第十一部
「警部は・・・、遠野さんが怪しいと思ったんですね。」
車に乗り込み、工場を出たあたりで今川が言った。
「例えば、って言っただろ?」
山本が質問の意図をくみ取ってこたえると、今川が
「僕も、あの人が犯人なら納得がいく部分がありました。でも、そうだとは思いたくありません。」
「今川、お前、この前、五條と俺の話してたこと覚えてるか?」
「どの部分ですか?」
「俺が黒木のことを『元凶』にしたくないってくだりだ。」
「ああ、友達を一番悪い奴にしたくないっという所ですか?」
「そこだ。そう言う意味では、お前も俺や五條と一緒で、自分の知り合いを悪い奴にしたくないってことなんだろうな。」
「おかしなことですか?」
「いや、できればそうじゃなくて欲しいって思うのが人なんじゃないか。自分の信じていたものを守りたいし、自分の知らないその人との対面が何より怖いのかもしれない。
人が何を考えているのか、考えを共有することはできても、全く一緒のことを考えられるわけじゃない。立場が違えば物事の見方が変わる。
俺が、完全犯罪がないと思ってるのは、次から次に生まれる犯罪に対処する方法が見つかると思っているからで、黒木が完全犯罪があると思ってるのは新しい犯罪が生まれたら対処され、その対処が及ばない新しい犯罪が生まれると思ってるのと一緒だ。
同じように新しく犯罪が生まれることは一致してるのに、俺はいつかその連鎖が終わると思ってるのに対して、黒木は連鎖は止まることなく無限に続くと思ってる。
あいつは、いつかじゃなくて自分がと思ってるのに対して、俺はいつか誰かがと思ってる。
その違いが俺とあいつの道を違えることになった理由なのかもしれない。」
「生き方の違いが考え方の違いを生むってことですか?」
「まあ、難しく考えても仕方ないからな。
よし、お前は遠野さんが犯人じゃない証拠を探せ。それでシロならそれでよし。クロならお前が手錠をはめてやれ。吉本さんの時のようにな。」
今川は胸につかえていた何かがなくなっていくような気持になり、山本に向かって
「吉本さんの時の様にならないように頑張りますよ。」
山本は「フッ」と笑って、そのまま何も言わずに目を閉じた。