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MR.GRAY:THE KNIGHT OF MODERN ERA#3

 オドエイサーが撤退し、やっと一息というモードレッドは仲間として戦ってくれるインドラジットにこれから始まるアーサーとの戦争について質問攻めにした。ニュージャージーのどこかのビルの屋上で暫く話していた彼らの前に、早速オドエイサーに代わる次の刺客が現れた。

登場人物

ネイバーフッズ

―Mr.グレイ/モードレッド…アーサー王に叛逆した息子、ネイバーフッズのリーダー。

―インドラジット…かつて偉大な英雄達と戦って討たれたランカ島の王子、モードレッド陣営。

―チャンガマイア・ドンボ…ジンバブエの覇王として名を馳せたショナ人、アーサー陣営。



オドエイサー撤退から数十分後:ニュージャージー州


 そろそろ一旦帰る必要があるなと思いつつも、モードレッド卿は屋上から周囲を眺めながら尋ねた。

「君は確か無敵になれる術を使えたな」

「ああ」

 好感触であった。卿は続けた。

「じゃあそれがあれば勝ち抜けるかも」

「否よ、余は邪法を捨てた身、今はブラーマ公を清く信仰しているが故、今使える魔法では2分がせいぜいだ」

「ああ…まあそんな気がしたんだけど」

 やはりそう簡単に事は運ばなかった。かつて悪の道にいたインドラジットならばほとんど無敵のその力を存分に振るえたにしても、本人が言うようにそれがブラーマへの(よこしま)な信仰によるものであったならば、確かに放棄して正解であったかも知れなかった。今や彼は健全なやり方でブラーマを崇め、それ故かつてのような無敵性が喪われたとしてもそれは悪い事ではなかった。

 晴れ渡った空が今となっては不気味に思えてならず、これから始まるであろう大々的な闘争を思えば気が引き締まった。恐らくは遂に父との決着が着くだろうから、今まで以上に強くあらねばならない。

「案ずるな、2分とは言え余を殺傷し得る者はおよそ存在しなくなるのだ。それを戦略的に考えてくれたまえ。詠唱に数十秒かかるが…かつては何時間もかけてやっと終わる程の時間がかかったもの」

 灰と白の鎧に身を包んだネイバーフッズのリーダーは肩を竦めながら言った。

「お求め易くなったわけだね」

「うむ」

「値段相応になったとも言うけど」

「こらこら、そう悲観するでない!」と外見年齢30前後のセイロン王子は少年のように抗議した。長髪が揺れ、ぱりっと整った美しい顔は存外喜怒哀楽豊かであると思われた。

 いずれにせよ、遂にそうした黯黒の日々が始まったらしく、果たしてどのような強敵が待ち受けるかまでは定かではないが、まず対岸のネイバーフッズ・ホームベースにまで戻って話し合わねばならない――と、そこで彼はまだまだ疑問があった事を思い出した。

「ところで…敵は誰なんだ? その、私の大敵たる父とオドエイサー以外は」

「余もつい10時間前に召喚されたばかりでな…余は敬愛する父上――彼に神々の祝福あれ――や久々に起きた寝ぼすけの叔父上と共に修行に励んでいたところであった。敵ながらに天晴(あっぱれ)なるラーマとその軍勢に敗れた我らは死を通して新たな生を受けてな。実を言うとこうして家族以外と出会うのも随分久方ぶりの事なのだ。我らは清く生きる事を天上の支配者達に誓い、かの実体らはそれを祝福してくれた。そんなある日、未知の力で余はいきなりこちらの次元へと強制的に呼び出されたというわけだ。

「全くもって理不尽極まるが、しかも〈強制力〉(ギアス)を持つ者が王ないしは高貴な者達を統べて敵対者達と対峙するなどという魔術的な天啓が余に(もたら)されたが故、こうして余は貴公の危機に馳せ参じる事と相成ったわけだ。重要なのはな? 貴公程の力の持ち主でさえあの終わらせる者には追い詰められてしまったという事だ。そして余がいなければ、貴公も今頃は文字通りに終わっていたという事。それをゆめゆめ忘れるでないぞ?」

 グレイはこのラークシャサがその美しい外見通りのとっつきにくい性格だろうと思っていたが、実際には少し微笑ましいところもあるらしかった。少し見えっ張りというか、外見以上に背伸びしているような振る舞いであり、しかしだからと言って悪い印象を受けるでもなかった。むしろ弟分を見ているかのような感覚に近く、6フィートを超える立派な体躯を誇るモードレッドの強健な肉体と美しささえ霞む程の男である事を思えば、そのアンバランスさが好印象であった。まだ短い時間の付き合いであるため断定できるわけではないものの、単に威張り散らしているという風でもなく、オドエイサーとのやり取りからすると礼儀正しさも備えていると見えた。なるほど確かに伝承通りのラークシャサらしからぬ有り様ではあるものの、もしも彼らが本当に改心して修行し直しているのであれば、この王子の様子もまた自然なものであると思われた。

 それ故Mr.グレイは軽く微笑むという返事をするに至った。

「どうにも貴公は余を小馬鹿にしているような気がするのだが…」

「それは多分気のせいだよ。もちろん君には感謝してるさ…では着いて来たまえ」

 冗談めかして卿がそう呟くと、途端に黄金の装具に身を包んだランカ島の栄えある王子は身が強張った。びしっと直立し、その表情があまりにも不満に満ちているものだから、卿はさすがにぎょっとした。

「えーと、もしかして…今のが〈強制力〉(ギアス)か?」

「いかにもな! 既に述べたであろう、余は父上以外の者に命令されたくないのだ! まあラーマ公なら考えてやらぬでもないが…とにかく我が主君はラーヴァナただ一人、あとは俗世を超越せし三神のみが余を家来とできる!」

 外見年齢は30歳ぐらいと見られる蒼い肌の大層美しい妖魔の王子は、腕を組んで右半身を前に付き出した斜めの態勢で立ちながらきっぱりと言い放った。これを無視すると〈強制力〉(ギアス)があろうとまともな協力関係が得られるとは思えない。彼はせっかく己の新たな円卓の騎士団たるネイバーフッズを結成できたというのに、今こうして意味不明な――しかし間違いなく待ち望んでいた対決――闘争に巻き込まれ、そして新たなメンバーであるインドラジットはこの有り様である。少々腹が立たないでもなかったが、どこまで命令として扱われるかのテストをするという名目で実験を開始した場合、最終的にインドラジットとの関係がどうなるかをシミュレートした。言うまでもなく好ましくなかったから、結局彼はその案を打ち捨てて歩み寄りを選んだ。

「わかった、じゃあ協力してくれる、という形ならどうだ?」

 インドラジットのようにモードレッドは腕を組んだが、表情はあくまで軽かった。ちょっとお話しようよ、という具合であった。

「それならよかろう。このインドラジット、かつて神々の王を打ち倒した我が技の冴えにかけて、貴公と共に戦い抜く事を誓おう」

 それを聞き遂げると、モードレッド卿はインドラジットに右手を差し出して握手を求めた。ランカ島の王子はその手を取って握手をし、彼らは暫くそうやっていた。

「そういえば君のそのインドラジットという名前は大丈夫なのか? もうインドラは解放されたんだろう? なのにいつまでもインドラにとって屈辱的な名を名乗ってて大丈夫なのかとね」

「その件か」とセイロンの妖魔の王子は得意そうな態度で言った。「聞いて驚く事なかれ、余は更なる修行の結果、遂にブラーマ公とシヴァ公とヴィシュヌ公が再びインドラジットを名乗る事を承諾してくれたのだ!」

 熟達した戦士でもある美しい妖魔の王子は少年のようにそう自慢したものの、卿は内心インドラの事を考えて同情した。と、そこで、彼はまだ聞いていない事がある事に気が付いた。

「おっと、何度も質問してばかりで恐縮なんだが大事な事だから是非答えて欲しい。この戦争で勝った側は一体どうなるんだ? 負けた側は? それに〈強制力〉(ギアス)という力も解せない、まさか父が私と戦うにあたってわざわざそんなものを与える必要性がわからないし、やはり誰かが裏で仕組んだのだろうか?」

 インドラジットはとくに考えるでもなく答えた。

「いやそれが、余も知らぬ」

 何だそれはと卿が呆れようとした瞬間、彼らがいるビルの屋上に何かが大爆発のような音を立てて落下した。あまりの衝撃故にコンクリート片とその粉塵が煙幕となり、思わず卿と王子は片腕を顔の前に掲げて庇う動作を取った。やがて埃が晴れようかという辺りでドラゴンのように野太い声が響き渡った。

「貴公らがオドエイサーの言っておった武人か!」

 コンクリートの粉塵が晴れてくると徐々にその姿が明らかになってきた。オドエイサーと同じ焔の肉体を持つものの、鮮やかな紅色に燃え上がるその焔そのものの肉体は、ショナ人に見られる緻密な刺繍入りの赤い布の衣服を彼ら本来の優雅さとは無縁なぐらいぶっきらぼうに外套代わりとして、その下には蛍光色の緑色をした現代的な軍人の制服を着ており、階級章や勲章が不自然にも存在しないがどうやら高位の階級であると思われた。上質なチーターの毛皮をバンダナのように頭へ巻き付け、軍服の上には伝統的な布の装飾がじゃらじゃらと犇めいていた。その古きと新しきの混ざったファッション性を別とすれば明らかに儀礼的なその服装にも関わらず、鮮やかな紅色に燃え盛る謎の男は尋常ならざる闘志を放っていた。

 モードレッドは警戒しながらも堂々と答えた。まるで己が古い時代のイングランドに戻ったかのようでさえあった。

「私はモードレッド、己の父に叛旗を翻した王子だ!」

 彼はあえて包み隠さず己の所業を述べた。その是非はともかくとして、実際彼は叛乱を起こしたのである。

「余はインドラジット、偉大なるラーヴァナの息子である!」

 続けてインドラジットが名乗るのを聞き、南部アフリカ的な相手の男は満足に唸ってから続けて名乗った。

「面白い、数多の流転と無の只中を彷徨ったこの俺がお伽噺の王に今しがた呼び出されたかと思えば、聖剣を振るうその息子と妖魔の王子と相まみえる事となろうとは! 俺は〈破壊者達〉(ロズワイ)の王者チャンガマイア・ドンボ、貴公らとの出会いを天空の至高神に感謝しよう!」

 それを聞いてモードレッドは更に警戒を強めた。相手が好戦的なのはもちろんの事、その名も気になった。

「何者だ?」とランカ島の王子が言うとブリテンの王子は焦燥しながらそれに答えた。

「くっ、ドンボ王と言えばかのシャカ・ズールーの数百年前にヨーロッパ勢力と激戦を繰り広げた高原の覇王じゃないか! 何か嫌な予感がするぞ…第一私は今日乱入されたのは3度目だしな」

「それつまり余も入っているような…」

「多分な! 気を引き締めろ、2人相手かつ我々の正体を知った上であの態度だ、恐らくオドエイサーと同じで強敵だぞ!」

 するとまた美しいラークシャサの王子は身が強張って命令に従わされた。

「だから、余に命令するでない! これでも結構根に持つぞ!」

「はぁ、基準がわからんぞ。とにかく迎撃しよう!」

 卿は一旦素手で構え、王子は弓を構えて後衛を担った。

「気のせいかも知れないが、私がやられると不味いんじゃないか?」

「そうは言うが余は剣より弓を好むが故にな…まあ、頑張りたまえ」

「それは最高だ、生きて帰れたら礼にぐっと来るようなドライ・マティーニを奢るよ」

 モードレッドがそう言った瞬間、紅色の焔として顕現したショナ人の王が腕を振るうと、唐突にひゅうっという空を切る音が響いた。一体何事かと2人が周囲を見ると、途端に彼らは天地がひっくり返るかのような轟音と共に屋上から落下した。落下しながらもモードレッドはその音が先日の『アタック・フロム・ジ・アンノウン・リージョン事件』において掩護してくれた巡洋艦『オクラホマシティ』の6インチ砲と同じであった事を薄っすらと思い出した。

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