3話
「ここのお化け屋敷ってすっごく面白いらしいよ?ドリームランドに来る人ってお化け屋敷目的で来る人多いし、折角来たんだし入らないと……」
彼の言う通り、ドリームランドのお化け屋敷「恐怖迷宮」はジェットコースター同様目玉の一つで、日本一いや、世界一怖いと言われている。
しかも、実際使われていた廃病院をそのまま改装して作られており、入って出てくるまでの所要時間約一時間。これ程長いお化け屋敷は他にないだろう。
「それにね、色々おもしろーい話があるんだよ?薫くんは聞いたことないかな?」
「廃病院を改装して作ったって話?」
憂己は「甘いなぁ」と言うと、頬杖を組み直して続ける。
「お化け屋敷にね、本物が出るって噂。螺旋階段にね白いワンピースの女の子が立って手招きしてるんだって。見てみたいよねー?ほ、ん、も、の」
「ぎゃあああ!むりむりむりむり!ほんっと無理!」
「入るなら、にぃと薫くんで入って来なさいよ!」
景兎と凛々が抱き合いながら涙目になって言う。お化けの類いが嫌いな二人にとって約一時間も怖い思いをし続けるなんて拷問だ。
「何が悲しくて、男と二人で入らなきゃならないんだ」
「同じくー!薫と入ったってつまんなーい、凛々ちゃんの鼻水垂らしながら泣き喚く顔がみたいのにー」
「にぃの馬鹿!変態!」
口々に出る薫と憂己の不満に『まずい、何とかして阻止しないと』とソワソワする景兎と凛々。そんな二人を見てニヤニヤとする憂己。『本当ドSだ』と薫は呆れた顔をする。
「あ!」と、何か思い出したのか憂己が声を上げると景兎に向かってニコニコと話し始める。
「景兎ちゃん、今ね、ゾンビハザードとお化け屋敷がコラボしてて……」
〝ゾンビハザード〟という言葉に景兎が反応する。そんな彼女を見て凛々は『まずい』と感じたのか、「にぃ!」と憂己を睨みつけた。そんな凛々を鼻で笑うと憂己は続ける。
「詳しくは解らないんだけど、銃とかを使ってお化け屋敷に出てくる敵を倒しまくって進む、一風変わったシステムになってるらしいよ?」
さっきまで嫌だ嫌だと言っていた景兎は一瞬で心変わりしたようで、ピンピンしている。
「凛々ちゃん?入るよね?入らないなら絶交だよ☆」
凛々の肩をポンポンと叩き、さっきの腹いせとばかりに彼女に笑顔で言う。
凛々は目にいっぱい涙を溜めた後、テーブルに顔を伏せた。
嫌がる凛々をズルズルと強引に連れて歩く憂己を筆頭に薫と景兎が続く。景兎は鼻歌を歌いながらご機嫌な様子だ。
「ゾンビ〜♪景兎さまが駆逐するぜぃ♪」
薫の服を景兎が引っ張る。振り返ると道端にクレープを売っているワゴンがあり景兎が買ってこいと言わんばかりに指を指す。
「腹が減っては戦は出来ぬ!景兎はバナナチョコ生クリームを所望しておる!早くせぬか!」
ふざけた発言に呆れながら薫は「はいはい」と返事する。なんだかんだ言って薫は景兎に甘い。
「クレープかぁ、俺ツナサラダ。凛々ちゃんはー?」
「イチゴ生クリーム……」
景兎に便乗して憂己と凛々が口々に告げ、薫は溜め息を一つして、渋々買いに向かった。
「つ、ツナサラダだと……!」
「ん?なかなか美味しいよ、俺は甘ったるい生クリームなんかより全然好き」
景兎は信じられないと言った目で憂己を見つめる。薫がクレープを両手に帰って来ると、飛びつくように景兎と凛々がクレープを奪い取りかぶり付く。
「甘ぁい、幸せー」
「景兎ったら、口の周りクリームだらけ!端ない!」
口の周りにクリームを付け、口いっぱいに頬張る景兎。凛々は口の周りのクリームを可愛らしい白いレースのハンカチで拭う。
「凛々ちゃんもね?」と、憂己は馬鹿にしたように鼻で笑うと、クリームを指で掬い自分口に含む。
「まぁ凛々ちゃんたら、端ない!」
憂己と景兎に馬鹿にされて、凛々は顔を真っ赤にして俯いた。






