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いつか出会った夏  作者: 桜花
2/2

知夏偏


ある日の夏の日。


いつも通り、口癖のごとく、私、神田知夏(15)が告げる。


「ヒマだぁ………。」


そう言いながら、ゴロゴロしていた。


友だちがいるわけでもなく、遊ぶあてもあるわけじゃないから、ただただ、家でゴロゴロしながらヒマをもて余しているだけ。


何もせずに。


だから、母親も毎日のようにあきれた口調で言うのだった。


「あんたねぇ、たまには外行ってやりたいことでも見つけたら?」


そんな簡単に見つかるなら、苦労もしなきゃ、つまらない思いだってしないだろう。


私だって、いつまでもこんなんじゃダメなことは、分かっている。


いい加減になにかやりたいことを見つけたい。


そう思った矢先。


夏休みも8月で真っ盛りになった時だった。


東京のとある町に住む母親方のおばあちゃんが倒れてしまった。


あまりにも突然だったため、私もお母さんもパニック。


おばあちゃんも心配だったが、おじいちゃんも身体が強くはない。


そのため、私が夏休み終わるまでの間だけ面倒を見に行くのだ。


おじいちゃんの家はほんとに東京の小さな町でなにもない。


秋葉原や池袋など栄えた場所ではなかった。


(……じーちゃんの家の近く、中学校あったよな。)


………なんてことを思い出す。


私の住むところから、おじいちゃんの家までは、電車で一時間ちょいと、行こうと思えば簡単に行けてしまう。


だけど、案外、電車に揺られる時間が長いため、ウトウトしてしまうのだ。


そのとき、私は夢を見た。


大切な何かを思い出させてくれるような…………。


駅からおじいちゃんの家はそう遠くないため、歩いていけてしまう。


駅に着くと、一度伸びをしてから、あるきだす。


たかが、おじいちゃん家なのだが、やはり、いつもと違った空気に浮かれてしまうのだ。

十五分ちょっと歩けばおじいちゃんの家。


家の近くまで行くと、おじいちゃんが待ちかねていた。


「知夏~!知夏~!」


大声で名前を叫ばれる。


私はおじいちゃんにかけよった。


「おじいちゃん!」


「いやぁ、よく来たね。」


キュッと笑うおじいちゃんの笑顔はとても優しかった。


そのときだ。


どこかの中学生が猛ダッシュで走ってくる。


一人の男子中学生はちょうど、杖をついて歩いたおばあちゃんにぶつかってしまったのだ。


私とおじいちゃんは慌てて駆け寄る。


「大丈夫ですか?」


おじいちゃんはおばあさんを支えながら立たせると、自分の家に入れた。


逃げようとする男子中学生に私は持っていたものを放り出して追いかける。


「待ちなさいよ、そこのバカ男子!」


自分でもびっくりするほどの大声を出して追いかけるが、もちろん、足の遅い私が追いつけるわけもなかった。


けれど、目の前に小石が見えて、一つ思う。


男子中学生は走るのをやめていた。


恐らく、余裕ぶっこいてるんだろう。


私は男子中学生めがけて、連続して小石を蹴飛ばすと、それぞれ、頭や腰、足や腕に当たった。


男子中学生たちはその場にしゃがみこむ。


「よしっ!」


そう言って、男子中学生たちの前に立ちはだかる。


「あんたたち。おばあさんに謝りなよ。」


「はあ?やだし。」


「…………」


「なんで、謝らなくちゃいけないんだよ。」


「そうだよ。ババァが勝手に転けたんだろ。」


なんて、身勝手な言い訳だ。


私はあきれてしまって言葉も出ない。


だけど、一人だけ黙っていた男の子がいた。


弁解もせず、言い訳もせずにただ黙っていた。


私はそれにもあきれる。


「なんだっていいけど、これでおばあさんが骨でも折ってたら、あんたたち、訴えられるからね。」


男子中学生たちは唖然。


ムキになって言い返してくる。


「なんだよ、それ!?」


「マジで意味わかんねぇし!たかが、コケただけだろ?!」


私は怒りを抑えて言う。


「…そりゃ、あんたたちはたかがぶつかっただけ、たかがコケただけだろうけど、おばあさんって言うのはさ、脆いのよ。

脆いから、ちょっとコケただけでも、死んじゃったり、動けなくて寝たきりになっちゃうんだよ。」


必死に訴えた。


おばあさんに怪我をさせるのが、どれだけ、思い罪なのか……。


どれだけ、おばあさんが脆いのか…………。


もちろん、男子中学生には分からない。


私はしだいに馬鹿馬鹿しくなってしまった。


「……もういいや。あんたらに何言っても無駄だし、私、おばあさん心配だから帰る。」


偉そうに……、調子こいて…………などとブツブツ文句を言っていたのはよく聞こえた。


だからこそ、一緒に話していて、頭が痛くなるし、何を言っても無駄。


私は大きなため息をついた。


大きなため息をついてから、おじいちゃん家へと向かったのだった……………………。

おじいちゃんの家に着くと、一人の少年が抱き着いてくる。


「ちかちゃん!」


幼く明るい笑顔がとても可愛い。


誰だっけ……この子…………。


悩んでるヒマもなく、その子に手を引かれて走り出した。


戸惑う私。


かん高い笑い声。


「ね、ねえ!どこ行くの?」


私の問いかけには答えない。


少年は一度はくるっと振り向き、ニッと笑う。


まるで、着くまで秘密といったところだ。


仕方なしに着いていく。


けれど、私はふいに目を疑う。


なんたって、さっき公園の麦畑を突っ切っていたはずが、今はどこかの林だ。


魔法にかかっているようで、頭がおかしくなる。


すると、少年はニヒッと笑って言った。


「ボクたちのひみつのばしょだよ。」


少年が見せてくれたのは掘っ立て小屋。


だけど、子ども心くすぐるようなワクワク感を誘うひみつ基地。


そんなひみつ基地に目を輝かせるが、またも引っかかる。


「ねえ、「僕たち」って……君、私を知ってるの?」


やはり、私の問いかけには答えない。


少年はごまかすかのように私を小屋に押し込む。


ビックリ仰天!


小屋の中もファンタジー感溢れるものだった。


天井はプラネタリウムみたいな星空の絵が描いてあって、床には草花の絵が。


家具などは手作り感がすごくて、胸の高まりがおさまらない。


そんな私にギュッと手をにぎって、少年はニッと笑う。


「……ボクはなつき。なつきだよ。ちかちゃん。」


「なつき…………。」


その名前は懐かしさとともに…………。


胸がざわつき始めたのだった…………。

なつきは手作りの椅子に腰をかけて言った。


「何して遊ぶ?」


子どもじみた目。


私は思わず微笑んでしまった。


そして、とことん遊んでやろうと思ったのだ。


「そうだね。」


ただそれだけ言った。


なつきがまたまた、ニッと笑う。


「じゃあ、ちかちゃんがすきなきのぼりしよう。」


昔好きだった木登り。


やっぱり、なつきは私を知っているんだ、そう思ったけれど、問いかけるのはやめた。


どうせ、またごまかされる。


なにより、なつきの秘密に気付いてしまったら………もう二度と彼に会えなくなってしまう気がしてしまったから。


「レッツゴー!」


そう言って、なつきは思い切り私の手を引いた。


引かれるがまま駆け出した。


いつも、つまらなかった夏の日。


だけど、今は違う。


なぜか心が踊り出す。


なつきといるだけで、楽しくてしょうがない気分になって、何かありえないことが起こりそうだった。


根拠なんてない。


むしろ、いらないんじゃないだろうか。


なつきに連れられて来た大きな木。


「さあ、のぼろうよ!」


登ろうとして、その木にふれると…………。


サァァァァァ


勢いのいい風が吹き付ける。


まるで、私にやめとけとでも言うように…………。


私はしり込みしてしまう。


けれど、もうかなりの高さまで登ったなつきが促す。


「どうしたの?ちかちゃん、のぼらないの?」


私は苦笑いして断る。


「……この木はやめとくよ。」


そう聞くと、なつきが降りてくる。


「じゃあ、やめよっか。」


そう言ってまたも手を引いて、別の木へ。


私たちは日が暮れるまで木登りをして遊んだ。


あきることなく、ずっとずっと遊んだ……………………。

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