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3人旅

 徐々に陽が傾き始める頃、一行は街へ着いた。

 ノース程では無いが、広大で水も美しい、農耕をするには恵まれた環境である。


 街の中へ入り、宿の場所を聞き出すと、馬車を引いて宿まで歩く。

 馬宿を見付けると、一先ず馬を停める。


「はー、お腹空いた。ねぇねぇご飯食べようよ」


 荷台から顔を出したアリアが喧しく話し掛ける。


「そうだな文無し。だが馬を停めてからだ」


 小馬鹿にされたアリアの膨れっ面を見ず、ウェンは作業を淡々とこなし、叩いて手の汚れを落とすと、荷台に体を突っ込んだ。


「私お肉食べたい、リリアノちゃんは何がいい?」


 元気に話し掛けるアリアとは対照的に、リリアノは困惑して体を引いた。

 今までに居なかったタイプの人間に、動揺を隠しきれていない。


 ウェンが手綱を握っている最中に二人は、と言うよりアリアは、リリアノにずっと話し掛けていたようだ。

 彼女はすっかりリリアノを気に入ってしまっていた。


「贅沢言ってんじゃねぇ。誰がお前の分を払うって言った?」


「えっ!? 駄目なの?」


「こちとら借金して来てんだぞ。タダ飯なんてやらん」


 返す気は無いが、とウェンは情報屋の顔を浮かべながら内心笑っていた。


 貴重品を取り出したウェンに次いで、アリアは荷台から飛び降り、低めの背を目一杯伸ばして抗議する。


「そりゃ無いよ! タダ飯食べれて足も貰ってラッキーって思ってたのに!」


「お前な......労働に対する対価ならまだしも、何もしてないだろうが」


「ぐぅ......!」


 半ば冗談だが、彼女の表情の変化は見ていて飽きない。

 昼と夜のようにコロコロ変わるので、ウェンもつい楽しんでしまっている。


 反論の材料を探すアリアの背後から、荷台を降りたリリアノがウェンへ近付く。


 言いつけで頭にはフードを被り、耳を隠している。

 ウェンの服の裾を掴み、目で何かを訴えかける。


「......」


 まさに無言の圧力。

 上目遣いにしてはキツく、睨むと言えば少し優しい。


 アリアもウェンも無言で、リリアノから目が離せない。

 エルフの宝石のように美しい瞳で魅せられ、ついに、


「......冗談だよ。ほら、入ろうぜ」


 敗北したウェンは二人に背を向けて宿へ向かう。


「わーい、やった! リリアノちゃんありがとー!」


 リリアノに抱き着く狂喜乱舞のアリア。それをやはり困惑した面持ちで、なすがままにされる。


 木製の扉を開け、二人を連れて中に入る。

 中は木の長テーブルが一つ真ん中に置かれており、先入りしていた数人の客が料理を摘んでいた。


「いらっしゃい、今日はどうした?」


 カウンター奥から店主と思われる男性が三人に向かって喋る。


「旅の途中でね。宿と飯が取れる場所を探してる」


「あー、宿、か......」


 店主は顎に手を当て、無精髭を触った。


「悪いが、今は満室でな。飯なら大丈夫だが」


「あー......そうか、分かった。だ、そうだ。二人共」


 振り返ると、残念そうなリリアノにオーバーとも思える程絶望しているアリアが見えた。


「ふかふかのベッドに、美味しい食事が......」


「そんなもんねーよ......」


 場末の宿屋だぞ、とは店主の手前言わず、アリアを放置して椅子に座った。

 意気消沈の三人はせめて食事でも、とテーブルに向かう。


 その隣にリリアノ、遅れてその隣にアリアが座った。


「飯ならオススメがあるが、どうする?」


「じゃあそれで」


 店主の一言に対して適当に答えると、店主は奥へと引っ込んだ。


「はぁぁ......どうすんの、これから」


 テーブルに突っ伏したアリアのやる気の無い声に、ウェンは溜め息を吐いた。


「まぁ、野宿だろうな。街の中だし、賊や魔物の心配も無いだろ」


「野宿ぅ!? えー、やだよ。お風呂入りたい!」


「我が儘言いやがって......」


 野宿なんて相当なもの好きでもない限り、忌み嫌うものだろう。

 沈んでいるのアリアの横で、リリアノはソワソワと落ち着きの無い素振りだ。


「大丈夫か?」


 ノースでもそうだったが、人混みに慣れていないリリアノにとって、見知らぬ人間に不安を抱くらしい。

 ビクリと肩を震わせて、リリアノは頷いた。


「ほら、待たせたな」


 店主の低い声が三人に掛けられ、目の前に置かれた器に目を向ける。


「ウチのおすすめメニュー、大蛙の煮付けだ」


「......」


「......うぇっ」


 器の中はグロテスクで、地獄と言っても差異は無い。

 聞いた通りの大きな蛙が腹を上にし、舌を出して、白目を向いて調理されている。


 何もそこまで原型を留めなくてもいいのに、と言うウェンの考えが不思議と読める。


「やー、今年は蛙が大量発生してなぁ。ヤケクソで作ってみたら意外と好評で驚いたよ。内臓は取ってあるから安心して食いな」


「聞いてねぇよ......」


「目玉が美味いぞ!」


 何がおかしいのか、ケラケラ笑う店主に殺意を抱き、器の敵を見た。

 足の一本を千切り、口に入れてみた。


「......おお、意外と美味い」


「だろ? 腕がいいんだよ」


 上腕を見せつけ、満足したようで店主はカウンター奥へ帰って行った。


「うぇぇ、これ食べるのぉ? グロイ......気持ち悪......」


「さっき肉が食いたいって言ってたじゃねぇか」


「それとこれとは話が別だよ!」


 アリアは絶叫後、青い顔をしながら器の蛙に手を出した。

 蛙の体が汁で光沢を放ち、グロテスクさを助長させている。


「あ、う......あぁ......」


 足の一本を持ち、口の前に近付けては離すを繰り返す。

 中々一歩を踏み出せないアリアの隣で、黙々と食を進めるリリアノに気付き、ウェンは目を見開いた。


「おま......意外と肝据わってんなぁ…...」


 キョトン顔のリリアノに種族差を感じながら、食を進める。

 傍らでアリアの苦しげな呟きを聞きながら、時は過ぎる。

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