表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/99

冬の章・23 これからのこと

 今夜の天気予報は、晴れのち曇。ところによって、夜は雪がちらつくらしい。

 だから、夜ともなれば更に冷え込んでいるはずだ。しかし不思議なことに、まったくと言っていいほど寒さを感じない。


 あたたかい。


 互いの体温と心音があまりにも心地好く、ここが大学の敷地内だということを忘れそうになる。

 いくら暗がりで、人気がないからとはいえ……不味い。ずっとこうしていたいが、そろそろ終わりにしなければ。


 声を掛けようとしたその時、ひなたのバッグから携帯電話の振動音が響いてきた。


「電話、じゃないのか?」


 彼女の耳元で囁くと、「あ……」と、思い出したような声を洩らした。


「いえ、あの、大丈夫です」

「出たほうがいい。約束していたのだろう?」


 一瞬躊躇ったが、すぐにコクりと頷いた。


「はい……」


 肩にもたれていた顔を上げると、不安げに誉を見つめる。ひなたの頭に、ぽんと手を乗せて微笑んでみせる。


「店が決まったのかもしれないな」

「……はい。でも」


 言葉を濁して俯くと、飛沢のコートを指先で掴む。


「あと少しだけ……一緒にいたい、です」


 誉は一瞬息を呑む。

 なんてことを言ってくれるんだ。堪らず、長いため息を吐いた。


「すみません、今のはなかったことに……」

「いや、そうではなくて」


 またいらぬ誤解をさせてしまう。恥ずかしいが仕方がない。ごほん、と咳払いをすると、正直な気持ちをそのまま告げる。

 

「そんなに可愛いことを、今は言わないで欲しい」

「すみません…………って、え、え?」 


 柄でもない台詞を口にしてしまった自覚はあった。固まってしまったひなたの細い肩に、ぽんと手を乗せる。


「近いうちに連絡を……携帯にしてもいいだろうか」

「携帯、ですか? 先生ご存じでしたっけ?」

「履歴書に書いてあった」

「あ……そうでした」


 ふふ、と彼女は小さく笑う。もしかして赤らんだ顔を見られたかもしれない。


「……はい。連絡待ってます」




 


 ひなたを見送った後、残された誉は地面に落ちたままのペットボトルを拾い上げた。

 さっきまであんなに温かかったのに、今は冬の夜風が貫くように冷たい。新たに小銭を自販機に放り込むと、今度は温かいコーヒーのボタンを押す。しばらく誰にも買われなかったコーヒーは、ひどく熱くなっていた。

 ふう、とコーヒーで暖まった息が白く染まる。空を仰ぐと、ぽつん、と冷たいものが頬に落ちてきた。


「雪、か」


 さあ、これからどうしようか。


 小さな雪がちらつく空を見つめながら、まだ熱が冷めやらぬため息を吐き出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ