2話
「かおる……二人だけで来たかったね」
景兎が控えめに囁く様に言った。薫はドキッとする。
「な、何言ってんだよ! お前と二人だけなんて嫌だね!」
「はぁ? 何勘違いしてんの? 気持ち悪い」
景兎が吐き捨てる。
「凛々達に付き合ってたら身が持たないって言ってんの!」
確かに、絶叫三昧なんて、臓物ぶち撒けて野垂れ死ぬかもしれない。
「とにかく、絶叫マシンなんてもう 二度と乗りたくない!」
景兎がお腹を摩りながら言う。
「はぁ、お腹減ったー」
控えめに鳴る景兎のお腹の虫。「そうだな」と、薫は時計を見る。時刻は十二時半。
「憂己達が帰って来たらお昼にするか」
「さんせーい!」
〝お昼〟に景兎の顔が一気に明るくなった。園内マップを広げて嬉しそうにランチを考えている彼女を見て薫の頬が緩む。
「そういえば、ここのカレー絶品らしいよ?」
マップ内のフードコートを指さして景兎が言う。『昨日の夕飯カレーだったな』と薫は言い掛けたが機嫌を損ねてしまうと確信し、彼女の提案に乗ることにした。
「そこにしようか」
「うん! 楽しみー!」
「あら?ヘタレのお二人さん、顔色良くなったみたいね?」
凛々の馬鹿にした声に顔を上げると憂己と凛々が立っていた。
「凛々ちゃーん!お昼だよ、お昼!」
景兎が凛々に抱き着く。憂己も凛々もお腹が空いたらしいので、移動することにした。
「あれ可愛いー!凛々ちゃん一緒に付けよう!」
凛々の手を強引に引き、小走りでワゴンに向かう景兎。薫と憂己も後を追うと、ワゴンで販売されている、ドリームランドのキャラクターグッツの数々。
「えへへ、似合う?」
景兎はラッピーのウサ耳の着いたカチューシャを付けて薫に駆け寄る。
「可愛い、可愛い」
「げ、棒読み!サイテー!」
銀色の髪にピンクの耳がよく映える。
小柄でぴょこぴょこと走り回る景兎は本当に可愛い子ウサギの様でつい頬が緩んでしまう。
「素直じゃないねー」
緩んだ薫の顔を見て、憂己は呆れながら薫を小突いた。
凛々はミミィの白い猫耳のカチューシャを買わされ、文句を言いながらも着けて歩く。長い黒髪で少しツンとした綺麗な顔立ちに良く似合い、感心していると、ペチンと景兎に叩かれた。
フードコートに着くと休日の昼時だけあって沢山の人で賑わっている。四人はそれぞれ景兎と凛々は甘口、薫は中辛、憂己は辛口のカレーを頼み席に着く。
「いっただきまーす」
景兎が幸せそうにカレーを頬張る。
「お口の中がトロトロー」
〝絶品〟と言うだけあって本当に美味い。あっと言う間に平らげてしまい、満腹感に浸っていると、憂己が頬杖を尽きながら言った。
「ねー、これからのご予定は?」
「絶叫系は却下!」
景兎が冷や汗をかきながら嫌々する、凛々は小さく舌打ちをした。
「お化け屋敷とかどーお?」
憂己が薄ら笑いを浮かべながら提案する、景兎は薫の服を引っ張りムッとしながら言う。
「お化け屋敷って……別の意味で絶叫系じゃん!」