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燎原の覇者  作者: さかもと希夢
背徳の功罪
102/179

<12>

 セクアナへ出ていた一行が、革命軍のアーケル高原本営に戻ってから三日後の九月十八日に、シーデナ攻略戦についての会議が行われた。

 革命軍総司令部会議への出席者は、毎回二十人前後である。その議題により幾人かの変動はあるが、おおむねこの人数で確定している。

 総司令官エドワード・補佐リッツを初め、このような面々が席を埋めている。

 全軍指揮官・ジェラルド

 補佐並び特別遊撃隊指揮官・ギルバート

 精霊部隊指揮官パトリシア、副官ソフィア

 弓兵部隊ベネット、副官ニール

 歩兵部隊指揮官コネル、副官チャック、他二名

 騎馬部隊長エリクソン、副官オドネル

 後方支援部隊長カークランド、副官マディラ

 新たに加わった諜報部局長ハウエル

 今回は大規模作戦の前であるから、政務部のグラントと秘書官としてシャスタが席を温めている。

 本営天幕の円卓中央に座して、エドワードは今後の作戦の決定案を捲っている。ずっしりと分厚いその書類を見たとき、リッツが思い切り嫌な顔をしたのを思い出した。

 そもそも文字を覚えてまだ数年のリッツは、文書からできるだけ遠ざかろうと考えている男だ。膨大な資料を読むのは苦痛だろう。

 だが健気にも、この間の一件以来、黙ってまず資料を読むよう心がけることにしたらしい。この資料も一応リッツが全て目を通していた。

 理解したかどうかは、全く不明だが。

 全ての部署から上がってきた現状と、ハウエルを中心とした諜報部が集めてきた情報を元に、ジェラルドと立案したものではあるが、状況の変化があり、是正する部分があるならば、それに越したことはない。何しろ、寄せ集めである革命軍で最も重要なのは、生きた情報なのである。

 現在の革命軍は、アーケル草原の戦いの三倍以上の、七万人という規模を抱えている。

 騎馬、遊撃、諜報、弓、精霊部隊などの特殊な技能を必要とする部隊に配属される程の経験者や実力者は少ない。彼らが配属される先は、そのほとんどが歩兵部隊である。もちろん経歴を生かして工兵や調理兵、衛生兵など、後方勤務に就く者も多い。

 そのためこの補強によって膨大な数へと人数を膨れあがらせたのは、コネルの歩兵部隊だった。元王国軍所属の人々が、中隊長以上の地位に就き、種々様々な人々を指導している。

 現在の歩兵部隊は、重歩兵部隊がある第一隊、第二隊から、歩兵だけの第十隊までで五万を軽く超える大部隊だ。そのため、一隊毎に指揮官と作戦参謀を置き、千人単位で連隊長を置いている。

 軍事と数字に弱いリッツが、隊長の数と部隊の数を指折り数えていたのを横で聞いたところによると、歩兵部隊だけで隊ごとの総指揮官が十人、連隊長が全隊合わせて五十人、大隊長、中隊長、小隊長と数えていくと、歩兵部隊だけで目が回る数がいるそうだ。

 ちなみにエドワードは、後でリッツに向かって正確な数字を補足した。大隊長は五百人程に一人だから百人、中隊長は百人程に一人だから五百人程、小隊長は五十人程に一人だからおおよそ千人ほどだ。

 計算すれば簡単に答えが出るが、リッツは『とにかくわけわからんぐらいに大量にいる』と言うだけで覚えるつもりはないようだった。子供かと思うも、それを言うとまた落ち込まれるのが分かっているから、今は禁句だ。

 それにリッツが主に関わるのは、特別遊撃隊二千人だけだ。

 その中にある精霊部隊五十人、弓部隊千五百人、特別遊撃部隊五百は、小隊規模で動く少数精鋭部隊だ。リッツが連隊長の下に何人の指揮官がいて、最終的にどういう命令体系になっていくのかを学ばなくとも、今の所困ることはない。

 そしてこれが頭の痛いところなのだが、歩兵部隊のほとんどに軍務経験がない。正規兵と同じように考え、同じように動かせると思うのは間違いだ。そのためにエドワードは必要以上に頭を悩ませ、書類とにらみ合うことになるのである。

 何故なら戦いに負け、一般人を大量に失うことになれば人望を失う。人民とは、勝っているうちは味方になり、負け続ければ敵になるものだ。

 かのメイソンがそうだったように。

 それ故に慎重に、克つ効果的な戦略を立てるしかない。

 顔を上げ、こちらを見つめるジェラルドに頷き返すと、ジェラルドは机の中央に広げられた巨大な地図に指を走らせた。

「まず今後の我々の進路だ。ここアーケル草原を中心とし、ファルディナ街道を真っ直ぐに南下する」

 ジェラルドの指が地図上を走るのを、全員が黙ったまま見つめた。ジェラルドはゆっくりと走らせた指を、とある一点で止めた。

「だがここに第一の難関がある」

 それがどこだか分かっているエドワードは無言のままいたが、リッツは興味津々といった体で立ち上がり、ジェラルドの手元を覗き込んだ。

「それって街だよな? どうして難関なの?」

 今日はなんでも聞けと言ってあるから、リッツに遠慮は無い。説明の腰を折られて苦笑するジェラルドに変わり、エドワードが席を立っているリッツに答える。

「今までの自治領区に、街を支配する貴族はどれぐらいいた?」

「えっと自治領主と、他に大きな街に二人かな? 貴族が支配していない街も結構多かったよ」

「そうだ。北部に位置する自治領区のほとんどがその形式を取っている。グレインも同様だ」

「グレインにも街を支配する伯爵がいたの? 会ったことないけど?」

 今までティルスとグレインの他の街に行ったことはないリッツだから当然だろう。

「いるさ。自治領区の通常の形だ。グレインだって守る」

「やっぱ偉そうなの?」

「いや。グレインには『貴族は貴族特権を持たず』という決まり事がある。だから伯爵家であっても、特権を振りかざすことはできないんだ。その代わりその街の長としての給料は出ることになっている」

「へぇ……」

 貴族特権の廃止と、街々の改革を行ったのはジェラルドだ。ジェラルドが領主になるまでは、伯爵家が力を持って、自治領主に圧力を掛けてくることもあったらしい。だが強固に改革を推し進めたジェラルドに、敵対する伯爵家はある事件を期に大人しくジェラルドに従うこととなった。

 その事件こそが、ルイーズの王宮入りだった。ルイーズが王宮に入り、国王の寵姫となったことで、伯爵家は、その後ろ盾であるジェラルドに逆らわなくなって今日に至る。

 現在伯爵家が治める二つの街は、隣国フォルヌとの国境と、サラディオとの自治区境の近くにあり、共に旅人の街道を通している。グレインの街は、東西にこの二つの街に囲まれる形になっているのだ。

「権威を笠に着て民を支配下に置くことができない分、彼らは街の自治に気を配る。街の人々に反乱を起こされれば、自らの地位が危ないからな。幸いなことに現在の二人の伯爵家は、モーガン家に忠実だ」

 詳しく説明すると、ようやく納得したようにリッツが頷いた。ふと視線を感じて顔を向けると、コネルが渋い顔をしている。やはり会議がまともに動かないことが、コネルのような軍人には納得いかないのだろう。

 リッツもそれに気がついたようで、小さく咳払いして、本来の質問に戻す。

「で、どうしてここからシアーズへ行く途中の街が難関なんだ?」

「ここから先の街は、王国直轄区だけあって今までの自治領区よりも規模が大きい。そしてその全てを貴族が支配している」

 エドワードは立ち上がって、ジェラルドの横から地図に手を伸ばした。ざらりと厚い紙の上に指を滑らせ、ファルディナと直轄区シアーズの境目を指し示した。

「直轄地は巨大な平野だ。だが街道沿いにまだ森は残っている。広大なシアーズ平野に出るまでに存在する街のいくつかは、街道から横道に入った先にある。横道と言っても今までとは違い、整備された大きな道だ。その街から我々を阻止しようと私兵を出してくる可能性が捨てきれない。そしてその街の回りには、貴族がいないも、その街に属する村々がいくつかある。こちらからの攻撃の可能性も捨てきれない」

 リッツに対していた説明だったが、気がつくとエドワードの指先に皆の注目が集まっていた。エドワードは顔を上げて一同を見渡した。

「我々がシアーズへと攻め上るのに最も重要なのは補給線の確保だ。これらの街を無視し、直接王都に攻め込めば、我々の退路が断たれる」

 頷きつつも、難しく顔をしかめたのは、後方支援部長カークランドだった。補給線が長くなり、道すがら危険が残された場合、本隊よりも攻撃力の低い後方支援部隊は敵に撃破されかねない。その場合、食料の補給は途絶え、士気が落ち、革命軍は敗北へと転がり落ちていくだろう。

「よって我々は、今後を考えて、これらの街を攻略せねばならないわけだ。むろん我々は革命軍であり、民衆を解放するべき立場の軍だ。武力によって彼らを制圧することは、我らの大義を失うことになる」

 言葉を切ると、楽しげにギルバートが笑みを浮かべた。

「だからこの作戦か。正規軍の取る作戦ではないな」

「そうだろうな。私も歴史書では見た事がない」

 素直にエドワードは認めて頷く。

「でも守護を持たない村を味方に付けるには、手っ取り早いんだじゃないかな」

 茶目っ気たっぷりに肩をすくめ、エドワードはギルバードに微笑み返す。ギルバートも両手を開いて笑いながら降参を示した。

 そんな二人に、作戦を知らない人々が疑問の表情を浮かべている。そんな中で、一応作戦書類全てに目を通したリッツが、素っ頓狂な声を上げた。

「それが『みんなでお客さん作戦』だな?」

 あまりに牧歌的な作戦名に、全員が呆れて顎を落とした。

「……それは本当ですか、殿下?」

 思い切り顔をしかめ、髪を掻きながらコネルがぼそりと訊ねてきた。作戦名はリッツが勝手に名付けたが、本質はよく捕らえている。

 本当は正式作戦名があったのだが、端的に言えばこちらの方が分かりやすかったため、彼らの間ではその呼び名で通っていたのだ。だが正規軍からすれば、きっと作戦名同様に、呆れた作戦だろう。

「まあそうだな。本当と言えば本当だ」

「それは、どんな作戦なのでしょう?」

 同じように困惑しきりのカークランドに聞かれて、エドワードはジェラルドを見る。ジェラルドは肩を揺らして笑いながら、再び地図に指を滑らした。

「いいかな、諸君。現時点で我々が本営を置く場所より出陣し、奇襲の心配を恐れる必要が無い平野部まで出るとする。するとそこまでに貴族支配の街が三つ存在する。どれも貴族が支配しており、攻撃を仕掛けられる可能性が高い街だ。そしてそれを取り囲む村は、それぞれ三つから四つ。合計で十ある。偵察を出して確認をしたが、この村々にまで、強制徴兵令がでているようだ。ハウエル」

 ジェラルドに呼ばれて、ハウエルが書き付けを手に立ち上がった。

「我々の見たところによりますと、村人の反感は高まっているようですな。これから忙しくなる収穫シーズンに、無理矢理人手を取られるんですから当然でしょう。元々この辺りでは、農民による耕作放棄はほとんど成されておらず、みな自分の畑を持っております。直轄区故、今まで他の国比べて格段に地税が安かったんですな」

 いつものように人を食ったような笑みを浮かべつつ語るハウエルに、リッツが微かに顔を背けたが、この場で声を掛けることもできず、ハウエルに向き直った。

「反感はそれだけなのか?」

「はい殿下。それだけと申されましたが、近くの街から兵士がやってきて、働き盛りの男たちに武器を突きつけて連れ去るんですから、穏やかじゃありません。強制徴兵令は、これらの村々ではすでに、国による人狩りと憎しみを込めて呼ばれております」

「なるほど」

「そんな彼らですから、我々革命軍の存在を知っていて、迷っているようです。果たして我々が本当に王国軍に勝てるのか、そして街に囚われ、週に一度王都に連行されていく村人を救ってくれるのかとね」

「なるほど。それぞれの村人を一つの街が集めて、シアーズへ連行していくのか」

「おっしゃる通りでございます」

「ではこの街の貴族を追い落とし、王都へと逃げ落ちさせることはできるのか?」

 貴族であるからという理由だけで、彼らを惨殺することはできない。革命軍幹部の大半が貴族であるという現実を考慮した場合、貴族であるから敵であり、庶民であれば味方であるという図式ばかりを広めるのには問題が出てきているのだ。

 もしこの国に平穏が訪れたとき、残った貴族が革命軍にだけいれば、彼らもまた貴族として粛正の対象になるだろう。

 だから王都へと逃がすのだ。そして闘い以後に、彼らからまとめてその貴族特権を剥奪し、一からやり直させる機会を与える必要があった。

「もちろん可能でしょう。現在シアーズでは、貴族の流入を諸手を挙げて歓迎しております。なにせ民衆の大量逃亡と、それに伴う見せしめの公開処刑やら、虐待やらで、大量の庶民を失ったので」

 明るい口調のハウエルから出た言葉は、革命軍から見ればとてつもなく苦々しいことだった。シアーズからの難民を逃がしたのは、チノたちが仕掛けたことである。だが残った人々がどうなるのかと考えなかったわけではない。

 それ故に助かった者と、シアーズで怯える者の狭間で、エドワードの心も痛んだ。だが少しでも多くの人々を救うためには、あの時点で逃がすしかなかったのだ。

 シアーズに半年住んだリッツも同じように唇を噛んでいる。リッツにも馴染みの者がいるのだろうから、心配だろう。

 重い沈黙が垂れ込める中、小さく息を吐いてコネルが口を開いた。

「急がねば成るまい。シアーズの民が全滅する前に」

 全員が同意する前に、ハウエルが先ほどから全く変わらぬ表情で、飄々と全体を見渡した。

「まあ焦ることもあるまい、サウスフォード。王都の最新情報があるのだ」

「……もったい付けずに離せハウエル」

「怖い怖い。このような夫を持ったイライザは悲劇だな」

 からかい気味のハウエルをコネルは本気で睨み付けた。

「ハウエル」

「了解だ。結果から先に言おう。今後は少しづつだが民衆への虐待や公開処刑は減るだろう」

「理由は」

「革命軍シアーズ改革派を名乗る組織が、粛正活動を始めたからさ」

 耳慣れぬ名だった。まだエドワードはその情報を耳にしていない。ジェラルドとギルバートもそうであるようで、首を傾げている。全員が困惑することが心地よいのか、ハウエルが自慢げに大きな身振りで言葉を続ける。

「彼らは元シアーズ軍から成る地下組織です。つい最近、大きな公開処刑の際に、偽王に殺害されかけた二十人以上の民衆を円形劇場より救い出し、貴族数人を粛正したようですよ。その時が彼らの初名乗りだったようで、それ以後は民衆に乱暴を働いた者、無為に彼らを虐殺しようとした貴族がみな、彼らによって粛正されています」

「粛正とはなんだ?」

 エドワードの問いかけに、ハウエルはもっともらしく頷いた。

「決まっておりましょう、殿下。貴族たちはその場で斬り殺されるか、後日闇討ちをされるようです」

「……暗殺……ということか?」

「彼らは弱い者を助けているに過ぎませんな」

「だが……」

「貴族が民衆を斬り殺すことは虐殺。これが許されて、貴族が殺される粛正は間違いだと?」

 それを問われると言葉がない。言葉に詰まるエドワードに、ハウエルは穏やかに言葉を続ける。

「現に地下組織は殺害を楽しんでいるわけではなく、助かった貴族もたくさんおります。ただ、その貴族たちは皆、屋敷に引きこもってしまい、悪さをせぬようです」

「なるほど」

 要は危険な目に遭った民衆を貴族の手から守っている存在というわけだ。正面切って闘うことができない民衆にとって、彼らはその命を守ってくれる、大切な存在のはずだ。国が守らない民の命を救っている彼らは暗殺者ではなく、民衆のための憲兵のような存在なのだろう。

 エドワードは小さく息をついた。貴族だけが民衆を殺す時代は、シアーズでは終わったと言うことになるようだ。今の所は強力な地下組織によって。

「そんなわけで、表向きシアーズは平穏を取り戻したようです。まあ……偽王と親王は相変わらずのようですがね」

「地下組織を率いているのは誰なんだ?」

 当然の疑問をぶつけたが、ハウエルは肩をすくめた。

「それが分かればいいんですがねぇ」

「……そうか」

「一つ分かっているのは、その幹部組織にチノがいる事ですかね」

 その言葉に弾かれるように、エドワードはギルバートを見た。ギルバートは苦笑しながらジェラルドを見上げる。

「組織を動かしているのは、ギルか?」

 率直に訊ねると、ギルバートは首を振る。

「俺も確かに立ち上げた一人ではあるが、現在は俺が指揮する立場にない。元々この地下組織は、ジェリーと俺が情報収集と、王都攻略の際に内部撹乱をするための組織として作った。だが地下組織に集まったのは、元改革派であり、何らかの形で大切な人々を貴族に殺された面々だった」

 静かにそう言うと煙草に火を付けたギルバートに変わり、ジェラルドが口を開いた。

「私が彼らに課した使命は、情報収集と我々がシアーズの外に終結した場合の、内部撹乱のみだった。内外からの呼応無くして、シアーズの厚い砦は破れない」

「……それは聞いている。情報組織の話も聞いていた。でもこんな組織だとは……」

「もちろん彼らは今も間断なく情報を我々に届けてくれている。だが内部撹乱の日まで動かぬように命じていたのだが、彼らはそれを拒否した」

「……何故?」

「リッツでも分かるはずのことだ」

 不意にそう振られたリッツが、首を傾げる。

「俺でも?」

「そうだ。もし目の前で沢山の民衆が殺されるようなことになった場合、今は命じられたときではないと、じっと黙って公開処刑を見守ることが出来るか?」

「! できるわけないだろ!」

「目の前で襲われている市民を、放っておくことができるか?」

「無理だ!」

「そういうことだ。彼らは情報を我々に送りつつ、独自にシアーズの民衆を守っている。彼らは少人数で闘いながら、我々が街を解放するのを待っているのだろう」

「……そうか」

 ここにも戦いながら待っていてくれる人々がいる。彼らのためにも、作戦を進めねばなるまい。エドワードは大きく一つ呼吸をし、心を落ち着かせる。一つ一つ確実に。それが未来をたぐり寄せる。

 顔を上げたエドワードは、口元をほころばせて全員を見渡した。

「では急がねば成るまい。リッツ命名の『みんなでお客さん作戦』の内容を説明しよう。実はリッツの命名は言い得て妙だ。特別遊撃隊の面々に、一つの街を囲む村に、お客になって数十人単位で泊まりに行って貰うことにする」

「は?」

 作戦を知らない面々は、ぽかんと口を開けた。

「三つの街に属する全ての村に一斉にだ。つまり現在我が軍の精鋭である遊撃隊二千の内、実戦部隊五百と、精霊部隊五十を十一の班に分け、一度に全ての村に派遣する。そこで客になって、農民の連れ去りに来る街の私兵から村人を守れ。いいか? 信頼を勝ち取ることが目的の一つだ。皆が良き用心棒になることを要求する」

 コネルが先払いした。

「ええっと殿下、本隊は何を?」

「本隊はこれより二ヶ月の休暇に入る」

「は?」

「敵の動きに問題は無いか、ハウエル?」

「はい王太子殿下。今はまだ、人を集めるだけで、王国軍は手一杯で、こちらを急襲しようなど、思いも寄らぬことです」

 気楽にニヤニヤと笑うハウエルに頷き、コネルに笑いかける。

「ということだ、コネル。三交代で全員に休養を取らせ、故郷あるものには里帰りをさせてやるがいい」

「ですがそのようにのんびりと……」

「いいさコネル。今は収穫期だ。農地を取り戻した家族を手伝いたい者も多いだろう?」

 歩兵のほとんどが、自らの土地を取り戻したも、今後も平穏であるためにと戦いの場へその身を投じた者ばかりだ。機会があれば家族の待つ家に戻りたいだろう。

「ですがいいんですかね。こんなに呑気なことを言っても」

「いいんだ。第二の作戦までに揃えてくれ」

「……第二の作戦とは?」

「一気に三つの街を開放し、革命軍傘下に収める。隊を三隊に分け、同時に三つの街を包囲する。第一の作戦が功を奏していれば、街は一気に解放へと傾くだろう」

「ですが……」

 更に渋るコネルを、エドワードはじっと見つめて告げた。

「この作戦以後、我々が再びアーケルまで戻ることはない。もし戻ることがあれば、それは我々の敗北を意味する」

 その一言で場が静まりかえり、緊張感が漂う。

「次に我々がのびのびと羽を休める場所があるとしたら、それは王城の中だ」

 居並ぶ革命軍幹部の面々を、エドワードはゆっくりと順々に見回した。彼らの顔はみな、先ほどとは打って変わって引き締められている。

「新年になれば、スチュワートは最後の大攻勢をかけてくるだろう。それまでに我々がシアーズを眼下に望めなくば、戦火が拡大する。それは断じて許されることではない。最後は大きな戦いになろうが、それはシアーズの街に近い、我々が王都に手が届くところで成されなければ意味が無い。我々は王都の解放を目指しているのだから」

 いよいよシアーズの街が見えてきた。エドワードはその感触を感じ始めてきた。それと同時に分かってもいる。ここからが厳しい戦いになるのだと。微かに視線を向けると、自分を見ていたのだろう、リッツが子供のような満面の笑みを浮かべた。

 声になど出していないのに『大丈夫だ。行ける行ける』と言っているのだと分かる。

 その絶大なリッツの信頼は、エドワードを強くする。友の顔は、決して負けないと、エドワードの心を堅く決めさせる。

「後方支援部隊は、第二の後方支援基地を、アーケル草原へと移し、以後の戦闘に備えた工兵部隊による正式基地とせよ」

「はっ」

 立ち上がったカークランドが、胸に手を当てて頭を垂れる。それに頷き返したエドワードは視線をグラントへと向けた。

「グラント」

「はっ」

「政務部もそれに従い、アーケルへと移動し、作戦の進行状況により、シアーズ直轄区の管理ができるよう、政務官の増員を図れ」

「御意にございます、殿下」

「ギルバート、特別遊撃隊にも休暇を。作戦開始までの二週間、彼らの休暇とする」

「御意に」

 ギルバートが楽しげに、胸に手を当てて頭を垂れた。本当は自分がギルバートに頭を下げねばならぬ未熟者だとは百も承知だ。だがこれがエドワードの立場だ。

「第一の作戦『みんなでお客さん作戦』決行は十月十五日とする。第二の作戦は、十一月二十日とする。以上だ」

 言葉を切ると、全員が一斉に立ち上がった。彼らの揃った最敬礼に、エドワードは静かに頷いた。 

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