躊躇う刃に鈍るなかれ
長々とお待たせいたしましたm(__)m
楽しんでいただけたら幸いです。
━━━その一瞬の隙が、命取りとなる
一瞬サキの意識が逸れたのを、暁は決して見逃さなかった。暁は素早くサキの懐に滑り込むと、焔を纏った拳を叩き込んだ。
正確に鳩尾に拳を叩き込まれたサキは、為す術なく後ろへと吹き飛ばされる。
岩や樹木を幾つも破壊して、漸く停止した。しかし━━━
「かはっ……けほっ、げほっ…………」
たった一撃喰らっただけで、サキの身体はぼろぼろになっていた。内臓は破裂し、骨も数本折れている。
(……さす、が…に、邪、神が、造っただけ、は…あり、ます、ね…………)
サキが立ち上がろうとすると、支えになっていた岩は砕け落ち、己が身を支えることがキツくなった身体が悲鳴をあげた。
それでも懸命に立ち上がると、全力で回復魔法を自身にかけ幾ばくか回復させる。
身体が回復すると、サキは瞬時に暁の気配を探った。なぜ暁がこのようなことになってしまったのかはわからないが、この隙にティルカの元へ行かせてしまうことだけは避けたかった。
ふと、そこまで考えてサキははっとした。暁をティルカのところへ行かせまいとばかり思っていたが、ティルカには既に別の危険が迫っていたのだと。
「しまった……私としたことが失念していた」
ティルカの身に危険が迫っていることは知っていたはずなのに、それよりも、暁がティルカの元に行くことを食い止めようとしていた。ティルカの安否を気にしてはいたが、そんなことを考えるよりティルカの元に行ったほうがよかったのだ。
ぐっ唇を噛み締め、サキが悔しげに顔を歪める。暁をこのままにしておくことはできない。しかし、ティルカを捨て置くこともできない。どうするべきなのか……
「よくもまぁ、考えることが好きな男だ。小賢しく策でも巡らせるか?サキ」
サキがはっと顔をあげる。またしても隙を見せてしまった。しかし、暁は攻撃をしてくるふうでもなく、ただただ物珍しそうにサキを見ているだけだった。
「その名を呼ぶことを赦したのは主であるアキラ様のみ。貴様に赦した覚えはない」
「ふん。一丁前に減らず口をたたく」
サキは、その繊細な美貌に険をのせ明らかに気分を害したような顔をして暁を睨む。出会ったばかりの頃は暁のことを暁と呼んでいたのだが、暁と呼び直すことにしたのだ。いま思うと、正しい選択だったと心から過去の自分を称賛したサキだった。
それを知ってか知らずか、暁は暁の鋭い刃のような美貌に似合わぬ歪んだ笑みを見せ、なんでもないようにこう言ってのけた。
「なぁサキ。おまえの主は魔将だろう?過去におまえ自身もそう言っていたはず。ならば塵芥のことなど忘れ、魔将たる俺に仕える気はないか?神魔風情がと思ってはいたが、おまえはなかなか骨がある。だから、俺がおまえを使ってやろう」
傲慢な物言いに吐き気がしそうだった。なんと言われようと自分が仕えるのは暁だけだと言おうとしたが、それよりも先に暁が口を開いた。
「ふん。知っているぞ?おまえは暁に不満を抱いているだろう?」
なんのことだと言おうとしたが、声がでなかった。顔が強ばり、言い知れぬ恐怖が沸き上がってきた。
こんな感情、私は知らない━━━━
サキの様子に気づいているのか、暁は誘うように語りかけ続けた。
「確かに暁は強い。凄まじい力を持っている。神魔であるおまえにとって、それは理想以上のものだったろう。だが、共に過ごすにつれ僅かな不満が生まれてしまった。その力に反比例するように、精神が不安定であることだ。最初に比べればマシになったであろう精神も、おまえから見ればまだまだ頑是ない子供と同じ。頼りないものだった……そうだろう?様々な面で精神は暁の妨げとなり、おまえはその事に苛立ちを募らせていった」
「ち、がう……私、は」
「無知であることは周りの者たちをも傷つけ、揺るがす。あの人間、ティルカとやらもそうだろう?あの人間はあの時、明らかに傷ついた表情をしていた。おまえはそれに気づいたが暁は最後まで気づくことなくおまえを伴い、その場を去った。主を重んじるおまえはその時は人間に侮蔑とも言える視線を投げかけたが後になって後悔した。だからこそ、暁とティルカの仲を取り成そうとしたのだろう?」
「私、は……」
「それは偽善だ」
顔面蒼白としたサキを、暁はばさりと切り捨てた。びくりとサキの肩が震える。
「醜い己れ自身を見て見ぬふりをしたかったのだろう?だからティルカの身を異常なまでに案じていた。そうしてまで、おまえは何を保ちたかったのだろうな?」
暁が言葉を募らせていくと同時に、サキは目に見えて憔悴していった。そして
「サキ、俺と共に来るがいい。俺がお前の醜さをすべて受け止めてやろう」
歪な笑みを浮かべた暁の手を、サキは虚ろな瞳で見つめた。そして、サキがその手をとったとき、その瞳も心も、完全に翳ってしまった。
ネタバレになりそうなので、今回はノーコメントで。




