俺って色々複雑だった
━━━何か変な感じがする
ほんの少し引っかかった。彼が名乗ったときに、ほんの僅かだったが違和感を感じたのだ。
彼の名前を聞いたとき、頭の中で"否"いう警鐘が鳴った。
あまり気持ちがいいものではないので、真正面から聞いてみることにする。
「……おまえは、本当にアズールという名前なのか?」
そう尋ねると、アズールは僅かばかり訝しげな顔をした。
「別におまえの名前についてどうのこうの文句をつけたいわけではないが……少しばかり違和感があるというか、なんとなく違うような気がした」
そう言い添えるも、聞いているアズールが少しずつ瞠目していくのを見て、何となく決まりが悪くなる。
「その………」
言葉に詰まる暁の姿を、アズールは訝しげに見つめていた。が、唐突に思い至ったようで、ふと納得したような表情を浮かべた。
「………ああ、成程、そういうことですか」
「は?」
「……いえ、失礼致しました。まさか、ご存知ではなかったとは知りませんでしたので」
少々癇に障る態度ではあったが、話の腰を折るのも嫌で、黙って続きを促した。アズールは、それを確認すると丁寧に話し始めた。
「確かに、アズールというのは私の真名ではありません。仮名です。ただ、思うところがあって真名を教えなかったわけではありません。本来、真名というのは、そう易々と相手に名乗るものではないのです。知られるということは、相手に服従するも同義なのです」
淡々と、しかし俺にもわかりやすいように説明をしてくれた。そして、それから、と話を続けた。
「ロキ様の場合はその名前自体が仮名であり、真名ではありませんので問題はありません。……ですが、仕えるものとしては、せめて前世とやらの名前は教えていただきたいのですか」
感情のない機会人形のように、ただひたすらに淡々と言葉を綴るアズールに何とも言えない心境だった。だがその言葉に答える前に、聞いておきたいことがあった。
「なぁ、俺とは一体なんだ?邪神によって造られたものだから、魔物か悪魔だと思っていたんだが。どうも違うような気がした」
言いたいことを率直に言う暁に、アズールは怪訝そうな顔をしたが、淡々と答える。
「確かに普通はそうですが、ロキ様は邪神の眷属であられる。邪神とは邪なる神のこと。つまり、神の眷属たる貴方様は神に連なるもの……つまり、神族であらせられるのですよ」
「は?いや、俺が神?ありえないな。何かの罠か、陰謀か」
この俺が神なんていう世界など、この世界が終わっているも同然だ……と戦慄く暁に、アズールがさらに爆弾を落とす。
「あと、私の名はサキヴェルシア。サキと呼んでくださって構いません。そして私は、神と悪魔の間に生まれた神魔という種族です。これから、よろしくお願い致します」
何の興味もなさそうに己れのことをそう紹介したアズールは相変わらずの無表情で、その心理を読み取ることはできなかった。
いつも読んでくださって、ありがとうございますm(__)m