秋の章・18 突然の電話
液晶画面に表示されたのは、父圭介の番号であった。
しかしこんな時間にどうしたというのだろう。
眞子に「失礼」と断りを入れると、電話に出る。
「もしもし」
すると聞こえたのは圭介ではなく、友紀の泣き出しそうな声だった。
『誉さん! 大変です、圭介さんが……階段から落ちて』
「父さんが?」
階段から?
飛沢家の階段は昔ながらのもので、急こう配であり、階段の幅も狭い。幼い頃、何度も階段を転げ落ちたものだ。
――歳を取ると階段がきついね。
誉は階段から落ちることも、足を踏み外すこともなくなった。しかし反比例するように、圭介が頻繁に階段を踏み外すようになっていた。
「それで、容態は?」
サイレンの音が聴こえる。背後が騒がしい。恐らく救急車が到着したのだろう。
『意識が、なくて』
どくん、と心臓が音を立てる。
『これから救急搬送されるんですけど……病院は、わかり次第また連絡します』
「わかりました。わかり次第連絡をお願いします」
通話を切ると、深い溜息を吐いていた。手には汗が滲んでいる。
「飛沢くん?」
気遣うような眞子の声。振り返ると、眞子の表情が不安げに曇る。
「大丈夫……?」
大まかなことは今の会話で把握したのだろう。
「すみません。急用ができてしまって……ホテルはこの道を真っ直ぐ行って、最初の交差点を右に曲がればすぐにわかります」
「わかったわ。ありがとう……早く行って。大丈夫だから」
「すみません」
頭を下げる誉に「いいから、ほら早く行った行った!」と背を押した。
「ありがとうございます」
では、と軽く会釈を残して誉は足早に駅のある方向へと向かっていった。
「あーあ、行っちゃった」
一人残された眞子は、視界から誉の姿が消えるのを確認すると、落胆したように溜め息を吐いた。
ずいぶん間が空いてしまいました。
本当に久しぶりの更新になってしまいました。
そして短くてすみません。
ちゃんと完結はさせるつもりですので、よろしければお付き合いいただきたいと幸いですm(__)m