8話:パレットは悩む
「過去をやりなおしたいと思ったことはある?」
声の抑揚を抑えて、なんでもないようにパレットが尋ねる。
「いくらでもあるよ」
「でしょうね、あんな夢見せられちゃ理解もするわ」
「そういう話をしたいわけじゃないだろう?」
「こういう時は遠慮が無いのね」
「気にかけすぎても気味悪いでしょ。話す気があれば聞くし無ければ聞かない。僕ができるのはそれだけだよ」
ポケットに手を突っ込みながらスイリュウは返す。
「改めて訊こうか。パレット、君がやりなおしたい事はなんだい?」
並んで歩く足は緩めずに淡々と訊ねる。
「はぁ、わかったわよ。言うわ」
ため息がスイリュウの横から聞こえる。
「私はね、お姉ちゃんになりたいの」
「知ってる。夢で見た」
変わらずスイリュウは淡々と返す。
「そうね、見たでしょうね。スイリュウは水鉄砲にはしゃぐトウメイにどう感じた?あの娘は元々すっごくお転婆で、お母さんと入れ替わりで外に出れた頃はいつも泥だらけで帰ってたの。
私も巻き添えで泥だらけで、笑いながら家に帰ってた。
お母さんが亡くなって、外に出られなくなってからはずっと本を読んでる。
悲壮感もなく、来る時が来た。って感じでさ、穏やかに笑うの。
あんなに良い子なのに、ひどくない?本当にふざけた呪い。私が先に産まれたら良かったのに。塔の中でいくらでも過ごせる。漫画を描くのだって良いかも。
そうじゃなくたって双子なら半分くらいお姉ちゃんの魔力をもらえれば良かったのに。街は小さくなるけれど、互い違いに外に出れる。旅行だって行ける。魔法都市は無理だけど。
どうしてトウメイなの。私、私ねぇ、どうして」
声が詰まる。嗚咽を漏らし俯くパレットをスイリュウは道脇のベンチに導き、ちり紙を渡す。
「……ありがと。お母さんが亡くなってから毎日同じ事を考えてる。ふと、思考に隙間ができるとずっとこれ。夢見が悪くてもそうだし、お姉ちゃんになれた夢を見ては朝目覚めて虚ろになる。それがパレットっていう人間」
「そうか」
スイリュウは目を合わさず最低限の相槌を打つ。
「でも転機がやってきた。アンタが来てくれて、気まぐれで稽古をつけてくれたお陰でトウメイがこのバカげた呪いから解放されるかもしれない。
けど、最後の一歩の肝心なところで私が邪魔をしてる。きっと、この隠した気持ちがブレーキになってる。それか、考えたくないけどお母さんと外の世界を巡った私を恨んでたりするのかな」
最後は寂しそうにパレットは呟く。
「そう思っていたのは知らなかったよ。夢には出てこなかった」
スイリュウはあの日見た夢の中のパレットを思い返す。
「でも、大丈夫。その気持ちはトウメイに伝わってるよ」
告げるスイリュウの言葉にパレットは「え?」と顔を上げる。
「パレットのばかーー!!!」
パレットの眼前にトウメイが立っていた。




