共闘?
「居たぞ! 追え!」
「またかよ! 何人いるんだこいつら!」
西で最も大きな街に巣食う傭兵団。
ウェンは人が疎らに遊歩する道を走る。
手には剣、服には返り血、どこからどう見ても只事では無い雰囲気。
相手も無抵抗に殺されるだけの群衆ではない。
二人一組で敵を追い、徐々に体力を削る。
リリアノ達を探そうにも、こう追い回されてはそれどころでは無い。
流石に全員を相手にすれば時間も体力も底をついてしまうだろう。それに、直ぐにでも街を立つ予定であったのだ、二人を見つけて馬車で逃げれればそれで良い。
「......しつこい奴等だ」
痺れを切らし、振り向きざまに剣を一振り。
当たり前の話だが、同じ人間でも個体差があり、それは足の速さや体力等も含まれるだろう。
二人が走って追い掛けたのなら、差が出来る。
一瞬ではあるが、一体一に持ち込む。
敵も剣戟に反応し、自身の剣で受け止めはするが、予想以上の重い一撃によろめく。
「やめっ......!」
敵を横一文字に切り裂く。
ウェンは断末魔の叫びに反応する事無く、斬り捨てた敵の首根っこを掴み、追い掛け、一撃浴びせようと振りかぶっているもう一人に投げる。
敵はギョッとした顔をした。
そして、ウェンの無慈悲な一撃によってそのままの表情で血の池を作った。
「はー......疲れる」
顔に付いた返り血を手の甲で拭い、剣の血を振り落とす。
倒しても、殺しても、斬り捨てても、全く以てキリが無い。
「おい、こっちだ。そこのアンタ」
暗く細い路地裏からウェンに話し掛ける中背中肉の男。
傭兵の服ではない、どうやら街の人間のようだ。
罠の可能性も考慮したが、この圧倒的不利な状況で罠にかける意味が無いと判断し、路地裏へ入る。
「着いてきてくれ、アンタに用があってな」
「用? 見ず知らずの俺にか?」
「だからこそ、だ。俺はザビ、こっちに仲間がいる」
「仲間ね......」
路地裏を進むと、古い扉があった。
鍵が掛かっており、ザビが一言言うと、鍵の解かれる音が聞こえた。
ギギギ、と軋む音を出し、開く扉の中へ入って行く。どうやら罠ではない。
中は薄暗く、数人の男女がテーブルの上にあるオイルランプを囲んで椅子に座っている。
「ようこそ、俺達はこの街を守る......いや、守っていた者だ」
皆、顔は暗い。
ザビが発した言葉に全て意味が含まれていた。
「......あの傭兵共にお株奪われたってとこか?」
「あぁ、あのクソ共が全ての元凶だ。見たろ? あの横暴を」
「まぁな。ある意味盗賊団と変わらん」
「そうだ、アイツらが来たお陰で蓄えは無くなり、活気は失い、恐怖がこの街を支配した。奴等が来た時に言った台詞はまだ一字一句覚えてる『守ってやるから食い物と女を持って来い』だと、ふざけやがって」
「抵抗はしなかったのか?」
「したさ。......無意味だった」
ザビの言葉に、一人の女性は泣き出し、テーブルに顔を伏せてしまう。
どうやら、彼女の夫や息子が不幸な目にあったらしい。
「アンタが来た事は好機だと思ってる。そこで、頼みがある」
「俺がアイツらを倒すってか? 無理だ、数も戦闘力も未知数。正気の沙汰じゃない。勝てない勝負はするべきじゃない」
「それは俺だって承知してるさ。アンタは崩してくれるだけでいい」
「崩す?」
「奴等の指揮を、だ。アイツら傭兵の指揮はドレイクがやってる。あの大男だけ倒してしまえばあっという間に崩れるさ」
昨日、酒場で大酒飲んでいた男の名前を思い出す。
思い出してみれば、確かに一番偉そうにしていたような。
「成程な......まぁ断るけど」
「なっ!?」
「何で俺がそんなマネしなきゃならない? この街の事なんてどうでもいい。滅びたきゃ勝手に滅びろ」
正義の味方の物真似などはしていない、そう感じさせる雰囲気に、ザビは歯軋りして拳を握り締めた。
完全に目的の不一致だ。交渉など、初めからされていなかった。
「......ほーう。それなら俺達にも考えが有る」
実力行使か、と身構えるが、どうやらそうではないらしい。
「この街の門は俺達の管理下にある。俺達が開けないと言ったら、門は開かない。お前ら馬で来てんだろ? 壁を飛び越えられるのか?」
「お前......!」
剣に手を掛け、ウェンが鋭く睨むと、先程の惨劇を思い出したようで、ザビの目に恐怖心を見た。
仮に、この場の全員がウェンに飛び掛っても敵わないだろう。
仮に勝利の算段があったとして、少なからず格上の力量と理解している相手に、いの一番に向かって行く者がいるだろうか。
死を覚悟して突撃する、そんな人間はこんな姑息な策を弄する筈が無い。
「......まぁ、敵は少ないに限るしな」
根負けした様子のウェンは殺意を収め、ザビへ向き直した。
「なら!」
「あぁ、口車に乗ってやる。その代わり......」
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「赤髪の男ならあっちに逃げました!」
街人が先々で傭兵に叫ぶ。
傭兵団の人間は街人を味方だと思っているので、鵜呑みにして指された方向へ走る。
それが嘘の情報とも知らずに。
ウェンが彼等に事付したのは情報の撹乱。
ドレイクを倒すと言う目的だが、一騎打ちに持ち込めるならそうした方がずっと戦い易い。
先ずは雑兵を嘘情報で散らせ、リリアノ達と合流する。
とは言え、街はそこそこに広く、虱潰しに探そうとも徒労になるだろう。
ザビは街人の、協力してくれる人間から情報を集める。
ウェンは、
「この辺の筈......」
人通りの無い場所にさっきと同じ方法で敵を誘き出し、二人一組で歩く敵を後ろから襲撃する。
物陰から音も無く近付き、まず一人、背中から確実に心臓を突き、絶命させる。
「いっ......!」
ウェンは剣を離し、残す一人の胸倉を掴むと、投げで地面に叩き付けた。
かはっ、と口から空気を吐き出す。
肺の空気が出て行き、一時的な呼吸困難に陥る。
意識を失わない程度に手加減したので、虚ろな目で口をパクパクさせている。
それでも逃げようとし、背中を向けて這っている。
それを逃す筈も無く、ウェンは男の背中に馬乗りになって、短剣を取り出す。
「質問に答えろ。答えなきゃ殺す。正直に言えば助けてやる」
冷たく、何の感情も篭っていない無慈悲な声。
短剣を持つウェンの姿は、敵にとっては死神以外の何者でも無い。
「女二人を知っているか?」
「......」
無言。倒れた男は何も答えようとしない。
「......はぁ」
ウェンは持つ短剣を男の太腿へ突き刺した。
空っぽになった肺で、捻り出した劈く悲鳴。
短剣を縦に横に動かす度、悲鳴には涙声が混じり、男は手足をばたつかせる。
「知っ......てる......」
「ほう、捕まえたのか?」
「ま......だ......一人、が、追い掛けて......森に......」
まだ捕まってはいない、それが分かっただけで、ウェンは少し安堵していた。
「一人か......」
つまり、あの二人はそこまで重要視されてはいないという事だ。
それもその筈。傭兵団にとっては脅威となり得るのはウェンだけで、彼を殺してしまえば後は時間を掛けて追い詰めるだけだからだ。
「ドレイクは何処に?」
「......知らない」
立ち上がったウェンは、男の右腕を持ち、伸ばしてから逆の方向に折り曲げる。
普通は曲がらない方向に曲げられた肘は、見るに耐えない姿となる。
男はせめてもの抵抗か叫ばず、呻き声を出すだけであった。
「......バランスが悪いな。もう片方ずつやっとくか」
短剣を引き抜き、独り言のように呟く声を聞いて、敵は恐怖に顔を引き攣らせる。
「......ど、ドレイクは、いつもの酒場に居る。俺達はっ」
もういい、と言わんばかりにトドメを刺した。
目を開けたまま絶命し、地面に血の海を広げた。
「......取り敢えず二人か。森って言ってたな」
そう言えば、来た時に小さな森を見た気がする。
ウェンは細かな場所を思い出しつつ、走った。




