好きじゃないなら
「橙子、この後の授業さぼろうぜ」
せっかく間に合いそうなのに、蒼介はそんな事を言って私を誘った。
別に大事な授業ではないのだが、今まで病欠以外では休んだ事がなかったので抵抗があった。
「姉貴を探そうと思うんだ」
唐突過ぎて訳が分からない。
「ちょっと、バカな事言ってないでちゃんと授業に出なさいよ」
「橙子と一緒に居たら姉貴に会えるかもしれないんだろ?」
「なんでそんなことが解るのよ」
「俺も、ぶたまんも、姉貴の幽霊に会った事がないのに橙子は会ってる」
「尼崎先生は関係ないじゃない」
「いや、姉貴はきっと真っ先にアイツの所に行くはずなんだよ」
全然、話が見えてこない。
「姉貴はずっと前からアイツの事が好きだったんだ。あんな奴のどこがいいのか分からないけどさ」
自分で言っておきながら蒼介は不満そうな顔だった。
「そうだったんだ。でも尼崎先生は茜さんの事を好きだったのかな?」
「それは解らない。ぶたまんは、その話になるとすぐにはぐらかしてた。大人ぶって答えようとしないくせに否定もしないのがムカつく」
「なんで貴方がムカつくのよ」
「だって姉貴はあの日、アイツに会う為に出かけて事故にあったんだ」
先生にはきっと先生の立場があったのだろうと思う。
でも、茜さんの気持ちが伝わっていないはずはないし、何らかの返事はあってもよかったんじゃないだろうか。
そんな事を想うと少し切なくなった。
なぜ、茜さんは先生の前ではなく私の前に姿を現したのだろうか。