あっけなく、その恋は終わる
翌日、私はいつも通り学校へ向かう。
足取りは軽くはないけれど、ここで立ち止まっていては先には進めない。
朝一番の講義には、蒼介は来ていない。
それは珍しい事ではなかった。
大事なのは次の授業で、出席しておかないと単位がとれない講義だった。
「お、おはよう」
「おはよう」
いつもなら隣に座るが、少し離れて並ぶ。
「昨日は、本当にごめん。まさか、あのタイミングで紫音が来ると思わなくて」
「……」
「あいつとは、もう何でもないんだ。昨日も、荷物を取りに来て、それで」
「どうでもいいよ。それよりなんで嘘ついたの?」
「それは……」
彼が目をそらし、口ごもる。
「いろんな人と遊びで付き合ってるの?」
「君とは単に仲良くなりたかっただけで、変な気持ちはなくて。彼女も付き合ってる訳じゃない」
それで全て理解出来た。
「私、蒼介のお姉さんに会ったの。とても綺麗な人ね」
「姉さん? なんで君が姉さんを知ってるんだ?」
「昨日、偶然助けてもらって話してみたら貴方のお姉さんだって分かって」
「ふざけてるのか」
急に蒼介が怒り出す。
「別に、お姉さんに言いつけるとかじゃなくて、何かあったら相談にのるって言って下さったから」
なぜ、お姉さんの事を口にしただけで、そんなに取り乱すのか私には解らなかった。
「もういいだろ。とにかく今回は悪かったと思ってる。だから、悪ふざけはやめてくれ」
「悪ふざけってどういう意味よ。とにかくお姉さんにお礼が言いたいから、連絡先だけ教えて欲しいの」
「誰に何を聞いたのか知らないけど。死んだ人間をあれこれ話題に出すなんていくらなんでも悪趣味だぞ」
それだけまくし立てた後、蒼介は教室から出ていってしまった。
最後の言葉は気になったが、一つ分かった事は、もうこの男の事で何か期待するのは辞めにするべきだという事だった。