秋の章・1 なんと明日が結婚式でした
暦の上では九月は秋である。しかし大学の夏休みというものは長い。九月いっぱいまで夏休みという大学も多い。
誉が勤める大学も、例に漏れず九月いっぱいまで休みである。
だからつい九月に入っても夏という感覚が拭えず、二人の結婚式は秋に行われるという印象があまりにも強かった。招待状が届き、具体的な月日を知らされていたというのに、一体どうしたことか「秋」という情報しか誉の記憶に残っていかなった。
件名:父です。
本文:明日の結婚式のことだが、どうぞよろしく。
出勤の仕度をしている最中だった。畳の上に放り出してあった携帯電話を拾い上げた時、父からのメールに気が付いた。
「明日か……」
まだ先だと思っていたのに、早いものだ。
気づけば空もいつの間にか秋の気配。冷やりとした風が肌を撫でる。陽射しは朝から相変わらず強いものの、九月に入ったら途端に秋めいてきた。
何気なく空を仰ぐと、澄んだ青空に鱗のような雲の群れが広がっていた。
すっかり秋の空だな。
ふと、この間も同じような空を見上げていたことを思い出す。
あの時は首が痛くなるくらい雲ばかり見上げていたが、本当は目のやり場に困っていたからだと彼女は気づいていただろうか。
まあ……気づかれても困るか。
雲の隙間から零れる眩しい朝の陽射しに、誉はそっと目を細めた。




