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ひとりめ
夏は暑いんだよ。
君が居なくても、なんら変わりない日常が流れていく。
電車の窓から見える景色みたいに、全然違うのに似通った町並みみたいだ。
私は死にたくなるような恋を一度だけ経験したことがある。
「今夜、うちに泊まりに来いよ」
蒼介の言葉に、私は内心浮かれていた。
メールのやり取りから何となく付き合ってみようという事になり、何度かデートをしてみて笑い方とかご飯の食べ方とか、そういう一つ一つが私の好みに合っていて、好きだなぁと思い始めていた。
「いいの?」
「ごめん、まだ早いかな? 無理にとは言わないから」
「ありがとう。嬉しい」
ここで舞い上がり過ぎるのも何だかはしたないような気がして、かなり自制して返事を伝えた。
「じゃあ、バイト終わりに連絡いれるね」
「うん、それまでに掃除しとく」
「部屋、汚そうだもんね」
私が冗談を言って、彼が笑った。
本当に、好きな笑顔だった。