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俺の運は無くなる寸前

いつも、ありがとうございます





……面倒くさい




そう思った暁は、ティルカに説明してもらおうと右を見た……が。




「ティルカ!?」




ティルカはぐったりとした様子で白ローブの男に抱えられていた。




「ふん、気を失わせただけだ。貴様らに再び囚われぬようにな」




不遜な態度でそう言うと、にやりと嫌な笑みを浮かべ、高々と言い放った。




「くっくっく……いいざまだなぁ、いままで我々人間を貶していた悪魔が。だが、もはや貴様らは我々の籠の鳥。さて、どうしてくれようか」




男の嘲笑に便乗して、一部の白ローブの大人たちが罵詈雑言を放つ。他の白ローブの大人たちは、それを嫌そうに見つめていた。




……どうやら、全員が全員同じ考えではないらしい




しかも、奴らは暁とサキを捕らえたつもりでいるようだ……心底くだらないと暁は思った。そして。





━━━カツン





「ぬっ!」



「へ!?」




白ローブの大人たちが、間抜けな声を出した。だろうな。



暁とサキが、白ローブの大人たちが織り成した魔法陣から大股一歩で抜け出たのだから。



この魔法陣には魔に属するものを捕らえる効力があるようだが、暁は眷属とはいえ神なので、無論効かない。神魔であるサキの場合は、その身の半分に流れる神の血が魔法陣の力を無効化したのだ。



だがしかし、そんなことをまったく知らない白ローブの大人たちからすると、暁とサキは異様な存在に見えただろう。



現に、先ほどまで偉そうな態度だった男は顔を青ざめて膝をガクガクと震わせていた。



そんな男たちを冷徹な目で見下ろしながら、サキは静かに暁に問いかけた。




「……アキラ様、この虫けらどもを如何致しましょうか」




虫けらどもって……サキ、お前どんどん口調が悪くなってくな……気持ちはわからないわけではないが。




暁も自然と表情が険しくなる。白ローブの男たちの傍らには、それぞれが召喚した精霊やら聖獣がいる。それらは召喚主の傍で恭しい様子で寄り添っていた。



それらならまだいい。だが、従属させられているもののなかには魔獣や魔物もいた。奴らの様子は尋常ではなかった。



常にビクビクと震え、体を縮こまらせて召喚主から離れて佇んでいた。しかも、傷らしきものが多々あった。



見ればわかる。白ローブの心ない人間たちに、彼らがどんな扱いを受けているのかが。




(たとえ俺が魔の者でなくとも、さすがに腹が立つよな)



サキ共々、静かに怒りを募らせている暁だ。




「サキ……お前の気持ちは痛いほどわかる。だが、すまない。堪えてくれ」




しかし、暁は力に訴えるようなことはしなかった。そして暁の激情を押し殺した声に促され、サキは暁の一歩後ろに控えた。しかし、サキは物騒な雰囲気を隠そうとはしていなかった。



暁もそれをわかっていながら敢えて咎めることはしなかった。




「……ティルカは俺たちの主になった。俺たちはここに争いに来たんじゃない。召喚特名真書しょうかんとくめいしんしょに名を記名しにきただけだ。それが終われば今日はすぐに校内から立ち去ろう……だから、ティルカを返せ」




最後の最後、どうしても怒りを隠すことはできなかったが、それでも丁寧に言ったつもりだ。黙って白ローブの大人たちの返答を待っていたが、彼らは互いの顔を見合わせてぼそぼそと何かを言い合うばかり。いい加減しびれを切らした暁が再び口を開いた瞬間。




「いいではありませんか。うちの生徒が喚んだというのなら、人界こちらがわの味方であるということでしょう?これほどの力を持つものが我らの味方となったのです。心強いではありませんか」




「モ、モリアス様!」



「……?」




白ローブの大人たちが慌てた反応を示した男は、白の長髪に水色の瞳をした穏やかな青年だった。白ローブの大人たちのあまりにもの慌てている様子に暁は怪訝な顔をする。それを見たサキは暁に心のなか(以下テレパシー)で説明してくれた。




『黒ローブを羽織っているということは、人界でも屈指の魔術師ですね。確か、モリアスといいましたね?もし彼がモリアス=ライオネットならば、この人界でも五指に入るほどの実力者だったはずです。最年少で上位魔術師に認定された、稀代の天才とかなんとか』



『そうなのか?……サキは物知りだな。というか、あのローブの色って階級別だったのか』



『はい。一番上は金のローブで、主に皇族出身の上位の魔術師が使用しています。二番目は黒のローブです。モリアスのような上位の魔術師が使用しています。三番目が灰色のローブで、聖職者が使用していますね。四番目が白のローブ。教員や、魔術師免許を持った人間なら誰でも持っていますよ』



『……白ローブって、最下位だったのか』




白ローブの大人たちが、随分と偉そうな態度でいたから偉い部類なのかと思っていたが、そうではないようだ。




「……ということで、よろしいですね」




どうやらサキとテレパシーをしている間に会話が終わってしまったようだ。ちなみに、激情も幾分か収まっていた。




固い面持ちで、黒ローブの青年……モリアスの顔を見据えた。青年はにっこりと優しい笑みを浮かべると、穏やかな口調で言った。




「そのような顔をしないでください。私たちは味方となるのですから」



「……ということは」




サキが警戒した目でモリアスを射貫く。モリアスは特に気にしたふうもなく、先ほどと同じ穏やかな口調で言った。




「はい。召喚特名真書に記名をお願いしますね」




そしてどこから取り出したのか、不思議な色合いの分厚い本を暁の目の前に浮かせた……これも魔法か?




「……お待ちください、まだ召喚主が白ローブの虫けらどもに捕らわれたままなのですが」




サキが不機嫌さ倍増の笑顔でそう言うと、白ローブの大人たちはむっとした様子で叫んだ。




「捕らわれたままだと!?貴様らから護ろうとしただけだろうが!勘違いも甚だしい!」



「おや、勘違いですか?私たちがティルカ殿を人質にしたと勘違いしたのはどこの誰でしょうね?それに護ろうなどと、その虚言も行動の低さも低級悪魔と大して変わらない……いえ、彼ら以下ですかね」




口をパクパクと動かしながらも声が出ていない。図星なのだから当然だ……いや、怒りのあまりに声が出ていないのもあるが。




「……ところで、モリアス殿?」



「なんですか?」



「これほどの力を持つ、と仰っていましたが私たちは貴方がいるときに力を使った覚えはありません。一体いつ、どこから見ていたのですか?」



「っ!」



「……」




暁が息を呑み、ぴくっとモリアスの眉が動いた。サキは特に気にした様子もなく、怖いくらいの笑顔でじっと見つめていた。




「先ほど、ティルカ殿をうちの生徒と仰っていたと記憶しているのですが……ここの関係者ということで間違いありませんね?」



「……鋭い観察力ですね」



「恐れ入ります」




まったく恐れ入っていない様子でサキが答える。そんなサキの様子にモリアスは苦笑しながら、困ったような顔で答えた。




「私は、この学校の理事長を勤めさせていただいています。それゆえ、貴方方のことは始めから見ておりました」



「盗み見ですか。あまり気分のよいものではありませんね」



「失礼いたしました」



「詫びならば結構です」




取りつく島もないというのはこの事だろうかと、ふたりの会話を聞きながら暁は思った。



……そういえば、元々何を話していたのだったか。



暁がそう考えると同時に、サキもそう思ったようである。モリアスのほうを向き、話を戻した。




「話を戻しましょうか。ティルカ殿をお返しいただきたいのです。いま、すぐに」



「はい、勿論です」




そういうと、モリアスはティルカを抱えていた白ローブの男に言ってティルカに気付け薬を服用させた。




「う、う~ん……」



「クロスヴェルムさん、気分は大丈夫ですか」



「へ?……!モ、モリアス様っ!」




ティルカは驚愕しながらいきなり立ち上がると、あちこちにゴツンゴツンとぶつかりながら暁たちのところまで駆けていった。




「わ、私は一体どうしたんですか!?モ、モリアス様はいつからここにいらしたんですか?そ、それに、それに……」




あわあわとした様子で暁に詰め寄るティルカをサキがそっと引き剥がすと、にっこりと黒い笑み浮かべてあとで話しますと呟いた。




「もう帰りましょうか。勿論、召喚特名真書に記名をしてからですけどね。さて、ティルカ殿、お願いしますね」



「は、はい」




ティルカは慌てて返事をすると、サラサラと暁たちの分まで記名する。



記名が終わった瞬間、ティルカと暁とサキを銀色の呪文が繋ぎ、直ぐに霧散した。




「……いまのは」




「け、契約が完全に行われた証でも、あります」



「そのようですね」




しみじみと契約完了を実感している三人に、モリアスが爆弾発言をした




「それでは、力量をはかりますので順番に力を解放して見せては頂けませんか?特に、貴方の炎は直に見てみたいと思っていたのですよ」




にこにこ顔でそう言ったモリアスの言葉に、暁はカチッと固まる。




「如何なされましたか?アキラ様」




不思議そうな顔でサキが問いかける。



暁は口では何も答えなかったものの、テレパシーでサキの心のなかで答えた。




『あのときの炎……まぐれだったんだ』



『……はい?』



『止めなきゃいけない、と思って大怪我を覚悟でサキの前に立ちはだかったら、奇跡的にできたというか何というか……』



『……つまり、無意識だったと』



『……はい』




途方にくれる暁は『二度あることは三度ある』という諺を思い出して、違いはあれども一難には変わりないと肩を落としたのであった。

ありがとうございました。



誤字脱字などがありましたら、遠慮なくご指摘のほど宜しくお願い致します。



感想なども、勿論歓迎します

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