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今日もまた雨が降る

作者: ネガティブ

 空は雲が覆われていて暗く、真っ赤な太陽は隠れて見えない。

 降りしきる雨は街を流れる川の水位を上げている。普段は静かで青くて波もたたない川だが、今はうるさくて濁っていて波があちこちで立っている。

 雨の公園には子ども達は誰一人としていなくて閑散としている。いつもは子ども達に人気の遊具達はただ静かに雨に打たれてびしょびしょだ。

 毎日そこらへんをウロウロしている野良猫は老人ホームで体を丸めている。なるべく邪魔にならないように隅っこで丸まっている猫におじいさんが近寄ってきて、食べるかーとキャットフードを置いた。

 駅前は傘をさした人が沢山いて、真上から見たら様々な模様の傘が動いているから楽しい。花柄、ヒョウ柄、無地、ストライプ、千鳥格子、次から次に現れては動いている。

 黒のランドセルを背負った小学生二人は傘もささず、雨にさらされながら走っている。髪の毛も顔も服もズボンも濡れていて、帰ったら速攻お風呂だろうが、二人は笑顔で走っている。

 中学校のグラウンドには水たまりができている。これは雨が止んでも使えそうにないとバッドを持った監督はため息をつくが、野球部の部員は空いている部屋で腹筋や背筋をしている。

 雨が降っているから川が荒れる、雨が降っているから猫は雨宿りする、雨が降っているから部活ができない。

 ジメジメ、もやもや、もわっと、そんな気温で人の心もそうなる時がある。そうなるのは雨がやる気を流すのだろうか。

 北海道と小笠原諸島を除く日本、朝鮮半島南部、中国の華南や華中の沿海部、および台湾など、東アジアの広範囲においてみられる特有の気象現象で、5月から7月にかけて毎年めぐって来る曇りや雨の多い期間は梅雨という。

 梅の雨、文字にすると綺麗で爽やかな感じがするのだけれど実際はジメジメなのは何故だろう。

 こんなにジメジメするのに爽やかな感じがする梅の雨とはなんか騙された気がする、もっと梅雨に変わる新しい言い方がないだろうか。

 この時期は雨が呆れるぐらい降るが、本格的な夏になると全く降らなくて暑い日が続くことがある。夏こそ雨いるぞと、雨が降ったらちょっとは涼しくなりそうなそんな気がするから。

 この前テレビで気象予報士が言っていた、まだまだ雨が降る日は続きます。もう何日も雨降っているがまだまだっていったいイツまでなんだ、一昨日も昨日も今日も雨で明日も明後日も週間予報で雨マークだった。

 もう雨はお腹いっぱいだから晴れてほしい、そう思っている人は全国に何人もいるはず。

 ほら、そこの青空模様の傘をさして歩いている少年もそう思っているうちの一人だ。雨が降る前まで順調だったみたいだが、雨が降ってからは空と同じく心も曇ったらしくやる気が全く出ないらしい。

 少年は店に入る前に雨空を見上げ、そして「open」と書かれたドアプレートを見てドアノブに手を伸ばした。

 コロンコロンとドアベルが鳴って、いらっしゃいませとカウンンターから女性の声が聞こえた。

 少年はココアと一言、入口近くにある傘立てに青空模様の傘を入れて、そして女性の方を見ずに窓際の席に座った。この席はカウンターからよく見えて、勉強するにはあまりオススメしない席だ。

 そんなに広くない店内、かといってそんなに狭くもない。ちょうどいい広さでBGMも耳障りにならない音量で流れているから、何か話しても迷惑にはならないだろう。

 この曲はなんだろう、何だかお洒落な気がする。しっとりしていてアダルトな感じで女性のセクシーな歌声は、何だかお酒が飲みたくなる雰囲気だ。

 少年は制服姿だ、学校帰りにこの店に寄ったのだ。寄り道をせずに真っ直ぐお家に帰らなくても良いのだろうか。それはすぐに分かる、このあとの二人の会話でわかる。

「学校お疲れ様でした」

 女性は可愛い声で言った。そっと丸いテーブルにココアを置く。

「別に疲れてないよー」

 少年は学校指定の鞄を床に置いた。

「今日も降ってますな」

「また雨だね、晴れてほしいよ」

 少年と女性は窓から外を見た。雨が降っていて、この光景はもう何日も見ているから特に珍しくもなくて飽きている人は多いだろう。てるてる坊主を作りたくなるぐらい雨が続いているから。

「ねえヒロちゃん」

「ヒロちゃん言うな!」

 少年はヒロちゃんと言うみたいだ。

「言うなと言われたら言いたくなるよ! 押すな押すなって言ったら押すのと同じだね」

 女性はピンクのエプロン姿で、とっても良い匂いがした。

「恥ずかしいからヤメロ」

 ヒロちゃんは顔をそらした。頬が赤くなっている。

「別に照れなくっても良いよ」

 女性はヒロちゃんに近づいた。胸が少年の肩に当たっている。

「照れてないよ、だからその……離れて」

「はい離れますよ。ヒロちゃん可愛いなー」

 女性はヒロちゃんから離れてニコニコしている。ヒロちゃんは女性を見て照れている。店に来てこれは客と店員って関係だけではないだろう、この二人はどんな関係だろうか?

 女性は二十代だろうか、十代にも見えないしかといって三十代にも見えないから自然とその間に見える。華奢な体型で、顔が小さく目も小さくて、ガーリーショートスタイルでふんわりとした印象で可愛らしい女性だ。

 ヒロちゃんはドコにでもいるような中学生だ、ザ中学生! どこからみても中学生って感じでこれ以上表現しようがないぐらいだ。体が細いところを見るとスポーツマンではなさそうだ、肌も白いからインドア派なのだろうか。ちょっとは陽光も浴びなくてはダメだぞ、その時は紫外線予防もお忘れなく。

「可愛い可愛い言うなー」

「可愛いから言うんだよ、可愛くなかったら言わないよ」

 女性はカウンターの椅子に座って、ニコニコしながらヒロちゃんを見ている。

 ヒロちゃんは床に置いた学校指定の鞄からcampusノート一冊を取り出して、テーブルの上に置いた。ノートの表紙には赤色で「美味しいお店」と書かれていた。

 ヒロちゃんはグルメで、どうせ食べるなら美味しいものを食べたいという信念を持っている。なので美味しい店をこうやってノートに書いて残しておいて、最終的にこのノート全部を埋めるのが目標らしい。

 因みに記念すべき最初の一件目はこの店だ。それから何件か行って、今は十件ぐらい美味しいお店を見つけた。

 中学生だから当然あんまりお店に行けない、ヒロちゃんのお父さんがグルメだから一緒に着いていくのだ。お店を調べるのはヒロちゃんで、お金を出すのはお父さん、そして二人とも美味しいと認めたお店にお母さんと妹も連れて行くのだ。

「今度私が連れてってあげようか?」

「えっ、良いの?」

「うん全然良いよ、ヒロちゃん可愛いから特別扱いしてやる」

「ありがとう! 可愛くはないけど」

 ヒロちゃんは嬉しそうだが、その表情は笑顔ではない、確かに喜んではいるがどこかしんどそうだ。先ほども言ったが、ヒロちゃんは雨が降ってからは空と同じく心も曇ったらしくやる気が全く出ないらしい。だから素直に喜べないのだろうか。

 パラパラっと十件の美味しいお店の情報が書いてあるノートを捲って、ゆっくりと鞄に戻して、テーブルにうつ伏せになった。

 女性はヒロちゃんを心配しながらも、おかわりというお客様の声で仕事モード。店内にはヒロちゃん以外にお客様は二人、この店の一番奥の席にスポーツ紙を広げている小太りの男とカウンターの隅に髭が素敵なおじいさん。

 二人は常連で、よくこの店に来ているから「いつもの」と言えばそれで注文は通る。

「……」

 ヒロちゃんは無言だ、独り言を言っているのもおかしいからこれが自然だがうつ伏せになっている姿はやる気が感じられない。やる気というやる気がすべて体の外に出てしまったようだ。

「ヒロちゃん、しんどいの?」

「いいや」

「お腹痛いの? 頭痛いの?」

「いいや、どこも痛くない」

「じゃあやる気が出ないのね」

「うん」

 女性はまたカウンターの席に座った。そして「そっかー」と呟いて、腕組みをして天井を見上げて何かを考えている。

 ヒロちゃんの近くにある窓には水滴がついていて、その先に見える光景は相変わらず雨が降る街だった。

 素敵なBGMとリズミカルに聴こえる雨音は案外合っていて、このコラボレーションを聴けるなら梅雨も悪いものじゃないかもしれないと思ってしまう。

 しかしヒロちゃんはやる気が出ないから、このコラボレーションは彼にとっては無意味なのだろう。

「ねえお姉さん、何か良いストレス解消の方法があるか教えて」

「そうだなー、これはもう数日前から言ってるけどお姉ちゃんはストレスとは無縁の人なんだよね」

「……うん、わかっていたよ」

「ゴメンねヒロちゃん、でも私なりに頑張って調べてみたよ」

「えっ、何か教えてくれるの!」

 ヒロちゃんはうつ伏せをやめて顔を上げた。

 そして今ヒロちゃんは女性をお姉さんと言った。お姉さんと気軽に言える関係なのだろう。

「友達に聞いたの。そしたら皆ストレスいっぱいでビックリした」

「普通そうなんじゃないかな? ストレスと無縁なのはお姉さんぐらいだよ」

「そうかなー、私以外の人もノーストレスの人はいるよ。だってストレスあってもしんどいだけじゃん、それならないほうが楽だし」

「そうだけど、この世の中ストレス社会でしょ。だからストレスないほうが珍しいんだって」

「まあいいから、座ってコーヒー飲みな」

 お姉さんは優しい声でそう言った。ヒロちゃんはコクリと頷くと、座って深呼吸をしてコーヒーを一口飲んだ。このコーヒーは何の豆だろう? コーヒー豆には種類が沢山あって、そこから自分好みのモノを見つけるとより美味しくいただける。

 コロンビア、モカ、キリマンジャロ、ブルーマウンテンあたりが有名だろうか。日本ではモカが人気みたいだ。

 何故人はコーヒーを飲むのだろうか、コーヒーじゃなくてもお茶でもジュースでもいくらでも選択肢はあるだろうに。それはコーヒーというモノが特別だからだろう、あの独特の苦味を好んだり単純にカッコイイから、香りがよくて一息つけたりカフェインが欲しくて欲しくてたまらないから、そしてもはや生活の一部となっているからではないだろうか。

 ヒロちゃんは砂糖やクリームを入れていない、何も加えずそのまま飲んでいてブラックコーヒーだ。とても苦いが、これを飲めてこそ大人という雰囲気がどこかしらあって何かを加えるのが恥ずかしくなてしまう。でも無理して飲むのはやめたほうがいい、自分が美味しいと思わなければ意味がない。

「それで、友達から聞いた事は何?」

「まあそう焦りなさんな、可愛いいとこが悩んでいたらお姉さんはすぐに助けるんだから」

「うん……」

 ヒロちゃんは頬が赤くなった。この中学生男子、お姉さんの事が好きのようだ。このぐらいの年頃は女性に興味が出やすくて色々考えて考えて、妄想しまくってしまう傾向がある。それは恋愛とはちょっと違って、性欲というやつだ。

 年上のお姉さんというのは物凄く魅力的だ、綺麗だし可愛いしエロいしでとにかく心が弾んでしまう。お姉さんに何か教えてもらいたいとか、お姉さんに優しくされたいとか、お姉さんになら何されてもいいとか、年上好きはそう思ってしまうのだ。

 ヒロちゃんはどうなんだろうか、頬が赤いところを見ると女性に対して好意があるのかもしれないが。

 っとそんなことより二人の関係がわかった、いとこだったとは。てっきり中学生と喫茶店のお姉さんの、お客様と店員の関係だと思っていた。

「もうね、何も悩まなく適当な人間になって泣いたり笑ったり感情が忙しくして体を休める時はとことん休めて好きな事を極めたら良いの」

「へー」

「まさに私よね、とくに悩み事なんてないし感情は忙しくないけどよく笑うって言われる。休日は寝すぎて逆にしんどくなって、趣味のゲームを超極めてる!」

「ほー」

「悩みには大きなことも小さなこともあるよ、どんなお大きさでもそれは心に住み着いてしんどくするじゃん? そんなの無意味じゃん、何でわざわざ辛い思いして自分の心に住み着かせなきゃいけないのって。それなら悩まない、それで良いそれが一番、そしたらスッキリするよビックリするぐらい」

 そしてお姉さんはニコっと笑った、さっきからずっと笑顔だけど。コロンコロンとドアベルが鳴って、いらっしゃいませとお姉さんはお客様へと声をかける、頭が雨で濡れているのを見たお姉さんはカウンターでお皿を拭いている眼鏡をかけた店長に「タオル!」と一言。

 店長はピタっと動きを止めてお皿をそっと置いて、棚から真っ白なタオルを一枚取り出して渡した。受け取ったタオルを「これどうぞ、私が拭きましょうか?」とお姉さんは笑顔だ。

 お客様は思わず頷いて、濡れた頭をお姉さんへと向けた。お姉さんは雨いつ止むんですかねー、と話しかけながらタオルで水気を取っていく。

 その光景を見ていた他の客は「ズルイ! 俺にもやってくれ!」「今度から頭を濡らしてからここに来ますか」とこの喫茶店の看板娘お姉さんへの気持ちを爆発させた。

「……えええ」

 ヒロちゃんは驚いている様子だ。この数日間ここに毎日来ているヒロちゃんだが、いとこのお姉さんが看板娘だってことを初めて知った。

 お姉さんはこの店で働いていて、この店はたまたま学校の近くで、そして早退したあの日に「ここに来なよヒロちゃん」と言われて。

 そうあれは梅雨が始まるほんの少し前、その時からどうも調子が悪くなってストレスが半端なかった時、なんか急にコンビニのソフトクリーム食いたくなったなと学校の帰りに寄り道した時だった。自動ドアが開いて「らっしゃいませー」という店員の声が聞こえ、ソフトクリームソフトクリームと頭の中がそればかりでレジに一直線で向かったが先客がいたようで、早くどけよと思った時に店員がソフトクリームを持ってきて先客に渡した。先客がありがとうございますと礼を言ってレジからどいた時、お姉さんと目があって、ヒロちゃん久しぶりと今買ったばかりのソフトクリームをくれた。

 先客はお姉さんで、お姉さんとは久しぶりに会ったから凄くドキドキしたのだった。クラスの女子とは全然比べものにならないぐらい魅力的なお姉さん、僕はお姉さんが好きでしょうがなく、たまに会うときは照れてしまってばっかりで上手く話せなくなる。

 私この近くで働いてるの、とお姉さんは勤め先まで案内してくれてコーヒーとチョコケーキを奢ってくれた。テーブルの上にその二つが置かれて、ヒロちゃんにはまだコーヒーもチョコも苦いかな、と優しい表情と優しい声で僕の心を包み込んだ。

 苦いの好きだよ、と嘘をついてコーヒーをそのまま飲んだ。その味はただ苦くて、美味しいはずがなく不味かった。チョコは甘いだろうと食べてみたが、ビターな味で大人だった。

 無理しなくていいよ、とお姉さんは優しい表情と優しい声を残してカウンターへと歩いて行った。

 口の中は苦味が広がって、まだ子どもの僕にはこれは早かったと恥ずかしくなった。しかしお姉さんの奢りだから残してはならない、僕は大人の味をゆっくり味わうことにした。

 ミルク入れても良かったのに、とお姉さんは言ったがそういう事じゃない、これは意地なのだ。そしてその意地を見事に達成した僕は大人になったようなそんな気がした、クラスのヤツの誰よりも大人でビターだ。

 コーヒーを飲み終え、ケーキを食べ終え、僕はお姉さんにお礼を言った。お姉さんは僕が喜んでくれて嬉しかったと笑顔だ。

 お姉さんは店の外まで出てきてくれて、いつでも来てねヒロちゃん、と美しくて可愛くて魅力的に僕に手を振った。

 僕は家に着くまでの間、ドキドキしているこの思いはお姉さんに対するものだろうと確信した。好きというのは色々あるけど、これは男女のそれだろうと生意気にも思った。

 お姉さんは僕を子どもとしか思っていないだろう、可愛い可愛と何回も言っていたから。それでも気持ちは止められなくて、心も頭もお姉さんでいっぱいで勉強とか部活とかもうどうでもよくなってきた。

 家に着いて、扉を開けて閉めて鍵を締めて、靴を脱いで廊下を歩いて階段を上ってまた廊下を歩いて突き当たりにある自室のドアを開けて、鍵を締めて鞄を置いてベッドに寝転んだ。

 扇風機もつけず、窓も開けず、モワっとした空気で暑い部屋で僕はそのまま目を閉じた。久しぶりに夢を見て、その夢はお姉さんの魅力がいっぱい詰まっていた。

 そして翌日から梅雨が始まった。空は青く澄み渡っていなくて、色んな形をした雲も漂っていなくて、灰色の雲に覆われて別世界に来たみたいだった。

 何故かボーっとして、やる気がなくなって、休み時間も授業中も昼食も、ボーっとしていた。友達は凄く心配していた、担任は保健室に行って休んでこいと言った、保健の先生は早退することをすすすめてきた。

 僕は早退した、サイコロを転がしてトークをする番組がやってるぐらいの時間だ。

 家に帰る前に週刊少年誌買っていこうとコンビニに寄った、すると僕が買いたかった週刊少年誌を読んでいるお姉さんがいた。お姉さんはちょうど読み終わったらしく、雑誌を棚に戻してこっちを向いた。

 早退かなと心配していて、いきなりおでこに手をあててきた。僕はドキドキして熱が出そうになった。熱はないみたいね、とお姉さんは僕の頭を優しく撫でた。

 僕はどうやらこの時言ったみたいだ、急にやる気がなくなった事を。言った事は全く覚えていない、覚えているのはジュースと週刊少年誌をお姉さんが買ってくれた事だ。

 そしてこのお店まで一緒に歩いてきて、僕の手を優しく握って言ったこの言葉、ここに来なよヒロちゃん。

 ここなら私がいるし、ヒロちゃんを仕事中も見ていられるし、私がいるならお父さんもお母さんも安心でしょ。私がやる気出させてあげる、私といたら元気になるよってよく言われるからね。

 こうして僕はこのお店に来ているのだ。やる気を奪ったのも姉さんだけど、やる気を出させてくれるのもお姉さんだ。

「ヒロちゃん、何ぼーっとしてるの?」

 お姉さんはヒロちゃんの目の前に顔を寄せている。

「な、なんでもないよ!」

 ヒロちゃんはビックリして声がひっくりがえった。

「何か欲しいものある?」

 お姉さんの優しい表情、優しい声。

「え、欲しいもの? 何急に」

「何か欲しいものプレゼントしたいなーって」

 お姉さんはいい匂い、魅力的。

「そんな急に言われても、ってか貰うの悪いし」

「何で悪いの? 可愛いヒロちゃんが喜ぶ顔見たいんだよ」

 お姉さんが好きです、彼氏にしてください。

「んー、何も貰わなくても喜べるよ」

「そうじゃなくてさー、何かあげるって言ってるから素直に貰っとけば良いの! ヒロちゃんは真面目すぎるなー」

「うん、じゃあ」

 お姉さんがいいです、それしか欲しいものありません。

「ゲーム買って!」

 そんなの言えない、言えるわけない、僕はお姉さんにとってただのいとこ。でも――――

「今度発売するアレで良いかな? 私も買うから一緒に戦いに行こう」

「うん!」

「今度デートしよっか、食べに行く約束もしたことだし。日帰りだからお母さんも心配しないよ」

「うん!!」

「泊まりでどっかに行きたいけどね、この店私いないと無口の店長だけになっちゃうから」

 好きなのはこれからも変わらないよ! 例え片思いでも、子ども扱いされても、お姉さんはクラスの女子と比べものにならないぐらい魅力的な女性なんだ。

「もう大丈夫そうだね、ヒロちゃんの表情良くなってきたよ」

「えへへ」

 ヒロちゃんは笑った、その笑顔を見たお姉さんも笑顔で、その二人を見た無口で無表情な店長までもが笑顔になっていた。店長が笑うのはとても珍しいことなのだ。

 雨はまだ降っているけど、ヒロちゃんのやる気は元に戻るかもしれない。やる気がなくなったのはこの連日降りしきる雨のせいじゃなく、お姉さんへの恋が原因だった。

 恋をすると食欲がなくなると同じように、やる気がなくなったのだろう。

 窓から見える中学生と女性、二人は楽しそうに何かを話している。どんなお話をしているのだろう、それはこの雨音では聞こえない。

 だがその二人の笑顔は、暗くて曇っていて雨が降っている梅雨時にはまるで一筋の光のような、そんな気がしてしまう。








 

 

最後まで読んで下さってありがとうございますヾ(*>▽<*)ノシ 


今回は前回の後書きで予告した通り季節的なモノでした。

テーマは梅雨で、梅雨はジメジメってイメージだからそれをなるべく爽やかーにしてこうなりました!

僕がお姉さん好きなのでちょっと趣味入ってますがwまあでも書いてて楽しかったし満足です。

ジャンルはその他にしようかと悩みました、恋愛だとやる気出ないのがお姉さんが原因ってわかってしまうんじゃないのかって思って。

でも恋愛の方がアクセス数多いしこっちにしましたw


お姉さん書いてて楽しかったのでまた書きたいです!今度はまた違うお姉さんを。ではまた次回です、次回も読んで下さると嬉しいです(〃∇〃)

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