4話
「おい、そこのバカ共!」
薫は目の前に聳え立つ、年期の入った建物を指差した。まだ昼過ぎなのに、おどろおどろしい雰囲気を醸し出している。
皆、外観だけ見て尻込みしてしまうのか、思ったより混んでいない。
ふと、女の子達が何かを囲み「きゃー」と、黄色い声を上げている。
人集りの中心には、ここのコスチュームなのか白衣を見に纏った、長身の男が見える。男は「また後でね」と、微笑み此方に歩いて来た。
「ダブルデートかな? 若いっていいねー」
薫達を見て男は微笑む。男の顔を間近にして薫は納得した。菖蒲色の長い前髪から片方だけ覗く緑色の瞳、ミステリアスで何とも言えない雰囲気を醸し出している。
何より物凄く端正な顔立ち。胸元に目をやると〝椿〟と言うネームプレートが着けてある。
「お兄さんかっこいーね」
「うわ、凄い美形」
景兎と凛々が椿を見つめ口々に呟く、椿はそんな二人の目線に合わせ屈むと、少し目を細め「もう少し大人になったら遊んであげるから、その時は是非」と、彼女達の頭に着いているカチューシャの耳をピンと弾き去って行った。
「なーんか嫌な感じー」
憂己が椿の後ろ姿を睨みながら言う。彼の言葉に薫も同意し頷くと、今だにウットリとしている景兎の頭を小突いた。
前に並んでいた数組が次々に「恐怖迷宮」に入って行き、とうとう自分達の順番だ。
椿が薫達の元にやって来てメガネのようなものを順番に配ると、説明を始める。
「今手渡したメガネを掛けて、中に入って貰います。期間限定でコラボしているでしょう? それ、特殊な仕組みで、中で掛けると……ゾンビやら何やら、とにかく敵が実際その場に居るように見える! その敵達を、倒しながらゴールに辿り着いて貰いまーす」
椿のニコニコとした説明が終わると、景兎が興奮しながら「はい!」と、勢いよく手を挙げる。
「何でしょう? 子ウサギちゃん」
「武器は銃も使用可ですか?」
「もちろん! 刀や包丁、ハリセンやまな板なども用意してありますよ?」
椿はニッコリと笑う。ハリセンとかまな板を選ぶ人なんか居るんだろうか?と薫や凛々、憂己は疑問に思いつつ説明の続きを聞く。
「普段はこういう仕様じゃないから説明難しいんだけど……敵を倒せば倒す程点数が加算されて、得点に応じて素敵なプレゼントもあるから、とりあえず頑張ってね?」
武器の置いてあるブースに通されると「この中から選んでね?」と椿が、色々と並べてくれる。勿論、精巧に作られたニセモノだが本当に良く出来ている。拳銃、刀、包丁、金属バット、ハリセン、鍋の蓋……。
景兎は真っ先に拳銃を手に持ち「撃ちまくるぜぃ♪」と、嬉しそうにしている。
凛々、憂己は剣道部と言う事もあり、一番扱い易いだろうと刀を手に取り、薫は少し悩んだが拳銃を選んだ。
椿は彼らが選んだ事を確認すると、四人を中へ誘導し「さぁ、頑張って行ってらっしゃい」と、バタンと勢い良く扉を閉める。
施錠しながら椿は「あは、無事に出て来られるかな?」と、小さく呟き、楽しそうに笑った。