四話 暁との関係
「それで? さっき言ったこれから一緒に暮らすってのはどういうこと? 言葉通りでも看過できないんだけど」
「先輩聞こえてたんじゃないですか! なんで無視するんですか!」
「うるさいな...それで? あきら、どういうこと?」
「はい。それを説明するためには最初から説明しなきゃなので、少し長くなるんですけど...」
「大丈夫。質問あったらその都度やっていってもいい?」
「はい、わかりました」
あきらは俺と自分との関係を話し出した
「えっと、まず私のお父さんのことですね。
私のお父さんと佑介くんのお父さんは血の繋がっていない兄弟なんです。佑介くんのおばあさんが子供ができにくい体質だったそうで、孤児だった私のお父さんを養子として迎えいれたんです。迎え入れる準備中におばあさんの妊娠が発覚して産まれたのが佑介くんのお父さんなんです。ここまでいいですか?」
「あぁ、つまりあきらのお父さん、伯父さんはばあさんとじいさんの養子で、父さんとは血の繋がりはないんだな? で、伯父さんは父さんの兄さんだと」
「そうです。なので私と佑介くんはいとこなんですけど血は繋がってないんです」
なるほど。父さんと伯父さんに血の繋がりはないのか
その子供の俺たちにも当然血の繋がりはないと
「でも血は繋がってなくてもいとこだろ? なんで今まで存在すら知らなかったんだ? 親戚が集まったこともあっただろ?」
「私6歳から先月までロンドンにいたんです。お父さんの出張について行ってたので。高校は日本で入学したかったので一人暮らしをしたかったんですけど家族に止められちゃって。なんとかゴネて説得して佑介くんとならしてもいいって言ってもらえたんです! 佑介くんのことを教えられたのもその時です」
そうか。あきらは先月までロンドンに住んでいたのか
そりゃ親戚の集まりにも来れないよな。伯父さんもそっちにいるから易々と来れるわけじゃないだろうし
....ん?
「ちょっと待って! なんで俺とならいいんだ! しかもその時まで俺の事知らなかったんだろ!? 見知らぬ男と一つ屋根の下とか提案する方も受ける方もなに考えてんだ!」
「だって佑介くんしっかりしてるし襲う勇気も度胸もないから大丈夫だろって佑介くんのお父さんが」
「父さん!? え? もしかしてお互いの両親は....」
「はい! OKを貰ってますし事情も知ってます!」
「なんで息子に教えてないんだよぉぉ!!」
なんでだ!? 息子には教えろよ!
そりゃ色々あったから襲ったりしないけどあんたの息子は思春期だぞ!?
こんな可愛い子と同棲なんてひと夏の経験で済めばいいけど、いや、済んじゃまずいけど!!
「お二人ともその方がびっくりしていいだろって」
「あ~、先輩のご両親ならありえますね。あきちゃん。その時一応入学式で先に挨拶しといてくれって言われてませんか? 万が一に勘違いした方が面白いとかも」
「あっ、言ってました! なんでわかったんですか!?」
弥生があきらにそう聞いている
俺の両親はそういう人なので長年幼馴染をしている弥生もちゃんとそのことを知っている
「はぁ...2人の考えそうなことだよ。そのせいで俺が何度困らされたか....本人は遊んでるけど当人は忙しいんだよ」
「でもどうするんですか? もう先輩のところに住んでもらうしか選択肢ないですよ? 野宿させるわけにもいきませんし、というか先輩と一緒じゃなきゃダメみたいですし」
「え? 野宿はちょっと...日本の春でもまだ夜は冷えますし、私寒いの苦手なんです! お願いします! 佑介くん! ここに住ませてください!」
あきらはイスに座ったまま深く頭を下げた
「ちょ、頭あげて! 大丈夫だから! ここにいていいから! というかここにいてくれ! 一緒に暮らそう(両親から怒られるから)」
「...佑介くん! ありがとうございます! そんなに想ってくれてるなんて!」
「あきらはいいの? 従妹とはいえ同じクラスの男子と同じ家で暮らすなんて嫌じゃない? なんなら俺は部屋に籠ってたりしてもいいけど...」
「大丈夫です! 佑介くんとがいいです! 佑介くんも遠慮せずに普通に暮らしてください。私が居候なんですから」
「いいなら別にいいけど...弥生? どうした?」
あきらに少し違う意味で伝わってそうだが...まぁいいか
ふと弥生を見ると面白くなさそうにしている
「....別に。もう暗くなり始めてますんで帰ります。おじゃましました。あとは2人で仲良くしてください」
「あ、おいっ! あー...怒ってんなぁ」
「あ、あの! 私なにかしましたか? もしなにかしたなら追いかけて謝らないと」
あきらはオロオロして困っている
そりゃ急に出て行ったら困るだろう。ただあれは拗ねているだけだ
「いいのいいの。こんなのしょっちゅうだから。
それよりも一緒に暮らすならルールとか決めないと。始業式は明後日なんだから今日ルール決めて明日色々動いていこう....って、どうしたの? そんなポカンとして」
「いえ...すごくしっかりしてるなって思って驚きました。押しかけたその日だから少しギクシャクすると思っていたので...」
驚いているが、そういうことが思えるのなら押しかけてこないで欲しい
いや、この場合は父さんと母さんに文句を言うべきか
「時間ないからな。正直今も整理ついてないし、それなりに動揺はしてるよ? ただ驚きすぎて逆に冷静になってる」
「そ、そうなんですか。あと1つ聞いていいですか? 『節約状態』ってなんですか?」
「スリープモードって勝手に弥生が呼んでるだけだ。俺はあんまり興味ないことの時はボーっとしてるんだよ。なんも考えずにただボーっと。そのことじゃないかな? 入学式ってあんまり聞かなくてもいいことばっかりだろ? だからボーっとしてたんだ」
いつから弥生はそうやって呼んでいるんだろう?
そういえば思い出せないな
「そうなんですか....えっと、ルールですよね」
「そうそう、ルール。せめてそれだけでも決めちゃおう」
俺達はさっそくルール作りに入った。お互いが好き同士で暮らしているんじゃないんだからそれぞれ譲れないところの線引きは重要だ
そう思って議論を重ねた
そして...1時間後にルールが出来上がったときには俺たちはへとへとだった