給の消化も行ってください。」

「無謀な捜査をするのは止めんのやなかった?」

 竹中が聞くと、黒田はにこりと笑って、

「竹中さんはまじめに働いてくださいね。」

「何やねん。山本には優しくて俺には厳しいんか。なんや二人怪しいな。なんかあるんちゃうか?」

「別に何もありませんよ。竹中さんが仕事さぼるのは、昔からだと聞いてますので。しっかり働いてください。以上です。」

 黒田が課長室に戻り、山本が渋々と荷物をまとめて、「あとは任せた」と言って、部屋を出ていくと、竹中が上田に歩み寄り、

「あの二人もしかしてできてるんちゃうか?」

「竹中さんも思いましたか。警部があんなに素直に言うこと聞くからには何かあると思ったんですよ。」

「そやろ。絶対できてるな。そうじゃなくても何か弱みみたいなもん握られてる感じやな。」

 竹中と上田が楽しそうに話しているのを少し遠くから聞いていた今川と大谷は自分達にだけは絶対に話を振らないで欲しいと思い、その場をこっそりと二人で抜け出した。


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