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第十四部

 車で20分くらい行ったところで、車は止まった。

目の前には築40年はしているかもしれないボロアパートが建っている。黒田は不安になって

「警部、ここですか?」

「いえ、用事があったので寄っただけですから安心してください。」

 そう言って、山本が車を降りる。黒田も一応、山本に伴って車を降りた。すると、

「おう、勘ちゃん。どうしたんだ?」

「ああ、いたいた。土屋さん。ちょっと用事があってな。」

 土屋と呼ばれた男は60代後半くらいの男性で、山本の後ろに立っている黒田を見たからなのか、

「何だ、ベッピンさん連れて。お、もしかして、ついに勘ちゃんも?まあ、いい歳だからな。それで俺に挨拶に来てくれたのか?」

「何を言ってるんですか?」

 山本が冷ややかに聞く。土屋は面白そうに

「何って、それはあれだろ?結婚しますとかそんなやつだろ?」

「違います。」

「じゃあ、あれだ。彼女できたんです、美人でしょ?っていう見せびらかしに来たんだろ。」

「違います。彼女は・・・・」

「やっぱり彼女なのか。」

「だから、違うって言ってるでしょうが。この人は新しい上司です。

九州から出てきたので、まだ住む場所が決まってないんです。」

「なるほど、部屋に連れ込んで手を出そうって魂胆なのか。俺は何を手伝えばいい?」

「いい加減その考えから離れてください。」

「なんだ、一か月ぶりに会ったんだからもっとふざけさせてくれてもいいだろ?」

「要件ですが、この人の住むところが決まるまで俺の部屋に住まわせたいと思ってるんでよろしくお願いします。」

「やっぱり部屋に連れ込むんじゃないか。」

「あ、あの~この人はいったい?」

 土屋と山本の会話に黒田が割って入る。

「ああ、この人が俺の住んでる部屋の大家なんだよ。この人の許可さえ取れればどんだけいても全く関係なくなるからな。」

「ああ、そういうことですか。」

「で、勘ちゃんも一緒に住むのかい?」

 土屋が聞くと、山本が

「俺がほとんどあの部屋使ってないの知ってるんでしょ?」

「まあな。でも、あの部屋でいいのかい?」

「あ、あの私はどんなお部屋でもかまいません。例え、ボロアパートでも雨風がしのげればそれで・・・・」

「あはは、このアパート見て言ってるだろ?」

「え、あ、すみません。」

「安心しろって言ったでしょ。この人はアパートとかマンションを何個も持ってる結構な金持ちなんですよ。このアパートに愛着があるからここに住んでるだけで高級マンションとかも持ってる人なんです。」

「え、み、見えないですね。」

 土屋が大声で笑い、山本が真剣な顔で

「この人の月収は俺や黒田さんよりありますからね。見た目で判断しない方がいいですよ。」

「いくらくらい何ですか?」

「ストレートに聞くね。まあ、一部屋平均7万円で、一棟平均8室と考えると一棟で56万円、それが20棟くらいだから・・・・、まあ、それくらいですよ。」

そう言って、土屋はにやにやと笑った。

「すごいですね。」

「で、話を戻すけど、いいよな?」

 山本が聞くと土屋が心配そうに

「でも、女性一人に3LDKは広すぎるだろ。オートロックの部屋だし、セキュリティはしっかりしてるけど、さすがに心配になるぞ。勘ちゃんもたまにしか帰らないんだしな。」

「え、そんなに広いんですか?」

「最近できたばかりの、20階建てマンションの20階の一番いい部屋なんだよ。」

「え、家賃はいくらなんですか?」

「知りたいかい?」

「お願いします。」

「15万円だ。まあ、勘ちゃん特別価格なんだけどね。」

「そんないいお部屋に住んでるのにたまにしか帰らないんですか?」

「まあ、そういうことになりますね。」

「勘ちゃんがいい年になったから結婚しても住める部屋を紹介したのに、そんな様子も今日までなくて俺は寂しかったんですよ。」

「今日まで、って何だよ。だから違うって言ってるだろ。」

「あの、じゃあ、私がお借りしている間は、私が家賃をお支払いします。」

「ああ、いいって。」

 山本がめんどくさそうに言い、土屋が

「そうだよ。もともと家賃なんていらないって言ってるのに毎月しっかり払ってくるんだよ勘ちゃんが。」

「15万円のお部屋の家賃がいらないんですか?」

 黒田が驚いて聞くと、土屋が満面の笑みで

「勘ちゃんは俺の恩人だからね」

「もう忘れてくれていいって言ってるだろ。それに俺は仕事をしただけだ。恩に感じてもらうことじゃないだろ。」

「ああ、そうだ。勘ちゃんの5号室、人が入ったから。」

「だからそれも俺には関係ないだろ。」

「何ですかその5号室って?」

 黒田が不思議そうに聞く。

「勘ちゃんが今まで俺のアパートに住んでた部屋の番号だよ。引越ししたくなると俺のところに来て、空いてる部屋がないか聞くから、人入れずに残してるところもあるんだよ。」

「ああ、そうなんですか。」

「残しとかなくていいって言ってるだろ。収入減るだろうが。」

「まあ、いいじゃないか。俺が死んだら全部勘ちゃんにやるからな。ばっちり遺言に書いといてやるよ。」

「赤の他人に残す財産じゃないだろ、それ。」

「まあ、そう冷たいこと言うな。管理は管理会社に任せて、自分の好きなところに住んで、税金さえ納めとけば、悠々自適の生活が送れるぞ。」

「相続税だけで何億もいく財産貰う気はないよ。」

 土屋は大きく笑い、

「じゃあ、勘ちゃんの部屋にその子が住むってことだな。了解したけど、たまには家に帰ってゆっくり休むんだぞ。」

「わかってるよ。じゃあ、黒田さん部屋に行きましょうか。」

 そう言って、山本が車に乗り込む。黒田は

「すみません、私、黒田と申します。また後日改めてご挨拶に伺います。」

「いえ、いえ、そんなご丁寧に。

 黒田さんが次に来るときは、勘ちゃんと結婚すると報告しに来るときでいいですよ。」

「そんな、山本さんも仰ってましたけど、そういう関係ではないので。」

「でも、あなたは、まんざらでもないでしょ?」

 土屋がにこにこと笑いながら言う。黒田は顔を真っ赤にして

「そ、そんなことないですよ。それに警部は私に興味ないみたいですし。」

「いや、そんなことないですよ。あの子が女性に優しくしてるのなんて初めて見ましたから。照れてるんですよ、両親のいない勘ちゃんの親代わりのつもりで見てきた私が言うんだから大丈夫ですよ。」

「そうですか?」

「そうです。だから、次は・・・・・」

 土屋が言いかけたところで、山本が

「土屋さん、いらないこと吹きこまないでください。黒田さんも早く乗ってください。この後、まだ仕事残ってるんですから。」

「はい、すぐ行きます。」

 黒田はもう一度土屋に向き直り、頭を下げると土屋がウィンクをして、小さな声で言った。

「鈍感なので頑張ってくださいね。」

 黒田はもう一度頭を下げて、車に乗り込んだ。


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