自由への楽園
君のすぐ隣にいる人は、実は世界で一番君の遠くにいる人なんだよ。
だって地球は丸いからね。
言葉は意味を持たない。
ただ、人間がそれに意味を与えるだけだ。
そんな名言を言ったのは誰だっけ。
誰だか忘れちゃったけど、すごく的確な表現だと思うよ。立派な哲学に違いないね。
なんて、俺みたいに高校ですら、お情けで卒業させてもらった人間に偉そうに批評されたくなんかないよね。きっと俺の100倍は立派なこと考えてるんだろうな。
あー、太陽が眩しい。
俺はどうかしちゃったのかもしれない。
好きな子に振られたなんて、人類がこの世に誕生して以来、当たり前に繰り返されてきた日常のはずなのに、自分が当事者になったときは、全然重みが違うよ。マジで。はー。
きっと今までのばちが当たったんだろうな。
悪ふざけばっかしてきたしな。
夜道を一人で、細々と歩く女子高生の後ろから思いっきりダッシュして、すぐ横で
「おまえだー!」
なんて突然叫んで、びっくりさせたこともあったっけ。
電車で推理小説を読んでいる人を見つけて、
降りるほんの直前に「その犯人は田中ですよ。」なんてネタ晴らしして楽しんでたことも
あったっけ。
高層ビルのエレベーターで、2階から17階まで全部のボタンを押して、
自分だけ3階で知らん顔して降りたこともあったっけ。
多分、そんなのが全部繋がって今の俺に帰ってきたんだろうな。
なんて、
いつから俺はそんな因果応報なんて言葉信じるようになっちゃったんだ。
ガキでもあるまいし。
はー、神様、仏様、キリスト様。
どうして俺だけこんな辛い目に合うんでしょう。
確かに悪いことはけっこうやったけどさ。俺よりもっと悪いことやってるやつだって
たくさんいるわけよ。そこんとこわかってんのかなー。居眠りして見逃したんじゃないでしょうね。
今の俺なら、きっと最高に泣けるラブ小説を書けちゃうに違いないんだ。
だって、こんなにせつないんだもの。
きっと、恋愛小説家なんてやつらも
今の俺と同じように好きな子に振られて、ショックでへこんで
そのやり場の無い気持ちをなんとかしようと思って本なんか書いたりしちゃったんだろうね。
うんうん。わかるよ。君らの気持ちが今の俺には痛いほどわかる。
俺は文章書く能力なんて、てんで無いからだめだけど、もうちょっと国語の点数が良かったら
大々的にデビューして、ベストセラーになっちって、今最高に恋心がわかる男なんていわれちゃうんだろうなー。
あー、こんなことだったら国語の桂木の授業もっとちゃんと聞いとくんだったー。
まさか、自分が小説を書けるような体験するとは思わなかったからなー。
この迂闊やろう。
おっと、いけね。妄想が膨らみすぎた。現実に戻らなきゃね。
えーと、なんだっけ。
そうだ。俺は今日好きだった子に振られたんだ。そうそう、あぶね。
あやうく忘れるところだった。
いやいや、忘れたほうが幸せかもよ。
そうすればまた昨日の夜のような幸せな気持ちに戻れる。彼女のこと思い出して好きなだけ幸せな気持ちに浸れるわけだ。
うん、待てよ、でも忘れるって事はまた告白しなおすってことじゃねーか。
そしたら、2度振られることになるじゃねーか。
あぶない、あぶない。こんな気持ちは一度で十分だぜベイビー。
しかし、もしかしたら明日には彼女の気持ちが変わってるって事も考えられるぞ。
そしたら告白しなきゃだめじゃないか。
どうする。どうする俺。
はー。
なんて。
いくら考えても現実は変わんないんだよなー。
もう疲れた。ひとまず家帰ってうんこしよ。それからだな。考えるのは。
はー。
疲れた。
母ちゃん帰ってるかなー。
うん?なんだ、家の前に誰か立ってるぞ?
誰だ?
え?もしかして?
花子ちゃん?
花子ちゃんだー!。
どうする?どうする?俺。
落ち着け!ひとまず落ち着け!深呼吸だ。深呼吸
ひっひっふー!
バカ!それはラマーズ法だろ。何してんだこんな時に。
しかし、なんで花子ちゃんが家の前に?
もしや、さっきの告白のことで。やっぱ気が変わったとか。
あるいは、前から俺のことが好きだったのに、緊張の余り逆のこと言っちゃったとか。
まじかー。
俺ってなんて罪なやつ。このプレイボーイ!この!この!
花子ちゃんたらもうシャイなんだから。
この恥ずかしがりやさん!
あ!こっち見た。
花子ちゃん。
ごめんね君のこと困らせて。今行くよ!
「花子ちゃ〜ん!」
はぁはぁ。
「ごめんね、さっきは急に。それでどうしたの?」
「あ、あの。」
言うぞ言うぞ俺のこと好きだって。
「あのー!」
「うん?」
「私ずっと前から言おうと思ってたんだけど。」
「え?」
「私、私あなたのこと死ぬほど嫌いなの!」
オーマイガー!
読んでくださってありがとうございます。ベタなオチでした。感想をいただけると幸いです。